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「百夜白夜の消失」  作者: 四つ足ジョバンニ
【第二章】 百夜白夜の紛いもの
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仮面の人物


 自室のよりも少し幅広な観音開きの扉を押して入ったリビングは、室内のスペースもより広めにとられていた。

 奥の壁の前に置かれた電気式暖炉で程良く暖められた中、中央に大きめの長テーブルが縦に置かれ、そこに穗村と加賀美が座り珈琲を飲んでいた。

 その穂村は、室内でもご自慢の鹿撃帽を脱いでいない。いい歳した大人がマナーを知らないわけでもないだろうに、見栄えを優先するっていうのには首を捻らざるを得ない。瀬戸家と円谷の姿はない。まだ自室にいるんだろうか。


「晴原様、こちらへ」

 と扉の横に立っていた妻鳥に、それらしく畏まった口調と所作で促されて空いている席に着いた。

 その妻鳥は、このツアー中、この邸の家政婦役として動くということからか、身なりを変えている。今にも、「ご主人様、いらっしゃいませえ」と甘い声で接待されそうな、ホワイトブリムまで被った可愛らしいメイド姿だ。

 ダイビングスクールの講師というから、行動的でさばさばとしているんだろうというのが最初の印象だったが、中々どうしてこういう格好も良く似合っている(指示されて――ではなく、彼女の趣味なのかもしれない)。

 これなら、アキバのメイド喫茶(僕は絶対に立ち寄らないけど)の店員としても十分にやって行けるだろう。

 その所作もまた、雰囲気を感じさせる、中々に堂に入った家政婦ぶりだ。そう言えば、学生時代は演劇部に所属していたとも聞いていた。

 他二人の招待客――瀬戸家と円谷の姿はない。まだ自室にいるんだろうか。

 そのメイド風な妻鳥から、「珈琲はいかがですか」と尋ねられ、「頂きます」と応えると、彼女は、「かしこまりました」とワゴンに載せられていた高級そうな珈琲メーカーのサーバーに既にドリップされていた珈琲をカップに注ぎ、それを僕の前のテーブルに置いた。


          *


 普段安物のインスタントしか味わえない僕が、その芳醇な香りを愉しみながら味わっていると、リビングの扉が開く音がした。

 瀬戸家か円谷だろうかと顔を横に向けると、そこにいたのは、一風変わった風体をした人物だった。

 意味ありげな薄い微笑を浮かべた白い仮面を嵌め、その仮面で隠された顔の裏には束ねられた白髪が覗いている。

 そのファンには言わずと知れた白い仮面を嵌めた人物の登場に、すわ、百夜白夜の登場か!? と僕達招待客は一時騒然となったが、よく見ると、少し様子がおかしい。

 白い仮面こそ嵌めてはいるものの、著作の扉頁で見る氏と違い、グレーのスウェットの上下で、手袋を嵌めてもおらず、首に巻いているのもグレーのネックウォーマーという不自然さだ。

 その百夜のように思える人物は、扉を開けはしたものの、そこで力尽きたかのように、扉の枠に、甲に大きな痣のある左手を突きながらずるずると前屈みに頽れてしまった。その拍子に、胸ポケットに収められていた携帯(氏のブログで紹介されていた珍しい型の衛星携帯だ)がぽろりと床に零れ落ちた。

 そんな息も絶え絶えな百夜に思える人物の元に、「大丈夫ですか、百夜様!」と妻鳥が慌てて駆け寄る。

 妻鳥は床に落ちていた携帯を拾い上げつつ、「招待客の皆さんは、このまま少し待っていてください」と百夜に思える人物に肩を貸しながら、二人でリビングを出て行った。


          *


 そのまま、それぞれに憶測を交わしつつ、五分程待つと、妻鳥が戻って来た。

「妻鳥さん、百夜氏はどうされたんだ?」

 穗村が心配そうに尋ねた。

「そのことに関しては、後ほど招待客の皆様が全員揃われてからにさせてもらいます」

 妻鳥が応え、怪訝な思いをそのままに、残り二人の招待客らがやって来るのを待った。



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