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「百夜白夜の消失」  作者: 四つ足ジョバンニ
【第三章】 百夜白夜の偽装
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謎解き六箇条

 食後の他愛のない会話を続けていると、柱時計が午後八時の鐘を鳴らした。

 それが鳴り終わったかと思うと、壁に埋めこまれて設置されていた四十インチ程のディスプレイが突如点った。

 映し出されたのは、意味ありげな薄い微笑を浮かべた、白い仮面や白革の首輪と手袋を嵌め、白のタキシードに身を包み、白髪を後ろで束ねた、痩身な白ずくめの人物の膝元から上。

 その身なりとコントラストを描く黒く塗られた壁を背に、背凭れのない木製の椅子に足を組みながら座り、白革の手袋を嵌めた両手をその膝の上で重ねている。

 照明が落とされているらしく、薄暗い中、縦に長い画面から見切れている引き違いの硝子戸から差し込んでいると思われる日差しが、その白ずくめの人物に遮られる形で、その背後に、ぼんやりとした筋を斜め後ろに向けて描きながら横切り、奥の床に落ちている。

 今度こそ百夜本人だろうと、招待客一同の目が、ディスプレイへと釘づけになる。

「私のファンでいてくれる皆さん、ようこそ。百夜白夜です。私の主催したミステリィツアーに参加してくれてありがとう」

 加工された電子音声で、慇懃に告げられた。

 さすがは百夜本人だ。あのコスプレした新羅とは、醸し出すオーラがまるで違う。別格だ。 生の声が聞けないのは残念だが――いや、もしかすると氏は、声が出せないのかもしれない。だとすると頑なに覆面作家を貫いているのも納得がいく。だがそれは、一先ずここでは置いておくとしよう。

 百夜は、こうして、映像や電子音声で済ましていることをまず詫びてから、

「この動画は、二階にある私の自室で撮影しているのですが、ライブ映像というわけではなく、皆さんには、録画したものをお送りしています。日付は、今日の十二月二十四日ですが、時刻は――」

 と白革の手袋を嵌めた左手の袖から覗かせたクロノグラフを見やると、

「午後二時を少し過ぎたところです。皆さんがこの邸に到着してから二時間半程が経った頃ということになりますね」

 右の掌を差し向けながら、

「ご覧の通り、昼下がりの穏やかな陽差しが暖めてくれているため、非常に過ごし易いですね」

 僕が邸内の調査をしていたその時間帯にも、各部屋の窓から同じくらいの角度で陽が燦々と差し込んでいて、本当に今晩嵐になるのかと危ぶんだものだ。

そのクロノグラフについてだが、ジャケットの裾に隠れる前に、ちらりと嵌めている時計の一部が覗いた。珍しい品だ。文字盤の数字の向きが左右逆になっていたらしいのを見ると、『逆さ時計』と呼ばれるものだろう。朧気だが、何かのミステリィで犯行トリックに使われていたような覚えがある。

「ですが、予報では夜には嵐となるらしいですね。皆さんはホワイトクリスマスになるよりも、その嵐の到来を望んでいるのではないですか?」

 さすがは百夜。ミステリィファンの気持ちをよく理解してくれている。

 百夜はその後、しばらく世間話に興じた後、

「それでは、あまり無駄話を続けて皆様を焦らすのも気が引けますので、前置きはこれくらいにして本題に入ろうと思います」

 いよいよかと期待が高まる。僕はごくりと生唾を飲んだ。

「これから後、今晩の内に、この邸内である事件が起きます。皆様にはその謎を解いて頂く事になるわけですが、それにあたり幾つかのルールを設けさせてもらうことにしました」

 そこで画面が切り替わり、そのルールについての触れ書きが映し出された。


 1.事件の知らせが届くまでは、用を足す以外は自室で待機しておくように。


 2.事件が起こった現場での捜査は、現場保存という観点から、目視のみによるものとし、   出入りの際などの必要最低限以外は、どこにも手を触れてはならないものとする。

   ただ、妻鳥に許可を得られた場合はその限りではない。


 3.動機については、相応の秘められたものがあるとし、考える必要はないものとする。


4.回答は一人一回限り。

   その推理の披露はこのリビングに一同が集まう中で行うものとする。それ以前に、互   いに理解を得た状態で色々と議論を交わすことは認められる。


 5.二番目以降に推理を披露する者は、当然前にされた推理と同じになってはならないが、   前にされた推理を踏まえた上で新たな推理を導くのはよしとされる。


 6.回答期限は明日の正午、嵐で到着が遅れた警察の科学捜査が介入するまでとする。


 それらの説明が示されてしばらく、画面が切り替わり再び百夜がディスプレイに現れ、「それでは皆さん、素晴らしい惨劇の夜をお愉しみください」との言葉で絞められ、映像はぷつりと途絶えた。


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