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003 (緑色、迷信、激しい存在)<指定なし>

西へ西へ、そのまた西へ、さらに西へと行った先に、蓬莱の山がある。

もっとも、厳格に蓬莱山であるかどうかは定かではなく、人々の伝承によって蓬莱の山であるとされているに過ぎない。


今回、私はその山の麓の街へとやってきた。蓬莱山に登るためではない。

とある店の取材のためだ。


「肉まんじゃないアルよ! 点心アルね!」

店の中で、若い女が騒いでいた。


そう、わたしはこの店の点心を取材しにきたのだ。


この店の点心は都でも有名である。

その卓越した味もさながら、色が緑色なのだ。


噂によると、

「あの店の点心には、龍の鱗が使われているらしい」

だそうだ。


なんとも恐れ多い話だあると感じたものだが、なんでも、当代である閑閑(かんかん)主人の5代前、

喧喧(けんけん)主人が、蓬莱の山で迷った際、龍神の化身に出会ったそうだ。

龍神に帰り道を教えてもらい、無事に家へと帰った彼は、その後、毎日点心を山の祠に供えたそうだ。

その行為を続けること1000と6日、彼の夢枕にその龍神が立ってこう告げた。



「お前の店の点心に、私の鱗を削って使え。滋養もまし、ますます繁盛することだろう。私の鱗は、滝の側の苔の中に混じっている。」



夢から覚めた主人は山に登り、滝へと向かい、そして、龍神の鱗を見つけたと言う。

以来、この店は孫の孫のそのまた息子まで、子々孫々と繁盛しているとのことだ。



「おまちアル!」



さて、その肝心の点心である。

一口食べる。


うまい。確かにうまい。


そのような言い伝えがなかったとしても、十分に繁盛しそうな味である。



「また来るアルね!」



腹ごしらえもそこそこに、私はその山の麓まで向かうことにした。


その店から一刻ほど歩いた場所に、その山の祠はあった。

いたって普通の祠である。



さて、取材に来たはいいものの、いかに記事にしたものか……

このままではつまらない。



あの店の点心の、半分は実は肉まん! とでも書くか……





突如、雷鳴が落ちた。

轂を転がすかのような音とともに豪雨が降り、私は急いで祠へと身を移した。


この雨、どうしたものか、と思っていると、背後から突如、声がした。



「あれは肉まんやない、点心や」



振り向くと、誰もいない。

そして、驚くことに雨も止んでいた。





私は半ば放心状態のまま店へと戻り、老酒と点心を頼んだ。


「ああ、それは龍神様アルね」


と女は言った。


「あなた、よからぬこと考えたアル。肉まんと点心は違うアルよ!」





なるほど、確かにそうかも知れぬ。

肉まんと点心は違う。

よくよく考えてみれば、物の名前を間違える、ということは、人の名前を間違えることと等しいかも知れぬ。




よし、この記事はこの線でいこう。



持ち帰りで、点心を買って土産に持って行こう。



「そっちは肉まんアルよ!」




失敬。




こうして、わたしは蓬莱の麓の街をあとにした。






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