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015 (神様、化石、真の城)<ホラー>


 化石じみた話をしよう。


 これは、歴史が伝説となり、伝説が迷信となり、その迷信すらも風化し、語る人も最早いない、という意味において化石じみている話だ。

そして文字通り、化石の話だ。


「神様を見たことある?」

M美は僕に尋ねた。

「生憎、ないね」

「そう、信心深くないものね、B君は。死んでも心が痛まないものね、例え神様がいなくとも」

「嫌な言い方をするなよ。僕だって地獄よりかは天国に行きたいぜ」

「あら、あなたはどちらかと言えば『じご〇(まる)〇〇(まるまる)く』に行きそうだけれど、天国に行きたいのね」

「何だよ、ジゴマルマル、マルクって」

「自業自得、略して地獄よ」

「酷い言い様だな!」

「それはそうと、天国に行きたい、と仮にも思っているという事は、神様を見た事はなくとも、信じてはいる、という事かしら」

「そりゃ、まあ一応」

僕だって、全くもって神様と関係が無いわけではない。初詣に行くし、受験と時には天満宮にも行った。


 そう、とM美は小さく呟く。

「面識があるわけでもないのに、勝手に頼られるのも迷惑なものよ」と続ける。


「でも、視覚で確認したわけではないのに、信じている、というのは、偶像を必要としていないとも取れるわね」

「まあ、確かに」

「神様、と言えば、少し話がずれるのだけれど、ピラミッドを見たことはある?」

「テレビとかでならな」

直接、見たことはない。

「そのピラミッドなのだけれど、横から見れば三角形、上空から見れば四角形のピラミッドの形についてなのだけれど」

「上から見れば、視覚的に四角形のピラピッドがどうしたって?」

あら、とM美は意外そうだ。

「私の言葉の続きがよくわかったわね」

まあな、と返しておく。

「でも、三角形の味って味覚ではどうなのかしらね、ってところまでは読めなかったようね」

「読めねーよそんなもん!」

「まあ、何はともかく、そのピラミッドについてだけれど、B君、五稜郭は見たことある?」

「何だよ、話が飛んだな。五稜郭もテレビとかでならあるぜ」

「なるほど、どちらも直接見たことはない、という事ね」

「ああ」

「ということは、メディアでしか目にしたことがないという点において、ピラミッドと五稜郭は互角、というわけね」

「そうだよ! もう六角以上はねえよ、僕の負けだよ!」

ふ、とM美は勝ち誇る。

「そろそろ本題に入るのだけれど、ピラミッドには石室があるそうよ。それも、どの通路にも繋がっていない、孤立した石室が」

「なんだ、よく聞く話じゃねーか」

「これ、不思議だと思わない?」

「何が」

「だって、それならもう、埋めてしまってもよかったんじゃないかしら。空間なく、隙間なく、その部屋まで石をびっちりと」

「そりゃ、まあ」

そうだろうけれど。

「その空間に、意味があったんじゃねえの?」

「例えば?」

「そりゃ、空気吸うとか」

「そうね、B君も空気を吸って吐いているだけの生き物だものね、空間は必要よね」

「人を植物みたいに言うな!」

「でも、植物なら太陽の光が必要ね。石室の中にまでは光は届かないでしょうから、枯れてしまうわ。可哀想なB君」

「僕を植物だと決めつけるな!」

「そして、ピラミッドから話はずれるのだけれど」

「ここまで僕を虚仮にしておいてずれるのかよ!」

「とある日本の城の逸話で、同じく開かずの間があった、という言い伝えがあるの」

「開かずの間?」

「厳密には違うわね。石室と同じように、どの通路にも繋がっていない、孤立した部屋よ」

「ふーん。それで?」

「そこに、化石が祀られていた、という話よ。最も、すべてが言い伝えで、真偽の程は定かではないし、これが作り話であることも否定できないのだけれど」

「化石?」

「ええ。なんでも、その地域の神の一部だった、と言われているわね。」

「何で城の中に祀ってたんだ? それも、誰も来れない場所に」

「人柱、とは少し違うらしいわ。一説によれば、隠れ蓑にしていたとか」

「隠れ蓑?」

「そう。攻め込まれた時に、目立つ所に神様を置いておいて、その神様に危害が加えられないように」

「変な話だな。結局、見つかってしまうんだろ?」

「いいえ。それは分からないわ。これは言い伝えよ。それも、真偽が全くわからない類の」

「何だ、そりゃ。つまり、神はいなかったて事か?」

「いいえ。実際にはここにいるわ。私たちが今、話に取り上げているんだもの」

僕はM美の真意を測りかねる。

「あら、偶像崇拝が全てではない、とB君自身も思っているのでしょう? なら、偶像崇拝ではなく、お話だけで存在する神を言うのもありだと私は思うわ」

そうだろうか。

「つまり、実際にその部屋があったかどうではなく、その疑惑が神の存在理由、ってことか」

「ええ」

S美は頷く。

「なんとも、納得のしにくい話だな」

「あら、そうかしら」


「私たちだって普段、心はあると思っているけれど、それを直接目で見たことはないわ」とS美は笑う。


 まあ、確かに。

 僕も、この目でピラミッドも五稜郭も見たことはないが、その存在を信じてしまっている。

 ならば、見たことはないものも含めて、世界は出来ている、のかもしれない。





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