表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/30

001 (虹、クリスマス、ぬれた高校)<SF>

 ホワイトクリスマスなんて、嘘だ。

「嘘じゃないよ、雪は降るよ」

 なんて言うのは、ノスタルジーにかられたアホウ共だけだ。


「昔のコントがほんとになったんじゃ、彼らは予言者だったんじゃ!」

なんて、私の祖父は言っていた。


 どういうこと? って聞いたら、

「1月にこんなに寒かったら、6月はもっと寒いってことじゃの」って言っている。

どういうことなの。


 6月9日、早朝6時。

 私は、駅の青いベンチに腰掛けて、電車がくるのを待っている。


 はぁー、と息を吐いた。

 白い息が、世界に生まれた。


 「こんなに寒い日に、朝練なんてしなくてもいいじゃない」

 私は、オレンジ色のマフラーに首をうずめた。




 地球の磁気が逆転してから、30年がたった。

 最も、私はその15年後に生まれたから、その頃の大騒ぎぶりは知らない。

 地学の先生は、

「まさか、私が生きている間に逆転現象が起きるとは思っていませんでした」

と授業で話す。

「そりゃもちろん、高校時代に、教科書で習いましたし、大学でも直にその頃、つまり昔の地層を研究室で扱ってましたから、現象があることは知ってましたけど、何億年後だと思ってました」


 そうだったらいいのにな、と思う。

 もっとも、どの季節も嫌いなのだけれど。






 地軸が移動するとともに、「クリスマス」は夏に移動した。


 そう、クリスマスではなく、「クリスマス」が昔でいうところの夏、6月に移動したのだ。

 地軸が逆転して世間がてんやわんやの時に、広告代理店が暗躍したらしい。

「夏にもクリスマスがキマース!」

なんてキャッチコピーで売り出したらしい。

 明るく元気に前向きに、地軸の逆転を捉えよう! だそうだ。


 アホか。


 寒いんならチョコも売れるし、なんならもともとのクリスマスは海でパーティーをして、年に二回のクリスマス! 子どもたちは大喜び! が定着していった、らしい。


 ちなみに、多くの親は泣いていたそうだ。真っ赤な赤字のクリスマス。





 地軸が逆転した結果、天候は少しおかしくなった。

 夏と冬が逆転しただけではなく、6月に、雨と雪が同時に見られるようになった。

 専門家によれば、厳密に言えば梅雨ではないそうだけれど、そんなことはわたしにとってはどうでもいい。



 雪も降れば雨も降る。どんよりした灰色の空と、黒っぽい雪。めんどくさい季節だ。



 今朝は、昨日深夜から早朝まで雨が降っていたせいで、路面が凍っていた。

 電車のレールも濡れている。

 きっと、運動場もべちゃべちゃだろう。

 だから、体育館で朝練を行う、と連絡が来た。


「……暖房かけてまで、しなくたっていいじゃない」


 温暖化万歳。


 ホームに列車がやってきた。いつもの、緑色の鈍行列車。

 わたしは、乗客の少ない電車に、いつものようにそっと乗る。




「よっ」

A子だ。

「おはよ」

わたしは短く返す。

「こんな日に朝練なんてなくていいのにねー」とC美。

「ほんとだよ」



 そう、今日は「6月のクリスマス」なのだ。



「昔はさー、朝起きたらプレゼントがあったよねー」

「そうそう、確認して、開けて、喜んで、すぐに学校だからさー」

「でもそれが楽しかったんだよねー」

「「ねー」」

と、B子とC美は話す。

「眠そうやね」

とC美に言われた。

「うん」とだけ返し、目を瞑る。


 なんだか、今日はめんどくさかった。


 その後、B子とC美は部活のめんどくささを語り合っていた。

 うむ、いつもの日常である。クリスマスはいずこ。


 電車が、学校の最寄の駅に停車した。3人、横に並んで歩く。


 みぞれ混じりの、雨が降り出した。

 B子とC美は、まだ話のタネが尽きていなかった。よくそうも話が続くな、と思う。




 駅から学校までは、一本道である。

 閑静な、というよりも、クリスマスにすら開くことのない商店街を抜けると、すぐそこが学校だ。


 灰色の壁と、立派とは言えない時計台が、雨に濡れて光っていた。



「あ」と、思わず、声がこぼれる。

「何?」

「いや、なんでもない」

「変なの」とB子。


 寝ぼけ眼で、見間違えたのかもしれない。

 虹がうっすらと、ほんとうにうっすらと、学校に向けてかかっていた。



 突然、地学の先生と、プリズムのことを思い出した。

 おしゃべりなB子とC美。

 練習好きの部長。

 けだるそうな顧問。


 分光器。



 光が、ばらばらに分かれていく。


 クリスマス感はまったくないけれど、ホワイトクリスマスではないけど、まあいっか、と思う。





 虹の根元には、幸せが埋まっているのだ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ