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2015年/短編まとめ

今年も、いつも通りのクリスマスです

作者: 文崎 美生

クリスマスは日本の行事じゃないから、そんなことを言っていたのは、行事ものの小説を書く幼馴染みを介護する幼馴染みだった。

そんな幼馴染みに介護される方の幼馴染みは、キリスト生誕を祝う行事だからねぇ、なんてキーボードを叩きながら言っていたっけ。


「でも、本当は九月生まれだっけ」


マフラーを口元まで引っ張り上げながら、ほぼ無意識で呟いた言葉に、友人が首を傾げた。

顔を覗き込まれたので、何でもない、と首を振って答える。


キリストが何月生まれとか、私からしたらどうでもいいんだけれど。

いや、クリスマスかキリスト生誕を祝う行事だとか、そういうのもどうでも良かった。

学生である私達にとっては、楽しむことだけが全てだと思う。


「お待たせ」


にこっ、と人の良い笑顔を向けてくる男の子二人。

クラスメイトで、ぼんやりといいなぁ、なんて思っていた人。

私も友人も笑顔を浮かべて、これからどこに行こうか、なんて話をする。


友人は私とは別の人をいいと思っているらしくて、その人にベッタリだ。

私も人のことは言えないけれど。

少し高めの靴でフラついていたら、手を貸してくれてガッツポーズがしたかった。


「でも、意外だったなぁ」


「何がですか?」


「てっきりクリスマスは、幼馴染みの人達と過ごすのかと思ってた」


彼が笑いながら言うので、私も笑った。

私を含むイトコや幼馴染み達は、周り公認のいつめん――俗に言う、いつものメンバーになっているのだ。

私としてもそのメンバーでいるのは楽しいし好きだから、それは嬉しいんだけど……。


「今日は特別なんですよ」


いつも一緒なわけじゃない。

別に同じ家に住んでいるわけでもないし、家はそれなりに近かったりはするけれど、お互いにお互いの領域を守って理解してより良い関係を築いているのだ。


ただ、この日は完全に過ごし方が変わる。

私は毎年、気になる人にアプローチを掛けたり、彼氏がいる時は彼氏と過ごすのが決まり。


幼馴染みである作ちゃん文ちゃんは、基本二人でベッタリだ――と言っても、文ちゃんが自分のことに無頓着な作ちゃんの、介護をしているだけだが。

イトコのオミくんには、毎年毎年申し訳ないけれど、バイトやら何やらを変わってもらうことばかりで、色々どうでも良くなっているみたいだった。


「他の皆は一緒なの?」


「ん?後で集合はしますよ、きっと」


この会話、何となくしたことあるような。

デジャヴっていうんだっけ、なんて考えながら笑顔で答える。

実際、バラバラにクリスマスやら何やらの行事を過ごしていたとしても、大抵最終的には全員で集まってしまうのだ。


本当、何でだろう。

小さく笑い声を漏らせば、彼が首を傾けて、じゃあ、と更に言葉を続けた。

これも、デジャヴ。


「じゃあ、文崎ちゃんも彼氏いないんだ」


ちゃんと彼氏がいた時もあった。

でも、やっぱり何かが違うような気がして、皆と、いつも通り幼馴染み達といる方が楽しいと感じてしまったのだ。

それは、私の心の問題でもあるし、彼氏との相性の問題でもあったとは思うから、仕方がない。


でもそれ以外は文ちゃん、作ちゃん、と交互に出てきたような気がする。

作ちゃんはそういうのに興味が無い上に、人見知りが強いのと人嫌いがあるせいで、結局お近づきになれない人ばかりだ。


でも、文ちゃんは違う。

知っていてスルー出来るし、思いを告げられてもハッキリと答えてしまう。

私からしたら二人共魅力的で、私にはないものを持っているから、私がいいなぁ、と思った人が惹かれたって不思議じゃないとすら思える。

それでも、でも。


「出来たら、その、紹介してもらえないかなぁって」


自分の力で、彼女達をものにしようとしない奴らなんて、大嫌いだ。

私の思いに気付かないで言うくせに、そんなことを軽々しく頼むバカ。

あぁ、でも、私の思いがあってもなくても、三人の幼馴染みを奪われたら、きっと、許せないや。




***




「それで、カップルの多い道路のど真ん中で、その男に平手打ち食らわしたのか」


スヌードを被りながら、嘲笑混じりに言うオミくんは、酷く楽しそうだ。

幼馴染みであり、イトコでもあるオミくんに対しては、恋愛感情なるものを抱けずにここまで成長してきたので、こういう話はしやすい。

その辺は、オミくんも一緒だろう。


ぐずぐずと鼻をすすりながら話す私は、毎度毎度ご苦労さまなことだと思った。

こういうことを経験しているけれど、大して傷ついているわけじゃないことを知っているから。

気になってはいたけれど、いいなぁとは思っていたけれど、そういうことを言われて酷く傷つくなんてことは無かった。


きっとそんなに好きじゃなかったんだろうなぁ、と思うし、若さゆえに焦りもあるのかもしれない。

若くても焦るし、年を食っても焦るんだろうし、どうしようもないなぁ。


「お前が怒ってんのはさぁ、大事な大事な幼馴染みをそういう目で見られてたことだろ」


「……や、文ちゃんならキッパリ断ったりしてくれるとは思うし、分かってるんだけどね」


いくら大切な幼馴染みが、そういう目で見られていたからって、私がそこまで怒るのは違う。

それは知っているんだけれど、と今日の為に気合を入れて結い上げた髪を解く。


「今年も結局、皆でクリスマスかぁ」


「文句あんなら帰れ帰れ」


「やだよ!作ちゃんに甘やかしてもらうもんねぇ!」


身支度を終えたオミくんと一緒に、バイト先のロッカールームを飛び出す。

雪が降っていて、ホワイトクリスマスだなぁ、なんて思いながら、私達は二人並んで、今年も幼馴染み集合のクリスマスのために歩き出した。

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