セレブレッドスパイダーガール~少し未来からこんにちは~
初めての短編です。よかったらどうぞー。
「幸せは歩いてこない。だけど不幸はやってくるのだ」
どこかで聞いたことある歌を勝手にもじって、セリフを作る。これは名言だな、と自画自賛。事実、勝手に幸せは舞い降りてこないのに、不幸は運ばれてくる。他人とかが持ってくるよね。自然だってそうだ。自らの意思とは無関係によくくるもんだなって思う。
「そしてここにもその自然によって不幸を持ち運ばれた少年が1人ー」
ここは公園。そして目の前には可哀相に風船を風に飛ばされたのか、木に盗まれてしまった少年。おー、わんわん泣いてるね。見事な泣きっぷりだ。っと、感心してる場合じゃないか。
「よし、おねーさんが幸せを運んであげよう」
「ふぇ?」
頭を撫でながらそう言うと、少年はきょとんとした顔をしてしまった。ふむ。
「おねーさん、これでも木登り得意だから」
とは言っても久しぶりだねー。まさか大学生になってまで木登りするとは全く思ってなかったな。よいしょっと。おぉ、意外と登れるもんなのか。この年になるとやっぱ怖いもんだね。胸が邪魔だぞこら!お、風船までもうちょっと、かな。おし、取れた!あとは降りるだけだっちゃ。滑らさないよーに、慎重にね、と。はい、降りれましたよっと。
「ほいさ少年!これで君にも幸せが舞い降りたかな?」
「う…うん!ありがとう、おねーちゃん!」
よしよしかわいいなぁ。子供らしくっていいねー。幼稚園か小学校低学年ってとこかな?良い男になるといいね。
「他人の幸せのために生きるんだよ。他人の幸せが自分の幸せさ」
なんて、思ってもないことを。相変わらず適当だな、我ながら。
「さらばだ少年!私にはゲームとレポートが待ってるぜ!」
「え、あ、待って!おねーちゃん!名前は!?」
「ふはははは!セレブレッドスパイダーガールとでも名乗っておこう!」
我ながら何を考えているのか。セレブレッドってどういう意味だろう?自分で言っておいてさっぱりだぜ!わっはっは!颯爽と逃げましょう!どばーん!
◆◆◆
「さて、今日も元気にやっていきましょう!」
街中で叫ぶ。人の目が集まる。気にせず笑ってやる。他人の目なんか気にしてなるものか!私は私らしく生きるのです!そのうち手からエネルギー波とか目からビームとか出してやる!おらに任せろ!
なんて、そんなことうそぶいて何がしたいとか言われたら困るけどね。私のやりたいこと?そんなの私が聞きたいさ!
「あのー」
さぁ、今日は何をしようか。レポートもあるけどゲーセンも行きたい!カラオケもボーリングもしたい!ついでにダンスもしたい!したいぞ!
「あのー!すいませーん!」
ダンスはどういう系にしようか。ストリートダンス?それともあえて社交ダンス?ふ、任せろ。私レベルともなればワルツにタンゴ、サンバだって余裕ですわ。もちろん、リーダー側で。あ、リーダーって男の人の方ね?最近見た某週刊少年雑誌に書いてあった!
「もしもし!おねーさん!」
サンバルンバ何でもござれー。なんで漫画ではスタンダードばっかなんだ!ラテン女舐めてんのか!けっ!闘牛になってお前を刺し殺してやるぞ!わっはっは!
「おねーさんってば!」
「じゃかしいわ!!」
ついに肩をつかまれたので振りほどいてキレる。最近の若者はキレやすいんだぞごらぁ!わかってんのか!
「わ!ごめんなさい!怒んないで!ね?」
「ナンパならお断りだよ!」
ぶっちゃけ私は美人だ!超が付くほどな!ついでに巨乳だね。Gカップ!邪魔くさいし重いし最悪。ついでに男からの目も鬱陶しいし、女子同士で風呂に入るとやたら揉まれるね。めんどくさい。てめえらに揉ませるために私の胸はあるわけじゃないっつーの!
話がそれた。閑話休題。そんなこんなでナンパには慣れている。だからこういうやつらは放っておくに限るな。限ってたんだけど…。
「はぁ、関わってしまった…」
「え、ちょっと、そんな悲しそうな顔しなくても」
「悲しいわ。関わりたくないもの」
正直な本音で生きる。他人に気なんか遣うものか。
「酷いもんだな。傷つくぜ」
「あんたと関わっても私に幸せなんかないわ」
「俺が幸せになる」
「そんなのどうでもいい」
「他人の幸せは自分の幸せだぜ。俺の尊敬する人が言ってた」
「そいつは私とは気が合わなそうなやつね。私の幸せだけが私の幸せだよ」
誰だ全く、そんな幸せ定義した奴は。私もさっき言った気がするけど、私と同じことを言うやつなんて何も考えてないとんだバカかお人好しすぎだね。ろくな死に方しないだろうな。
「あー…。んー…。なるほど?そういう考えもあるの、かな?」
「私は私の生きるままに生きるの。楽しく生きてりゃいいの。座右の銘は一日一善だけど」
「はぁ…なんていうか、気ままに生きてるんだね」
「そうだよ。だからあんたみたいなナンパ男に興味はないの。ついでに暇もない。わかる?」
「ナンパじゃないってば」
「じゃあ何よ」
ナンパ男は存外しつこい。なんだこいつは。何がしたいのやら。やはり私の体目当てか?ふっ、お前みたいな男に私の純潔はくれてやれんさ。あ…口が過ぎたな。どうせ私は生娘だよ。こんな性格だ。彼氏を作ったこともない。
「俺はおねーさん、あんたを守りに来たんだ」
「は?何からよ。私はあんたに守られるほど落ちぶれちゃいないよ」
「何から…。何からだろうな。分からないがあんたは今日、またはこのうちに危険な目に合うんだ」
「ほぅ…」
こいつは一体、何を言っているんだ?新しいタイプのナンパだな。なんかあれだな、『僕がき、君を、き、危険なやつから、守ってあげるから、ね(ブヒブヒ)』みたいな感じ。よく漫画とかで見るよな。
「いや、そんなことないからね!?ストーカーなんて!」
「あら、口に出してたかしら。ごめんあそばせ?」
「あんたと話してると疲れるな…。ったくもう」
なんて失礼なやつだ。自分からナンパしといて疲れるだと!?私にもプライドってもんがあんだぞごらぁ!!
「あー…まぁいいか。俺は未来から来たんだ。あんたを救うためにな」
「なるほど、未来から、ね」
未来人か。私は某アニメの巨乳未来人よりは、時を掛けるタイムリープ少女の方が好きだな。あのアニメのイケメン未来人が特に好み。結婚したいわー。
「じゃ、そゆことで、グッバイ」
「あ、待ってごめん!信じられないと思うけど事実なんだ!」
「信じられないと思うなら言うな!」
「信じられなくても事実だ!」
「なにが事実で、あ、、、」
困ったな。叫んだせいで注目浴びている。少し恥ずかしい。人目を気にするな、とは言ったけど、ね?男と一緒にいると痴話喧嘩だと思われんじゃん?それはさすがに、ちょっと。
「というわけで逃げるぞナンパ男!」
「え、ちょ、あ!!」
目指せ人気のないところ。ん?それってむしろ危ないか?
◆◆◆
「ここまでくれば、まぁいいかな」
「ここって…」
「公園です♪」
はい!というわけで公園です!さっき来たばっかだよ畜生!少年くんは、もういないねー…。残念だ。他人の為とかは嫌だけど少年少女おじいちゃんおばあちゃんのためなら頑張れるんだー。特におじいちゃんおばあちゃん系の話苦手。弱い。すぐ泣いちゃう。もうボロボロ。
「で、私に危険があるって何?もう!せっかくだから話くらい聞いてあげる!なんて優しい私!」
「話聞いてくれるだけマシか、な。もう一度言うが、俺は未来から君を守るために来たんだ」
「はいはい、それはさっき聞いたからね。で、どんな危険なのかな?」
「君は今日、行方不明になるんだ。誰にも行方を告げず、いなくなる。そしてそのまま、その後君を見た人はいない」
行方不明…?なんだそれは。何をどうしてどうなるものか。意味が分からない。
「誘拐、かもしれない。少なくとも俺はそう踏んでる」
「なるほどなー。で、あんたが未来から来たっていう証拠は?」
「ある。この新聞。今から一か月ほど後のものだ。ここに君の家族から載せられた君の行方を捜してほしいという文面がある」
見てみると、おぉ。本当に私の顔だ。実家にある写真だな。1人暮らしの身としては懐かしさがある。
「実家からこんな写真持ってくるだなんて、君はナンパ男じゃなくてストーカーだね?」
「違うっての!全部これ本物だから!本当に!」
「じゃあこれ以外の証拠とかないわけ?」
こんなもんその気になればいくらでも作れるっちゅーねん。普通には無理かもだけど、頑張ればできないことはないだろ、多分。
「じゃ、じゃあこれだ!未来では超能力が使えるようになるんだ!」
「へぇ、それは見てみたいかも」
「ちょっと待ってくれ。このカートリッジにエネルギーを貯めることで能力が使えるように、ってあれ?カートリッジがない!?」
「あ、もしかしてこれのこと?」
カバンの中から黒くて四角形の箱を取り出す。カートリッジってやつなんですかね。
「あ、そうそうそれそれ、ってなんでねーさんそれ持ってるの!?」
「乙女の秘密を聞き出そうなど10年早いぞ!」
「理不尽だ!」
実際にはさっき肩捕まれて振りほどくとき、そのままとっちゃったんだよね。財布だと思ったのに、くそう。
「それ、とりあえず返して!大事なもんだから!」
「ふ、こいつが欲しければ私の暇つぶしに付き合え!」
「さっき暇がないって言ってなかった!?」
「暇つぶしを探すことで暇がなかった」
「斬新だね!?」
いいリアクションだな。ただのナンパ男にしては見どころがある。ん?ただのナンパ男じゃないか。未来から来たナンパ男だったな。そういえば。
「さて!まずはゲーセンだ!いいから黙ってついてこい!」
超能力とやらは後で見せてもらおーっと。
◆◆◆
そんなこんなでゲーセン、カラオケ、ボーリングと色々行ってきたぜ!いぇい!
なんかこれじゃナンパに付き合ってるようなもんだよね。うーん、でもまぁいっかな。こいつなんか憎めないし。話してるとなかなか面白い。主に突っ込みが、だけど。
「君といると面白いねー。おねーさん、楽しくなってきたよ」
「はぁ、それは、よかった、けど、はぁ、さ」
「息切れしてるねー。しょうがない、おねーさんのおっぱい触る?元気出るよ?」
「え?マジで?」
「嘘だわあほ死ね」
誰がお前なんぞに体を許すか。にしてもおっぱいに食いつくとは、こいつ童貞か?
「あ、いや、えと、それより!おねーさん、そろそろカートリッジ返してくれない?それないと困るし、この時代の人がそれ持ってると大変なんだって」
「あー、そうだね。そろそろ私もレポートやりたいし、超能力見て帰るかな」
「帰られちゃ困るんだけど…とりあえず返してくれるんだね?」
「んー。もうちょっとしたらねー」
なんかこの子触ってると気持ちいいんだー。よくわかんないけど、懐かしさみたいの感じる。は!もしやこの中には私の懐かしのグッズが凝集されている!?自分で言ってて意味わかんないけど。
「あとは、なにしよっかな。鬼ごっこだ!1分ここから動くな。範囲はこの市内だ。いくぞ?よーい、どん!」
「え、ちょ、おねーさん!!」
私はこんななりだけど、足はめちゃくちゃ速いんだぞ!胸がなかったらもっと速い。走るとこれ痛いんだってマジで。
ってかこいつ1分待たずに走ってやがる!
「1分待たないと返してやらんからな!」
「あぁ!もう!」
とりあえず止まったようだから後は全力で逃げよう、バビューン。
右へ曲がり左へ曲がり、なんなりしてる間に1分は経ったかな?さて、彼は私に追いつけるのでしょうか。どんどんどん。楽しみだねー。
「で、あなたはどなた様?」
後ろの電柱に向かって、というかそこに隠れてる人に向かっての、発現。
「気づいていたのか」
「とーぜん。あたしのことを誰だと思って言うのかな?」
さっきから尾行されていることには気づいてた。ゲーセンに行く前からずっと。ここまで付いてきてたらこれはもう、アウトだろ。本物のストーカーさんかな。さっきの彼には巻き込むの悪いから逃げさせてもらったけど。本気でやばかった時ように着いてきてくれるかなーって、ね。
出来る限り迷惑はかけたくなかったけど命には代えられないのさ。
「ふむ。その質問にはこう答えよう。紅 楓。国立大学に通う大学2年生。専攻は農学部。出身は北海道。誕生日は3月20日、血液型はA型。趣味はゲーセンに行くこと。」
うわぉ…モノホンのストーカーかよ。よくそこまで調べたな、おい。
「そして、彼氏いない歴=年齢」
「じゃかしいわ!!私には彼氏がいないんじゃない!作らないんだ!私に合う男がいねーんだよ!わかってんのかこのカス!」
なんてことを言うのだ!私はこれでもモテるんだぞ!モテモテだ!かなり頻繁に告白されるんだからな!女子の方が多いっていう欠点はあるけど!畜生!
「あーあ、本当にストーカーにあって行方不明になるなら、あいつを連れてくればよかったな。失敗した」
「ほう?あいつ?そして君は行方不明になることを知っていたのか?」
「なんか変なやつが来てさ、未来から来たーって。行方不明になる君を守りに来たって。案外ホントだったのかね」
「未来から…それは変だな」
「でしょ?変だよね!」
「君が行方不明になるなんて未来は、なかったはずだが」
「ん?どゆこと?」
「私も、未来から来たからね」
はへ?ほへ?どゆことなのー。未来人が二人?なのに矛盾?あれ?えっと、どゆこと?
「私は未来から、君を攫いに来たんだ。君はある、不思議な力を持っていてね。その力が人類に恩恵をもたらした。そして、君は偉大な人物になった。しかし、もし私たちがその力を手に入れられたら?そうすれば富も名声も私たちのものになるんじゃないかと、そう思ってね。だから君を攫いに来た。私たちの、富と名誉のために」
はぁ。なんともまぁ。私は偉大な人物なのか。すげーな、おい。自分でもびっくりだよ。
「だから、君が行方不明になる、ということはおかし…ちっ!そういうことか!」
男が焦ったように私を捕まえにかかってきた。ぐぇ、なにごと!
「ちょ、こっち来んな!イケメンになってから出直せ!え、ちょ、触んな!急にどうしたのよ!」
「君は行方不明になる!今ここでな!故に未来から来たその男がそれを知っていたのなら、それは私からしても未来から来たということ!それはかなりの不都合だ!」
あー、つまり、こゆこと?一週目の世界では私が偉人様で、だけどこいつらが過去に現れて連れ去ることで歴史が変わる。それで始まった二週目の世界ではこいつらが私の能力?を使ってがっぽがっぽしてる。そしてその世界からあのナンパ男が現れた?
あのナンパ男は二週目の世界から一週目の世界に戻そうとしてる、ってこと?
「おっけ!じゃああいつが来るまで逃げ切れば勝てる!?」
「そういうわけにはいかん!」
「チュース!もしくはアウフヴィーダーゼン!」
「いかんと言っているだろう!」
「ぐほっ!」
走り出そうとしたら急に体重くなった。何事!?
「聞いてなかったかい?未来では超能力が使える。君の力によるものだ」
「そういえば、そんなこと、言ってた、かな…」
そうか。超能力って私から出た?のか。ふへー。すげーな。
「いやいやいやいや、使えないけど!使えたら逃げてる、ってぇ、の!」
「君は数年後に覚醒する、らしい。君にはある不思議な元素を作る能力があるようだ。それがなぜ君にあるかはわからない。だが、未来ではそれがまだ量産とはいえないまでも多く作られ始められるようになった。君の力を利用し、化学的に解析していくことでそれは可能となった」
「じゃあ何、私の、能力は、不思議な元素を作る、こと、なの?」
なんともわからん能力ですこと!てかホントこの能力、やばい、息もうまく、できないし。なんだこいつぁ。
「そうとも言えるし違うともいえる。その元素-君の希望でエリスという名前になったのだが―それには不思議なエネルギーがあり、それを利用すると超能力を使えるようになる。つまり君は超能力を使えたし、我々と違ってそのエネルギーは無制限だった」
「うわぉ、最強、じゃん」
しかもエリスって名前が何ともあたしらしい。ラフレンツェでも良かった気がするけど。そっちだと色々問題があったのかな?
「そう、君は最強であった。その気になれば世界を破滅に導けるほどにね。しかし、きみはエネルギーを積極的に供給する術を開発したことで、少しずつだが普遍的となっていった。私がここに来れたのも、君のおかげだ」
「なるほど、ね」
「っと、話過ぎたか。もう君の意識を刈り取ろう。我々のために、犠牲になってくれ」
「最後に、ひとつだけ言わせて」
「なんだ?」
超能力男のの少し後ろを見ながら一言。
「助けが来るまで話してくれて、ありがと」
「うぉらぁ!」
「何!?」
さっきのナンパ男が助けに来てくれた。あ、もうナンパじゃないってわかったか。でも何て呼べばいいんだ?いいや、とりあえずナンパ男で。
「おねーさん!だから危ないって言ったのに!」
「ごめんごめんって。まさか未来から来るなんて信じられないじゃん?」
「そうだけど…ってこいつ!テレビで見た超能力開発した男じゃん!なんで!?どうしてここにいるわけ!?」
驚くナンパ男。私も驚く。いやそっか。こいつの世界では私が行方不明になった原因不明なんだっけ。
「こいつが私を行方不明にした犯人!で、私がホントはもともと超能力使えて、それ広めたらしくて、で、こいつらがそれを自分たちのものにしようと誘拐しに来たの!おk?」
「よくわかんないけど、そいつがおねーさんを誘拐した犯人ってのはわかった!」
そう言って手を突き出すナンパ男。ん?何も起きないぞ?
「なにやってんだナンパ男!」
「え!?あ!そうだよおねーさん!カートリッジ返して!あれないと何もできない!」
「あ、ごめん、ほいほい」
カバンから取り出してナンパ男に渡す。この黒くて四角い箱な。
「あと俺は 恭弥!ナンパ男じゃないから!」
「黙れ!その娘は渡さんぞ!」
「お前こそ黙れ!おねーさんは渡さな、ぐぇ!」
あれ?ナンパ男、じゃなくて恭弥が負けたぞ?どうしたおい!助けに来たんじゃなかったのか!
「エリスが…ない?ちょっとおねーさん!どういうこと!」
「は!?知るかそんなもん!助けに来たなら助けろボケ!」
「ボケってなんだよ!おねーさんに会うまではあったのに!」
「茶番はそこまでだ!おとなしくしていろ!」
誘拐犯がこちらに向かって手を伸ばす。ん?私狙われてる!?
「少しの間、眠っていろ。もしかしたらそのまま起きることはなくなるかもしれないが」
「いやだ!ちょ!やめて!」
そこからの景色は、スローモーションに見えた。男の手から衝撃波みたいなのが空気を揺らがせながら近づいてきて、あ、私これで終わるのかなって。これで人生おかしくなっちゃうのかなって思ってたら、恭弥が私を庇って。そして、衝撃波を食らって、倒れた。
「恭弥!どうしてそこまでするの!何で私のために!」
「おねーさんが、言ったんだぜ…?『他人の幸せは自分の幸せ』だって、さ」
「そんなの、いつ」
「俺からしたら十何年も前。おねーさんからしたら多分、つい最近、だよ。セレブレッドスパイダーガール」
セレブレッド、スパイダーガール?どこかで聞いたような…。
『え、あ、待って!おねーちゃん!名前は!?』
『ふはははは!セレブレッドスパイダーガールとでも名乗っておこう!』
私が、名乗った、名前?でも、どうして、いや、まさか。
「あの時の、少年くん?」
「あは、思い出してくれたんだ。そっか」
風船を取ってあげただけなのに…?そんなことで助けに来てくれたの?
「君、バカだよ。大バカ!」
「うる、さいな。初恋、だったんだよ…」
もう!もう!なんなんだよ!色々と私の許容範囲を超えてるんだよ!
「邪魔が入ったか。クズめ。しかしこれで終わりだ」
「黙れ」
「なんだと?」
「黙れって言ってんだよこのタコ野郎!!てめぇだけは許さねぇ!!」
私を助けてくれた少年くんをクズ呼ばわりたぁなんてやつだ!絶対ぶっ殺す!
「何を言おうと、今の君は無力だ。君に超能力は使えない!」
「うるせぇ!そんなの誰が決めたってんだよ!ぶっ潰す!」
「黙りたまえ!」
誘拐犯によって体にまた、負荷がかかる。しかし、だからって!
「知ったことじゃないっての!」
「何!?」
はじき返す。体から、心から、力を出すようにして。
「何故お前が能力を使えるんだ!」
「気力!」
世の中気力と勢いだ!やってやれないことはないぜベイベー!
「よくわかんないけど、力が使えるならとりあえず未来に帰っとけ!」
「そんな、バカなーーー!?」
よくわかんないまま、力を使って空間が割れて、誘拐犯がいなくなる。万事解決?かな。じゃない!
「あ、少年くん、じゃなくて恭弥!」
「うぅ…」
血が出てる!どっかにぶつけたのかな!?それとも衝撃波そのもの!?えーっと、さっきみたいな感じで。
「治れ!」
恭弥が光に包まれる。そして、血が止まってく。一段落したところで、やめる。
「これで、 大丈夫かな?」
一応、家に連れて帰ろう。
◆◆◆
そんなこんなであれから3日。恭弥は元気になった。私のおかげだ。そして私から詳しい話を聞いて事情を理解したようだ。私が超能力を使える元素―エリス―の開発者で、なんちゃらって話だ。あれから一応は誘拐犯来てないけど、これからどうなるんだろう。
そもそも、今回の事件はタイムパラドックスを考えると激しすぎる。一度未来から変えられただけでもおかしくなるのに、それを変えられた世界の人間が戻すとなると、恭弥の存在はどうなるんだろう。
普通なら存在が消える、とかなのかな?どういう理屈なのかよくわからない。
謎だなー。まぁ、わかんないことは考えてもしゃーないか。
あの時どうして私が超能力を使えたのか。それは恭弥がこう解釈した。
『エリスはもともとおねーさんのもの。だったら俺が持ってたエリスがおねーさんの体に戻ってもおかしくない。それで超能力を使えたんだよ。そう考えたら、俺が持ってたカートリッジにエリスがなくなったのも納得できる』
なるほどなー。少年くんだったくせに今はもう私より2つも上。意味わかんないけど頭いいな、って思った。そんな恭弥は未来から来たから帰らなきゃいけない、らしい。ていうか普通にそうだよね。
少し寂しいような、そんな感じがした。だけど、帰ろうとしたその時、
『エリスないと、帰れないじゃん』
だってさ。笑っちゃうよね。そんな感じで恭弥は今、とりあえず私と住んでいる。私が自分の意思でエリスを作れるようになるまでの、応急処置だ。2LDKだから、ね。同棲、じゃなくて同居だ。決して付き合ってるわけではない。
果たして、私に彼氏はできるのか。もしくは『初恋だった。15年間ずっと想ってた』と告白してきた彼は、私を落とせるのか。楽しみだねー。
「おねーさん、買い物行くよ!」
「はいはい、お待ちなさいな」
年上の少年くんにおねーさんと呼ばれながら、私は今日も自分らしく気ままに生きる。
「今日も1日、楽しむぞー!」
久々に1万字近く書いたら半日近くかかりました。半日もつぶして悲しいです。よかったら感想ください。