始まり
僕に前世の記憶があると気づいたのは三歳の頃である。
当時は、よく熱を出して寝込む事が多かったのだが、熱から回復して目が覚めると、前世の記憶が蘇ってきたのだ。
地球では普通の高校生として生きてきた僕だったが、死んだ時の記憶は少し曖昧なので、なんとなく崖から落ちた様な気がするんだが、死因はどうだったかははっきりとは覚えていない。
たぶん家族旅行の最中に、車が崖から転落して家族と一緒に死んでしまったのだろう。
まあ前世を思い出しても、一般人に過ぎなかった僕は、使えるチートも無いし、平穏無事に今の生活をしていた。
僕が生まれたのはいわゆる辺境の農村である。
家族構成は、お髭がダンディーな父アンディと、肝っ玉母さんのクレア母さん、村で一番可愛いと言われている二歳年上の姉のケイト、そして弟の僕、名前はノバである。
この家は裕福では無いし、けして楽とは言えない生活であったが、日々の暮らしに忙しくて、実に充実した毎日を過ごしていた。
ちなみにこの世界には魔法は存在していた。
毎日の生活の中で使用されているのだ。
煮炊きする為の火種は火炎の魔法で行うし、暗くなったら光の魔法で明かりを付ける。
これらは分類すると生活魔法というごく初歩的な魔法なので、誰でも覚えることが出来る基本的な魔法らしい。
僕が初めて目にしたのはライトの魔法である。
暗くなったら照明代わりに部屋に灯されるのだ。
蛍光灯並みの明るさにびっくりである。
ただし、持続時間は術者の腕に影響されるようで、二時間くらいしか持たないが。
「将来は魔法使いになってチートするぜ。」
そう心に誓ったのはこの頃からだ。
それから少し時間が過ぎる。
辺境の農村になると、子供でも六歳になれば立派な労働力としてみなされる。
子供でも出来る労働はいくらでもあったからだ。
六歳になった僕の仕事は鶏の世話がメインになっていた。
餌やりや卵の回収、鶏小屋の掃除などをしている。
それらの作業が終われば、時間が早めに終わっても後は自由に過ごしていいことになっていたので、僕はいつも姉さんや村の子供たちと一緒に遊んでいた。
ちなみにこの頃から姉さんは非常にモテていたみたいだ。
男女関係無く公平に接するし、可愛い姉さんは皆から好かれていたのだ。
だから、姉さんと一緒にいると多くの子供達と遊ぶことになったし、それが楽しかった。
高校生にもなった精神年齢からすれば、ありえないくらい下らない遊びの数々をしていたのだが、やはり子供の肉体に精神が引っ張られるせいか、何故か鬼ごっこですらテンションが爆上がりした。
「ひゃっふーーー、僕を捕まえてみろーー!!」
「待て待てーー。」
「ヤツはなんて速さだ。」
なんていいながら走り回って遊んでいた。
男も女の区別も無くて、ただ無邪気に遊んでいられたのだ。
この頃が一番楽しい時代だったかも知れない。
後は僕らは良く川に来ては魚を捕まえる事をしていた。
それは僕がこの農村ではあまり知られていない、釣りのやり方を伝授したからである。
子供には長い時間ただ待つ事は非常に苦痛なので、出来るヤツは多くはなかった。
だが、魚が釣れれば夕食にプラスおかずが増えるのである。
魚釣りの楽しさに目覚めた子供達と一緒に、釣りをするのが僕のマイブームになりつつあった。
「へへっ、今日も魚を取って来たよ。」
「凄いじゃないか、このこの。
よくやったな。」
家に帰って戦利品を見せると両親は喜んでくれた。
頭を乱暴に撫でてくる父アンディ。
母さんはそんな僕達を笑ってみていた。
姉さんは、じっとしている釣りが苦手なのか、なかなか魚が釣れなくて釣りをしていない。
なので、褒められる僕を少しだけ羨ましそうにしていた。
姉さんはどちらかといえばアウトドア派で快活な性格をしていた。
この頃から髪の毛は長かったし、その容姿はアイドル子役顔負けの可愛さであった。
羨ましそうにしている姿に萌えたね!!
基本的にお姉ちゃん子でもあった僕は、偶に構ってあげないと拗ねる姉を溺愛していたのだ。
そんな穏やかな日々も、ある時一変する。
モンスターの大群が僕の村にやってきたのだ。
理由は分からない。
だが、色々な種類のモンスターが隣の村を襲撃して、村人の多くが犠牲になったらしい。
僕達の村に逃げてきた村人がそういっていた。
「どうするんだ。
このままじゃあ隣の村と同じ目に遭うぞ。」
「冒険者に依頼を出しても、麓の町まで距離がある。
たぶん間に合わないだろう。」
「じゃあどうするんだ!
俺らだけでモンスターの大軍なんて相手になる訳ないだろうが。」
村の皆で何にも無い中央の広場に集まって、会議をしていたが、なかなか意見はまとまらなかった。
それも仕方ないと思う。
だって、戦える大人なんてそう多くはないのだから。
年貢もたいしたことは無いので、この村には騎士や兵士も常駐していない。
山や森に入って動物を仕留めるハンターはまだ優秀な方だ。
だが、辺境の村の人達の大半は農業従事者である。
戦闘能力が高い者はそう多くは無かったのである。
それでもイノシシの被害などがあったから、最低限は戦える者が多かったが、モンスターの大群相手では心もとない戦力であった。
「そうは言っても仕方なかろうて。
ワシらの村に居る男手を総動員してこの難事にあたるしか他になかろう。」
そういったのはこの村の村長であった。
齢60歳を越える年齢であるが、まだまだ現役バリバリで農作業をしているパワフルな御仁であった。
村長にそういわれて他に対案も無かった為に、皆も防衛の為の準備に取り掛かった。
「さあ、これから忙しくなるよ!!
モンスターが来るんだ、ちゃきちゃき動きな!!」
そういって集まっていた広場から散っていく村人達。
それぞれ柵の強化や武器を持ち出したり、手分けして準備していった。
だが、やはり村人ではモンスターの大群の相手は荷が重すぎた。
夜中にモンスターが攻めてきたのだが、柵の後ろで手製の槍を突き刺す作戦で初撃をなんとか凌いだのだが、時間が経つにつれて疲労が目立ってきた。
戦闘訓練も何もしていない村人達は、農作業をしていたから体力には自信があったが、戦闘での命のやり取りに慣れている者は多くはなかったのだ。
精神的疲労が大きくなり、徐々にミスが目立つようになる。
そして、そこに大型のトラのようなモンスターが突っ込んできた時点で、戦線は崩れてしまった。
「うわーーーー!!
もう駄目だーー!!!」
「みんな怯むな!!
ここを抜かれたら、村の子供達が危ないんだぞ!!」
「駄目だーー!!
死にたくねぇーーー!!」
「うわぁーーー!!!」
そして懸命に奮戦したが、結局バリゲードは破られてしまい、村に侵入を許しそうになった。
「おらぁーーー。」
ザシュッ
そこに突如現れたのが筋肉ムキムキの男性の冒険者であった。
彼は大きな大剣を振りかざし、大型のトラ型モンスターを一刀両断したのだ。
そこから彼は一人でモンスターの大群に突っ込んでいき、どんどん殲滅していったのだ。
その姿を見て奮起した村人達は、再び防衛線を築き上げ、村に侵入するモンスターを防いでいった。