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君はあの朝日を見たか?  作者: 若雛 ケイ
序章 人間万事塞翁が馬なんてことはない
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四幕 持つべきものは闇を撃ち抜く小さな勇気

 俺が身も心も全てを投げ捨てる覚悟で、屋上から落ちようとしたその瞬間。

「お~い!!」

 ドドドドドド! と、漫画で描写されるような勢いをつけて、やけに甲高い声が近づいてくる。

 そして宙に放られた俺の体を引き止めるが如く、俺の手を何者かが掴んだ。

「北山! 見れ! 見れ!」

 目を不等号(><←こういうやつ)にした馬鹿王片瀬だった。

 この前にある絶望と恐怖に慄き、自殺を決心して身を宙に放り投げた俺の手を、片瀬は絶妙のタイミングで引いて地面に舞い戻らせたのだ。


 そしてそのままドドドドドド! と、猛烈な勢いで俺を引きずり回す。

 屋上を出て階段をガッタンゴットン降りていく。

 きっとあのまま自殺して自分の身が地面に着く瞬間よりも痛かったと思う。

 そして行き着いた先は学校の校庭……砂場のような所だった。


「北山! 凄いぞ! ほれ! 見ろ! あちしが作った砂の山にありさんがたくさん住み着いた!」

「…………」

 馬鹿王が見せてきたのは砂で出来た立派なお城のようなものと、そこを行き来しているありの行列だった。

 俺にこの馬鹿王と会話する気力などない。

「何でこんな所にありの行列があるかと思う? なんと、あちしがあんぱんに入ってたあんこをこの砂山の中に突っ込んだからなのだ!」

「…………」

「あれ? 北山?」

「…………」

 片瀬の目の前で再び泣いた。

 わんわん泣いた。

 正直無茶苦茶かっこ悪かったんだと思う。

 通りすがりの人もいたんだと思う。

 それでも涙が止まらなくて、俺は片瀬の胸を借りてわめくように泣き出した。



「そっかぁ……。大山は少し特殊なんだもんなぁ」

「お前に言われたくない」

 片瀬は俺に気を使ってか、泣きわめく俺をなだめ、なるべく人目のつかない体育館の裏に連れて行ってくれた。

 そして存分に俺を泣かせてくれた後、親身になって俺の話を聞いてくれた。


 馬鹿王のくせにあまりに俺の話を真面目に聞いてくれたので、俺は菅連のことも今日あった与那嶺さんとのことも全て話してしまった。

 すると片瀬はまるでいつもの片瀬ではないかのように、うんうん優しい目をして俺の話を聞いてくれたのだ。

 そのお陰で俺の気分も段々と落ち着いてきた。

「人生やなことたくさんあるさ。あちしだって死ぬほどやなことあるんよ」

「ありそうにないけどな」

 いつもへらへら笑ってて、馬鹿一直線の片瀬に嫌なことなんかなさそうに思えるのは仕方ない。

 こいつなら菅連の連中に絡まれたって楽しめそうな、特殊な精神を持っている逸材っぽい。

「あるさ。大山が話したんだから今度はあちしが不幸自慢したげるよ。あちしさ、元々馬鹿で生まれ育って昔からヤンチャなことばっかしてたけどさ、中2の時にすっげぇ好きな人できたのよさ。好きで好きでたまんなくて、もうそいつしか見えない、付き合えたら死んでもいいとすら思ってたワケよ。んで、あちし勉強もできなくてさ、普段からドジってばっかだったから、そんなんじゃ嫌われるー思って、思いっきり猫かぶってその人と接したのよ」

 自分の過去を暴露するのが少し恥ずかしいのか、片瀬は俺と目を合わせること無く、少し遠くの方を見ながらそう静かに語りだした。

 それにしても、今こいつ自分のことを勉強もできないと言っていたけど、こいつの成績は確か学年でもトップクラスだったはずだ。

 それを突っ込もうと思ったが、話に水を差すこともないと思って止めておいた。


「んで、見事にあちしはその人と付き合うことになったんだけど、やっぱダメなんだよね。勉強はともかく、生まれた時から馬鹿やってる人って、猫かぶりきれないんだよ。いつだったかなぁ、あちしと彼ピンがファミレスで一緒に勉強してる時だっけ。あいつが真剣に勉強してる空気が妙に『使える』と思ってさ、それまで猫を被りに被ってたあちしが何気なぁ~く自分の両耳に割り箸突っ込んで真顔で勉強始めたのよ。それで大爆笑してくれると思ったら思い切りキレられちゃってさ。やっぱダメなんだよね。そいつすっげぇ真面目な人だったからずっと猫かぶり通そうと思ったんだけど。それからも猫は被ってたけど何度もボロをだしたさ。今言ったみたいなボロね。んでさ、結局そいつ、あちしのこと『馬鹿は嫌い』って言って振りやがったんだ」

 泣いてた。

 あの片瀬が目に涙をうかべていた。

 俺には信じられなかった。

 余程その人のことが好きだったのか、その言葉に傷ついたのか。

 『馬鹿は嫌い』と話している片瀬の声は少し震えていた。

「あちしさ、それで見返してやろうと思って全国で5本の指に入るこの学校に合格する為に勉強したんだ。それと、もう猫を被るのはやめようって思った。だって、意味ないじゃん。結局ボロが出るんだから。だったらありのままのあちしを受け入れてくれる人がいいなーなんて思いながら毎日素で生きてるよ。でも、大原も知ってる通り、こんなあちしを受け入れてくれる人、いないんだな。ちょっとへこむよね。だけど、いつかは素敵なマイダーリンと! って夢見てるよ。だってさ、それがあちしの夢だし、母ちゃん父ちゃんの夢なんだもん。あちしに素敵な旦那さんができることが、ね。馬鹿だと思うっしょ? いいんだよどーせ馬鹿なんだから」

「…………」

「あちしが馬鹿で母ちゃんも父ちゃんももらい手が無いって嘆いてるよ。あちしに彼が出来たときは家族そろってお祝いもしたんだけどなぁ。残念」

 こいつ、自分が馬鹿であることにコンプレックスを感じてる。

 自分では気にしてるんだけれども、止められない。

 一生馬鹿のままなんだ。

 おめでたい響きだけど、割と深刻な悩みなのかもしれない。

 何故なら、俺と同じように一生ついて回る問題なんだから。


 でも、『ありのままに受け入れるあちしを~』のくだりを聞いて、やっぱりこいつは凄いと思った。

 直せないハンデ(?)だけど、前向きに生きようという力強い片瀬を感じることが出来た。

 それに比べて俺は……。

「さて、あちしの話はどーでもいいとして、山田!」

 片瀬はキリッと真剣な目をして俺の目を見る。

 クソッ。俺の名前は北見だ。

「貴様は今菅下連合の恐怖に怯えているのだ! 一生そのままでいいのか!?」

「……良い訳ねぇだろうが。でも、どうしよもねぇんだ」

「どして?」

「あの連中から逃げられると思うのか?」

「うん」

「お前は菅連を知らないからそんなことが言えるんだ。奴らから逃げることなんか出来るはずない。逃げ切れずに捕まって殺されるのがオチだな」

「どして殺されるのさ?」

「そういう連中だからだ。逃げた俺が内部事情を他にばらすのを恐れてだろ」

「じゃあ内部事情は言いませんって言えばいいじゃん」

「んなことが通用するか」

「あのさ、人っていうものは先天的には善人なんだよ。誰一人して例外なく。山本はさ、赤ちゃんがタバコ吸いながら札束かかえて人殺しを依頼してるの見たことあるかい?」

「ねぇ」

「ね。悪いことするようになった人は、いつから悪いことするようになったのか分からないけど、それまでは善人だったんだよ。だから、誰でも良心っつーもんは持ってるもんだとあちしは思うよ」

「何が言いたいんだ?」

「つまり、人は簡単に人殺しなんかできないってこと」

「菅連のやった功績をお前は知ってるのか?」

「知らなくてもそうなんだよ。菅下連合の皆は皆が皆絶対に殺人経験あるのけ?」

「知るか」

 とは言いつつ、そんなことは多分……というか絶対にない。

 菅連には俺ののようなショボっちい奴も少なからず混じっているからだ。

 俺も菅連の全てを知っている訳でなく、むしろ俺と直に関わっているのは菅連の組織における下っ端の男数名以外にいない。

 けれども、俺が関わっているその下っ端すら人殺しの経験があると言っていた。

 逃げたら殺すと何度も脅された。


「少なくとも俺の関わっている奴には人殺しの経験はある」

「実際に国坂はその人が人を殺してるの見たことあるの?」

「ない」

「じゃあ嘘かもしれないじゃん」

 …………。

 まぁ、その可能性はなくもないが。

 もしそれが嘘で、人殺しをするような人間じゃないにしろ、どうせ上の人間に報告がいって結局俺は殺されるんだ。

 菅連という組織はそういう組織だ。

「嘘かもしれないが、菅連の中に人殺しは確実に存在する。そいつが結局俺を殺しに来る。菅連というのはそういう組織だ」

「じゃあ北見はこのまま一生菅下連合にへこへこしてるわけですかい?」

 やっと正解した。

 そういえばこいつ、さっきっから俺のクラスメイトの名前で間違えてたな。

 顔と名前が一致してないのか? それともわざとなのか?

「…………」

「やるしかないんだよ。死ぬ覚悟はあるんだろ? だったらもがいてみなよ。苦しくないの? つらくないの?」

「…………」

「あちしは北見が無事に菅連から逃げられることを祈ってるよ。大丈夫。人はそんなに悪くない。絶対、絶対大丈夫だから」

 片瀬は真剣な表情で俺をそう説得してきた。


 こいつのお陰で、もう死んでもいいという絶望的な気分から少しだけ解放された気がする。

 いや、死んでもいいと思っているのには変わらないんだけれども。

 何というか、考え方が変わってきた気がする。

 もう、死ぬ覚悟はできているんだ。

 今の状況は最悪。

 これ以上最悪になることなんてない。

 後は死ぬだけだ。

 だったらただでは死なず、最後の最後にもがいてみようと思った。


 そういう結論に行き着いた俺は片瀬の説得の力もあって、今日の夜、菅連に脱退を告げてみようと考えたのだった。




 バイトも終わり、菅連の連中と約束した夜の11時。

 いつも金を渡している場所、人気のない暗い山道に俺は足を運ばせていた。

 胸……心臓部にはバイト先から借りてきた薄い鉄板を敷いている。

 相手は何をしてくるか分からない。

 ただ金を渡すだけにしても、何故かナイフまで持ってくるのが奴らの常だ。

 壮絶な乱闘になることも想定し、俺は小型のサバイバルナイフも店で購入して持ってきた。

 自分の中でこれは絶対に使わないつもりだ。


 今までだって万引き、かつあげ等の犯罪を何度も強要された俺だが、そのほとんどを未遂ややったフリで過ごしてきた。

 やっぱり片瀬の言葉じゃないけど、俺の良心が咎めたのだ。

 ここで奴らをサバイバルナイフで傷つけることだって俺にはなかなかできない。

 そんな小心者がこれからそっちの道の達人と一戦交えようとしているのだ。


(……結局殺されたら片瀬のせいにしよう)

 遺書も準備しておいた。

 遺書の中で親にも彰二にも散々謝っておいた。

 菅連の言葉も出しておいた。

 片瀬のせいにするのは忘れてしまった。

 菅連の連中に先に見つけられないように、探さないと見つからない場所にも隠しておいた。

 準備は万全だ。

「…………」

 見えた。

 一目見て『そっち系』と分かる格好をした二人組。

 いつもは金を渡すだけなので一人だったりするが、今日はついてないことにお仲間さんも一緒だ。

 俺は意を決してその二人の元まで歩み寄った。


「……遅かったじゃねぇか」

「…………」

 鋭い目で俺を睨みつける男。

 こいつが全ての原因だ。俺がこいつにさえ出会わなければ……。


 ガッ!!


「ぐっ……」

 俺が無言でいると、その男は俺の頬を思い切り殴ってきた。

 その勢いで俺は地面にしりもちをついてしまう。

「ちゃんと5万、持ってきたんだろうな?」

「…………」

 俺は無言で立ち上がる。

「一日遅れだ。利子つけろ利子」

「ふふ……おい北見、今回は利子付きで6万だ。用意できてるか?」

「……俺はもうあんたらに金を払わない」

「あぁ?」

 目を合わせることはできなかったし、しかもしぼり出したような小声だったが、キチンと言えた。

 もう後戻りはできない。

「真壁さん……。俺、もうあんた達に関わりたくないんすよ……。あんたたちだけじゃない。菅連とも、もう関わりたくない」

「あぁ? 聞こえなかったなぁ。もう一度言ってみろよ」

 今度は少し意識して相手の目を見て言った。

 聞こえなかったなんてことはないと思う。

 でも何度でも言ってやる。

 俺は菅連ともうおさらばするんだ。

「俺はもう菅連と関わらないす。もちろん真壁さんや木村さんとだってもう関わらない。5万だって6万だって今日は持ってきてない」

「成る程……。つまり、殺して下さいってことか?」

「そんなこと一言も言ってないす……。俺には俺の生活があるんです。俺の未来があるんです。それをあんた達に潰されたくは無いんです。俺があんた達の元を離れても警察には言いません。約束します。警察に言っても無駄でしょうし。だからお願いします! もう、俺とは関わらないで下さい!!」

 最後は語尾を強め、大きく頭を下げながらそう言い放った。

 俺の意志はきちんと伝えた。


 ――頼む! 神様!! 俺の味方をして欲しい!!

 この時だけでいい! 後は全部自分で切り開くから、今だけはどうか味方してくれ!!


「俺が了承すると思うか?」

 ガッ!!

「ぐっ!!」

 今度はミゾオチを殴られる。その一瞬で世界がぐらりと揺らいだ。

 でも俺は頑張って耐え、言葉を続けた。

「お願いします! もう、関わらないで下さい!!」

「うるせぇよ!! さっさと6万出せや!!」

 ガッ!!

 今度は側頭部。

 あまりに殴る勢いが強いので、俺は耐えることが出来ずに再び地面に倒されてしまった。

「持ってこれねぇんだったらてめーの家まで着いて行ってやるぞ!」

「おいおい、ちゃんと働いてんのか? 家にもないんだったら実家行くぞ?」

 それからも二人の暴行は続く。

 幸い相手は武器を持っていなかったようで、殴る蹴るだけで暴行は続けられた。

 途中、俺の胸に鉄板が入っていることがバレて、それを武器に使われることはあったが。

 とにかく果てしない時間殴られ続けた。

 それでも最後の最後までサバイバルナイフは使わないよう、そして見つからないように心がけて防御に徹した。


 しかし、それ以前に殴られ続ける事によって意識が段々と遠のいていき、そんなことを考えている余裕もなくなってしまった。

 もう二度と意識を取り戻すことがないんじゃないかと思った時には、既に意識を失っていた。




 目を開けると辺りは真っ暗。

 視界の先にある空にはこれでもかって位に星が輝いていた。

 俺はハッとなって今ある状況を確認しようとするが、体を起こした瞬間全身に痛みが走った。

「ぐっ……」

 頭、手、足、腹部。

 全身に激痛が走る。起きる事すらままならない状況だった。

「…………」

「!?」

 途端に綺麗な星空をバックに視界に入ってくる人の顔。

 何事かと思って体を起こした時には全身の痛みを感じている余裕はなかった。

 それだけ、目の前に突然現れた人の顔に驚いたということだ。

「まだ、あまり動かないほうがよいかと思います」

「…………」

 あっけにとられた。

 何故だか全く分からないが、俺の目の前には見たこともないような美少女。

 俺は今の今までその美少女に膝枕されていたのだ。

 最初の第一声がうまく出てこない。

「だ……誰?」

「…………」

 やっと浮かんだ言葉を出すも、その少女は何も口にはしなかった。

 意識が落ち着いてき、その少女のことをよく見てみる。


 透き通るような白い肌にさらさらでクセのない長い黒髪。

 顔はそこらの芸能人より整ったような綺麗な顔立ちをしている。

 可愛いと言うよりも、美しいと形容した方が適切な感じである。

 そして全身は真っ白なコートで覆われていた。どこかで見た事がある服装だ。

 その端整かつ不思議……というより神秘的なその少女にしばらくみとれてしまう。


「あの……」

「ッ……」

 しばらく目を合わせていると、彼女が何か言葉を発した。

 それで彼女に見とれていた俺は我に返り、頭をブンブン振った。

 まだ傷が少し痛む。

「あ……」

 その時、ようやく今ある俺の体に気がつく。

 俺の体には腕にも足にも包帯が巻かれていた。

 もっとよく調べてみると腹部にも血で赤くにじんだ包帯、顔にもガーゼのようなモノがはられていた。

 彼女が介抱してくれたのだろうか?

 俺は黙って彼女の方を向く。

「…………」

「私はこれで……」

 彼女は顔色一つ変えること無く、素っ気無い感じで座っていたベンチを立つ。

 俺はとっさに言葉を発っし、彼女が去ろうとするのを止めた。

「あのっ! この包帯は君が……」

「…………」

 俺がそう聞くと彼女は一瞬行動を止めたが、すぐに向き直って歩き出してしまった。

 俺は慌てて彼女を引き止めようとするが……。

「ぐっ……」

 再び全身に痛みが走った。

 それでも彼女を必死に追おうとする。

 しかし彼女は振り向くこともなく、すたすたと歩いて行き闇の中へと消えて行ってしまった。

「待って!」

 痛む全身からふりしぼって出した言葉だったが、彼女には届かなかった。


 一人どこかも分からないような所で残された俺は、この状況を把握することで頭が混乱している。

「何故……?」

 今あったことを必死で思い返してみる。

 俺は菅連と縁を切るためにいつも約束している山道に行った。

 そこで話をきりだしたが、予想通り何度も殴られる結果となった。

 そこまでは覚えている。


 それから俺は意識を失い、気がついた時には何故か女の子の膝枕。

 全くを持ってして意味が分からない。

「ここは……」

 彼女に夢中になっていて全然気が付かなかったが、今俺が居る場所はあの山道から数キロ離れた人気の無い山道だ。

 その山道のわき道にあるベンチの上に俺は座っている。

 俺が意識を失っている間に、彼女は俺を抱えてここまで連れてきたということなのだろうか?

 そんなに力のあるような子には見えなかった。


「なんだ……これ……」

 ふと気が付くと、今座っているベンチのうらに何か長い物が立てかけてあった。

 俺は何かと思ってそれを手にしてみる。

 長さは丁度一メートルくらいだろうか?

 何か長い物が白い布で包まれている。

 丁度剣道の竹刀を包むような感じだ。

 彼女の忘れ物なのだろうか?

 だとしたら勝手に中を見るのはマズイと思いつつも中に何が入っているのか非常に気になったので、俺は袋をそっと開けてみた。


「なっ……」

 その袋の中にはなんと、剣が入っていた。

 思わず俺はその剣を鞘から抜いてみる。

「……本物?」

 暗くてよく見えないが、重さから言ってかなりしっかりした物であろう。

 恐らく真剣だ。

 血のりすらついていない、綺麗な刀身をした真剣がそこにはあった。

 俺は見ちゃいけないものを見たという感じで、慌ててその真剣を鞘に戻し、袋に包んだ。


 謎が残るばかりだ。

 菅連の奴らはどうなったのであろうか?

 俺の願いは受け入れられたのだろうか?

 ここで出会った彼女は一体何者なのか?

 菅連から俺を救ったのも彼女なのだろうか?

 そしてこの剣も彼女の物なのだろうか?

 何も知らずに目を覚ました俺には理解できないことが多すぎた。

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