表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君はあの朝日を見たか?  作者: 若雛 ケイ
終章 壊れる幸せと、生まれる幸せ
36/37

終幕  光

 俺の記憶は、赤い髪をしたつぐみさんが目の前で消滅していった所で途切れていた。

 それから何があったのかサッパリ分からない。


 気が付くと俺は病院のベッドで横になっていた。

 自分の寝ていた所が病院だと分かると、今まで起こったことが全て夢だったのかと思えた。


 しかし、その希望は一瞬にして打ち砕かれる。

 俺の左腕にはぐるぐると包帯が巻かれており、肘の辺りから綺麗サッパリ無くなっていたのだ。

 それでもどうしても事実を確認したかったので、俺は痛む腕をこらえて病院を抜け出した。


 外は相変わらずの大雨。

 まるで今の俺の心境をそのまま表しているかのようだった。

 冷たい雨の降る中、俺はなんとかあの神社目掛けて走って行った。


 神社にたどり着いた。

 そこには俺が少し前に見た風景よりもだいぶ落ち着いた風景があった。

 雨に消されたのか、あの痛くて赤い炎は上がっておらず、神社は閑散としている。

 まるでちょっと前に起こった惨事が嘘だったかのようだ。

 何人か人が居たようだが、俺はつぐみさんが居ないことを確認すると心が空っぽになったような感じになって、そのままふらふらと、何処へ向かってか歩き出した。


 まるで胸に空洞が空いたような気分だ。

 今まで俺の中を敷き詰めてしたものが一瞬にして全て消え去ったような気分。

 もう俺は俺じゃないような気がする。

 人の形をした、ただの抜け殻だ。



 気が付くと俺は自宅へと足を運んでいた。

 まるで意識していなかったのに、何かに導かれるように自宅へ戻ってきてしまっていた。

 俺はそのまま、何も考えずに自分の部屋へと戻った。


 ずぶ濡れのまま自分の自宅へ戻ると、自分の部屋はなんだか荒らされたような跡があった。

 あちこち物が散らかっており、部屋の中は滅茶苦茶だ。

 その散らかった部屋の中に転がっている『ある物』に俺の目はいった。

 つぐみさんに与えたスペースから覗いているつぐみさんのカバンだった。


 つぐみさんのカバンは中途半端な形でつぐみさんのに与えた戸棚から転げており、さらにカバンの中から俺がゲーセンでつぐみさんの為に取ってあげた『鶫』のぬいぐるみが転げていた。

 そして、そのすぐ隣には片瀬が見舞いとして持ってきてくれた白い包み。

 俺がこの部屋を出たときは鶫のぬぐるみはカバンの中にしっかりしまってあったはずだし、片瀬の見舞い品は枕元にあったはずなのに、その二つだけ玄関に近いところに転がっていた。

 そんな状況から、俺は勝手に推測をした。


 つぐみさんは無理矢理ジェリア達に連れて行かれたんだ。

 たぶん、昨日と同じような感じで暴れたんだと思う。

 それでも必死に自分の大切な物を守ろうと、その二つの物を自分の手の中に置こうとしたが、それも叶わないまま強引に神社へ連れて行かれてしまった。


 この推測が正しいかどうかなんか分からない。

 でも、このあまりの散らかり具合から、つぐみさんが穏便に神社へ向かったとはとても考えられなかった。


 つぐみさんは……つぐみさんは、最期まで幸せを手の中に収めようとしていたんだ。

 それなのにつぐみさんの思いは何一つ報われなかった。

 感情を封印され、幸せを望むことまで禁じられ、せっかく手にした幸せのかけらさえも無理矢理振りほどかれてしまったんだ。

 そう思うとあまりにつぐみさんが可哀想過ぎて、枯れたはずの涙が自然と噴出してきた。


「つぐみさん……俺……。つぐみさん……」

 つぐみさんのほんのひとかけらの幸せである鶫のぬいぐるみと、白い包みを拾い上げ、残された片腕でそっと胸に抱いた。


「何でだよ……。何でつぐみさんが死ななきゃならないんだよ……。つぐみさんが何か悪いことしたのかよ……。何でつぐみさんが幸せになれねぇんだよちくしょう!!!」

 この鶫のぬいぐるみをプレゼントした時のつぐみさんの笑顔が蘇ってくる。

 初めて俺に向けて笑ってくれた、あの申し訳なさそうなつぐみさんの笑顔だ。

 何で笑顔なのにあんなに申し訳なさそうだったのか今なら分かる。


 何であんなに健気に生きている『人間』がこんな目に合わなくちゃいけないんだ。

 つぐみさんは世界で一番人を思いやっていた人間だったじゃないか。

 どんな時も謙虚で、どんな時でも相手のことを考えていて、馬鹿野郎にナンパされた時だって深く頭を下げていて……。


「どうして……どうしてだよ……」

 つぐみさんの笑顔を思い返すたびに次々と涙が溢れ出てくる。

 そして、そのまま倒れこむような感じでつぐみさんが眠っていたベッドに身を投げた。


「嫌だ……つぐみさん……戻ってきて……つぐみさん……」

 何も考えられなかった頭の中に全て現実が戻ってきたような感覚になり、ベッドにうずくまって泣きじゃくった。

 まるでおもちゃを取り上げられた赤子のように、ただただ泣きじゃくった。

 全てが終わったんだ。

 俺はつぐみさんに幸せを満足に与えることが出来ずに、つぐみさんを守りぬくという約束すら守ることができずに、つぐみさんと離れ離れになってしまった。


 もう、俺に残された道は何もない。

 俺が守るものはもう消えてしまったし、それと同時に俺の幸せも消えてしまった。


 何故あの時つぐみさんは俺を殺してくれなかったのだろうか。

 俺はあの時つぐみさんに殺されていた方がよっぽど幸せだったような気がする。

 この世界に、俺の幸せなんか少しも残っちゃいないんだ。

 残された俺に残った物はただの空虚な人間の形をした抜け殻。

 あの時つぐみさんの胸の中で一緒に命を絶つことができたらどんなに幸せだっただろうか。

 今この世界で生きても何も幸せを感じることができそうにない。

 この世界にいたってつぐみさんは二度と帰ってこないし、俺は二度とつぐみさんと会うことができない。

 つぐみさんのあの温かかった言葉も、つぐみさんの温かいぬくもりも、もう二度と感じることができないんだ。


 俺は……この世界に生きていても価値がないよね……。


 俺はもう、あの時のような幸せを感じることができないよね……。


 つぐみさん……。







 俺が目を覚ました時は、静寂に包まれた自分の部屋の中にいた。

 どうやら泣きつかれて眠ってしまったようだ。

 俺は絶望の中眠りにつき、絶望のまま目を覚ますこととなった。

 自分のベッドであり、つぐみさんのベッドでもあるこのベッドには俺しか眠っていなかった。

 そのベッドが今までよりもずっとずっと広く感じられ、それが嫌に寂しかった。


「つぐみさん……」

 部屋の中は昨日のまま散らかり放題だったが、今はそれでも物凄く静かだ。

 この静けさが物凄く嫌だった。

 俺はつぐみさんに声を掛けるも、つぐみさんからの返事は返ってこない。

 それがあまりに寂しくて、再び涙が出そうになってきた。

 それからいつものくせなのか、自然と目をあの窓辺にやってしまった。

 いつもつぐみさんがお祈りをしていた、あの場所だ。


「光……」

 今もいつもと丁度同じようにカーテンが申し訳なさそうな程度で開いており、その隙間から光が差し込んでいた。

 その場につぐみさんがいるような気がして、俺はふらふらと窓辺に向かう。


「おはよう……つぐみさん」

 そうポツリとつぶやくと幻影なのか、つぐみさんが笑顔を返してくれたような気がした。

 そしていつものように窓を開ける。

 すると朝の心地のよい、涼しい風が俺の体の中に舞い込んできた。

 さらに目の前にはまぶしいくらいの朝日。

 昨日までの嵐はまるで嘘だったかのように消え去っていた。


「…………」

 凄く暖かい光のように、俺には感じられた。

 それと同時につぐみさんのある言葉をふと思い出した。


『頑張れ、頑張れって応援してくれているんです』


 その言葉を思い返しながら、今まで見たどんな朝日よりも綺麗に見える朝日を見る。

 その朝日はまるでつぐみさんのように輝いていて、暖かくて、まるでその朝日が俺を応援してくれているような感じだった。

 『頑張れ、頑張れ』と。


「…………」

 思わず涙を流してしまった。

 何の涙かはよく分からないが、ただの悲しみだけの涙ではないのは分かった。

 つぐみさんは……きっと俺のことを見てくれていると思う。

 そう思うと、ネガティブに生きようとした俺が情けないように感じられた。


「つぐみさん……ありがとう」

 ふと無意識に右手で抱えていたものを見る。

 鶫のぬいぐるみと、白い包み。

 どっちもつぐみさんが大切にしていたものだ。

 そのうちの白い包みの方を開けると、中から棒状のアンパンとつぐみさんが大好きだったカレーパンが出てくる。

 俺は何を思ったのか、カレーパンの方をふとかじってみた。

 今まで吐くほどまずいと感じていたあのカレーだったが、その時は不思議とまずさを感じなかった。










「…………華が植えてある。最近の物だ。奥村夫妻かな……」

 目の前のお墓には綺麗な花と、まだ煙を放っている線香が供えられてあった。

 このお墓を知っている人間は俺と奥村夫妻、それに片瀬と相川ベーカリーの夫婦だけだ。

 あまりに限られた人しか知らないというのも、つぐみさんがあまり人間と関われなかったという証拠である。

 それを思うとやっぱりつぐみさんが可哀想に思えた。


 あれから何年もの年月が過ぎた。

 俺は命を絶つこともなく、平凡だけれどもちゃんと生活を送っている。

 つぐみさんがいなくなってから精神をおかしくして何度も自殺を図ろうとしたが、どうも日が昇っているうちは自分の命を絶つことができなかった。

 そのままずるずるとしぼんだ毎日を送っていたが、それも時間と共に回復していった。


 全部つぐみさんのお陰だと思ってる。

 俺はあれから一日もかかさず朝日にお祈りをささげている。

 曇っていたり、雨が降っていたりするとその日は一日元気が出なかった。

 でも、朝日を見るたびに頑張ろうって思えるようになってくるんだ。

 朝日を見るたびにつぐみさんの言葉を思い返し、これからも頑張ろうと思い続けた。


 それから高校を無事に卒業し、見事に一流とされる大学に入り、一流とまではいかないけれども、立派な企業に就職することができた。

 自分の仕事の関係で今は実家で暮らしているが、こうして休みが入ると必ずこの神社に来ている。


 目的は……この神社に作ったつぐみさんのお墓参りだ。

 俺がわがままいって、この神社の管理人さんに作ってもらった。

 神社の隅にあるような小さなお墓だけれども、俺はこのお墓をずっと大切にしてきている。


「つぐみさん。今俺は社会にでて、この世界に幸せを還元しようと、社会貢献をしています。次にジェリアがこの世に使いに来るのはいつになるでしょうか? 俺は次にジェリアがやってきても、つぐみさんのように接してやりたいと思ってます」

 まぁ、神様もつぐみさんは特別だと言っていたし、次に来るジェリアはしょーもないジェリアなのかもしれんが。


「俺は……神様の言ってることには今でも割と反対なんだよ。そりゃ、あの時は無茶苦茶言ったと思ってるけど、ジェリアが普通の人間を元にして作られている以上、ジェリアにも幸せになる権利、あると思う。ジェリアだけじゃない、どんな人間だって、どんな生物にだって幸せになる権利はあると思う。だから俺は……つぐみさんにもらった優しさをそのまま活かして現社会を渡り歩いているよ。ムカツク人だっているけど、つぐみさんの言ってた通り、どんな人間にも良い所はあるんだよね。だから、俺はつぐみさんの代わりじゃないけど、世の中の人が一人でも多く幸せになれるように毎日頑張って生きています。どうか、つぐみさんも次は人間に生まれ変わって、幸せに生きて下さい」


 そう墓前でつぐみさんと会話をする。

 俺がつぐみさんの代わりになれるとは全然思えないけれども、つぐみさんの影響を受けた俺も、少しでもつぐみさんの素晴らしさを出して、それにまた影響される人が出てくれば世の中は本当に幸せに満ち溢れた世界になるんじゃないかと考えた。


 ジェリアを知っているというだけで俺はまた非常に幸運な存在なのかもしれない。

 それを活かして、これからも人に優しく、頑張っていけたら俺も本望だ。


「さて……」

 墓参りも終わり、神社の入り口の方に戻る。

 すると、神社の前の階段の所で俺の知った顔がぶすっとしながら座っているのを発見した。

 俺はすかさずその子の所へと歩み寄っていく。


「やぁ」

「あ……」

 相手は高校生くらいの女の子。

 この神社の巫女さんとしてアルバイトをしているらしい。

 この子がまたぶっきらぼうで、感情の出し方が下手糞で、どことなくつぐみさんに似ているんだ。

 初めて会ったときにそう思って以来、なんとなく放っておけなくて、勝手に世話を焼かせてもらってる。


「どうしたの、そんな難しい顔して」

「…………」

 その子の隣に腰を下ろす。

 彼女はぶすっとした表情で下を向き、何も語ろうとはしなかった。


「何か嫌なことでもあったのか?」

「…………」

 俺がそう聞くと、彼女はコクリと頷いた。

 割と良くあることだ。

 寂しそうな顔をしている彼女に話しかけるのはこれで何回目になるのか。

 この前は学校でいじめられたとかだったし、その前はテストの成績が下がったとかだった。

 俺からしてみればそんなに深刻な問題ではないのだが、いつでも彼女の視点から察して考えてやっている。


「何だ。またいじめられたのか?」

「もう……学校辞めたい」

 彼女はうんと頷くと同時にそんなことを言ってきた。

 学校辞めたい……俺もそんなことをずっと思っていた気がする。


 でも、ある時をきっかけに前向きに頑張れるようになった。

 当然つぐみさんとの出会いがきっかけだ。

 あの高校2年の夏休みがあけた後俺はしおれてしまっていたが、色々な助けも借りることができて徐々に朗らかな学園生活へと変化していった。

 いつでもつぐみさんが見ているような気がして、俺を応援しているような気がしたから、頑張って学園生活を変えてやろうと思って心を入れなおしたんだ。

 その結果友達もたくさんできたし、卒業式には大泣きしたし、本当に楽しい学園生活だったのかもしれない。


 ちなみに菅連の連中はあの後一度たりとも俺の所へは来ていない。

 何故だか分からないが、なんとなく見当はつく。それはきっと……。


「何でいじめられるんだろうなぁ……」

「……知らない」

 まぁ、大体予想はつく。

 この子のことだ。

 きっと普段から物静かだからいいようにからかわれているんだろう。

 だからと言って激しく抵抗しろとか、性格変えろ何て言ったんじゃまるでこの子の身になっていない。

 こういう時、つぐみさんだったら何とこの子にアドバイスをしてやるのだろうか。


「頑張れ……」

「え……?」

 なんとなく、つぐみさんを頭の中でイメージしたらそんな言葉が出てきた。

 彼女はその言葉を聞くと、俺の方をふっと振り向く。


「学校に味方してくれる子はいないの?」

「……いない」

「そうか。それじゃあ、上を見上げてごらん」

「……まぶしい」

 彼女は俺の言ったとおり、まぶしそうに夏場の昼下がりに輝いている太陽を見上げる。


「俺の……本当に大好きな人が言ってたんだ。太陽は、いつでも正しいことをしている人の味方だって。人は暗い道に進む為に生きてる訳じゃない。太陽はいつでも明るい道を俺たちに導いてくれているんだって。実は俺もさ、昔学校が嫌いだったんだよ」

「…………」


「でもね、その言葉を聞いたら、それから太陽が味方してくれるような気がしてきたんだ。ほんの気休めかもしれないけれども、俺には太陽がいるんだぞって、ね。君は……間違ったことをしていると思う?」

「間違ったこと……? してない」

「それじゃ、太陽は君の味方。いじめてる子達は、間違ったことしてると思う?」

「…………」

 俺がそう言うと、彼女は黙ってしまった。

 まぁ、割と無理矢理な理論かもしれないし、俺が言うのとつぐみさんが言うのでは重みが随分違うような気がするけど、気休め程度にはなるだろう。


「なんかさ、太陽みると元気が出てくるのは俺だけなのかな? こう……頑張ろうって。どんな辛いことがあっても、太陽はきっと君の味方をしてくれる。だから、頑張ってみなよ。いじめられたって、光を見て生きていけばきっとそのうち明るい道にたどり着ける。学校辞めたりして日陰に避難してちゃ、いつまでたっても明るい道にはたどり着けないかもしれないよ?」

「…………」

 俺がそう言うと、彼女は再び真上にある太陽を見上げた。

 しばらく彼女が太陽を見ていると、ほんの少しだけ彼女が笑ったような気がした。


「よし! 頑張れ! 太陽も君の味方だが、俺も君の味方だ! どうにかしていじめてた奴らを見返してやれ! 何度だってやり直せるんだ! 頑張れ!」

「……うん」

 それだけ言うと、俺は立ち上がって片手で荷物を持ち上げ、帰る支度をする。

 それに合わせる様にして彼女も立ち上がってくれた。

 ダメだ。

 やっぱり、俺につぐみさんの代わりなんか無理だ。

 また、つぐみさんの話を色々聞きたいな。


「んじゃ、また来るから」

「うん」

 背を向けて彼女から遠ざかる。


 俺は最近思うことがある。

 つぐみさんの幸せについてだ。

 結局俺がつぐみさんにしてやれたことは幸せの『し』の字にも満たないことだけしかなかったけれども、つぐみさんは満足していたのかもしれない。

 でも、俺からすればそんなの本当の幸せなんかじゃない。

 幸せなんて求めれば限度なんかないんだし、何を幸せと呼ぶのかも人それぞれ全然違ってくるわけだが、俺がつぐみさんに与えてやれたのは本当に小さなものだったことは確かだ。

 あまりに短い期間しかなかったのだからそれは仕方のないことなのかもしれないが、俺はそれじゃ満足できない。

 何せ、俺の幸せがつぐみさんの幸せなのだから。


 だから、俺は自分が幸せになろうと思った。

 つぐみさんの数少ない幸せである『俺の幸せ』を実現しようと思った。

 幸せな俺がいるとつぐみさんは笑ってくれるような気がする。

 だから生きている間につぐみさんに与えられなかったものを、こうして与えてあげようと思っている。

 そう考えると、本当にあの時自分の命を絶たなくて良かったなと思える。

 もし途中で自殺でもして天国に行った場合、そこにいるのは寂しそうな顔したつぐみさんのような気がする。

 でも、こうやって精一杯幸せになってから天国に渡ったとき、きっとつぐみさんは笑ってくれているだろう。


「あ、そうそう」

 そんなことを考えている途中、ふと神社の彼女に言い忘れたことを思い出したので、振り返って彼女に伝えてやることにする。


「感情は神様からもらった大切な宝物なんだ。人間であるだけで、無条件に感情は神様からもらえる。それに感謝しなきゃだめよ」

「…………」

「神様からもらったものは、有難くどんどん使ってやろうね。そうじゃなきゃ、人生損しちゃうこともあるからさ」

 それだけ伝えて、俺は彼女の前から去って行った。


 そう言えばつぐみさんの調子が悪くなってから、確かつぐみさんはこんなことを言っていた。


 『死ぬ寸前の人間は幸福な人生が送れた満足感に浸れるのか、それともこれから先にある幸福をこぼすことへの悲しみが増すのか』


 きっと両方あるんだと思う。

 だからこそ、俺たちは生きているうちに幸せにならなければならないんだ。

 幸せになりまくって、死ぬ寸前は満足感で一杯にしてやるんだ。

 悲しみを感じる余地がないくらいにな。


 だから今日も俺は明るい道を歩いてやろうと思った。

 それが人の人生ってもんだと、俺はそう思う。

これにて本編は終わりです。

後1つだけ、つぐみの作中の日記を公開したいと思っています。


話は退屈ですし、なろうにもあまり合わない作風かなとは思いましたが、自分では気に入っているので、ひっそりと投稿させて頂きました。

なろうコン感想希望とか生意気なタグ付けてしまってすみません。


人生に疲れている方なんかにお勧めとか言いながら、余計人生を疲れさせるような終わり方で申し訳ないです。

実は2通りのラストを考えていましたが、もう片方は自分としてはあまり釈然としない感じだったので、こっちを採用させて頂きました。

ちなみに僕の今年亡くした愛犬の名前はハナです。享年15歳、大往生でした。


ここまで読んで下さって、本当にありがとうございました。

皆様にもジェリアの加護がありますように。

あ、レビューや感想書いてくれるとあなたの傍にもジェリアくるらしいっすよ?

ほんとだよ?


14.11.19 若雛 ケイ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ