二十九幕 ジェリア・つるぎ・赤い髪
家に着く頃は大雨になっていた。
今日の朝天気予報を確認したとき、ここ一週間は晴れが続くとか言っていたがこの有様だ。
天気予報なんてそうズバズバ当たるものなんじゃないと思わされる。
つぐみさんが突然倒れた。
本当に突然だ。
あの後一向に目を開こうとしなかったつぐみさんを、俺たちは病院まで連れて行って検査をしてもらった。
しかし、どこも異常が見当たらなかったらしく、結局疲れがたまっているということで片付けられて自宅に帰された。
つぐみさんは今自宅のベッドで横になって眠っている。
あれから何度か意識は取り戻したものの、はっきりと意識を取り戻してはいない。
俺は祈るような気持ちでつぐみさんの顔をずっと見ていた。
静かに目を閉じて眠っているようだが、時折あの時のように苦しい表情をつぐみさんは見せる。
あの医者、本当はめんどくさいから疲れがたまっているということにしただけじゃないのかとすら思えてきた。
疲れがたまっただけなのに、こんなに苦しい表情は普通しない。
つぐみさんの意志も家に帰りたそうではあったが、もし何かあった時は病院の方が断然早く対応できるので、俺としては病院に置いて欲しかったのだが。
「つぐみさん……」
どうして急にこんなことになってしまったのか、俺には全然分からない。
ほんの少し前までは普通に元気でやっていた人が、どうしてこんなに突然苦しそうな感じになるのだろうか?
そんな突発性の病気あるんだろうか。
前日に脱衣所で倒れたことや、倒れる直前に苦痛で顔を歪めたようなことはあったけれども、もしかしたらつぐみさんは俺たちに心配掛けないようにずっと病気を隠していたのかもしれない。
でも、それは何となく違うような気がする。
つぐみさんの一日は、バイト以外の時はほとんど俺と一緒に過ごしているんだ。
俺が見る限りでは今まで苦痛を訴えるような顔したつぐみさんの表情は今までなかったし、もしバイト中にそんなことがあったのだとしたら何らかの報告が来るはずだ。
だから俺の中では物凄く突然の出来事で、凄く驚いてしまった。
ただ突発性なものなので、根拠はないが治りも早いんじゃないかなとは思う。
ただ再発する可能性もあるし、つぐみさんの様子が落ち着いたら様子を聞いてみたいと思う。
でも、つぐみさんはきっと「大丈夫です」で済ませてしまうだろう。
そう答えられてももう一度違う病院に連れて行きたいと思う。
俺がつぐみさんをどうしても心配してしまうのは仕方ないこと。
きっとつぐみさんだって分かってくれるはずだ。
「………………」
つぐみさんが苦しそうな表情を浮かべているので、俺は疲れていたがつぐみさんが心配だったので眠らなかった。
せめて少しでもつぐみさんの表情が和らいでから寝ようと思ったのだが、いつの間にか俺も深い眠りについてしまっていた。
朝。
俺はベッドに上半身を倒して眠ってしまっていた。
目を覚ましてから、もしかしていつものように元気に朝日にお祈りしているつぐみさんを見られるかと期待したが、つぐみさんは昨日のままベッドの中で眠っていた。
時折苦しそうな表情を浮かべるのも昨日と全く一緒だ。
「雨……」
丁度今は朝日の出る時間だと分かると、いつもつぐみさんが朝お祈りをしていた窓を見てみた。
しかし、いつもの窓から光は入ってきていない。
その代わりに、外からは聞きなれない激しい雨の音が聞こえてきていた。
「…………」
窓のカーテンを開けて確認してみる。
外は激しい雨に覆われており、朝日が見えるような状態では当然なかった。
「…………」
つぐみさんを見てみる。
つぐみさんは変わらず時折苦しそうな表情をする。
そこで俺はふと朝日とつぐみさんの関連性を思い出した。
つぐみさんの持論では『朝日は今まで行った罪を許してくれ、生きる活力をくれる』とか。
そのまま全部信じる訳ではないけれども、どうも雨は嫌なイメージがある。
この前雨が降った時もこんな悲しい心境だったはず。
確か、つぐみさんがこの町から去ろうとしていた時だ。
あの時のことを、つぐみさんは『罪を許してくれないから雨が降っている』というようなことを言っていた気がするが、今の雨もそれと関係あるのだろうか。
「…………」
そう思った俺は両手を組み合わせ、一生懸命祈った。
再び朝日が見れますように、と。
また朝日が昇ってくれれば、つぐみさんが元気になるような気がしたから。
「つぐみさん!! 大丈夫!? つぐみさん!!」
昼。
ついにつぐみさんは久しく目を開けてくれた。
つぐみさんのバイト先にも、自分のバイト先にも体調不良という連絡を入れて休みをもらった。
途中で彰二が来たりしたが、つぐみさんは一向に目を開いてくれなかった。
それでも粘り強くつぐみさんを看病し続け、今ようやく目を開いてくれたのだ。
「ここ……は……」
「俺ん家だよ。良かった。すっげぇ心配したよ」
「あ……今……何時……です……か?」
「もう12時回ってる。大丈夫だよ。相川ベーカリーには連絡入れておいたから」
「あ……」
そう言うとつぐみさんは本当に寂しそうな顔をする。
相変わらず体も起こさないし時折苦しそうな表情を見せるつぐみさんだが、割と意識は戻ってきたようだ。
本当に良かった。
とりあえずこれで少しは安心できた。
「あの……私の……剣【つるぎ】……」
「あ、ちょっと待って」
つぐみさんが突然剣のことを言出だしたので、俺はすぐに例の袋を持ってきてやる。
つぐみさんにその袋を渡すと、つぐみさんはそれを大事そうに抱えた。
この剣の正体も一体何なのか未だに分からないが、今はそれを聞ける空気ではない。
「何か食べれるかな?」
「いえ…………平気……です」
「ん……何か食べた方がいいと思うんだけど……」
「いえ……うっ」
そこでつぐみさんがまた苦痛に耐えるような表情を見せる。
俺は慌てて何かをしてやろうとするが、何もできない自分がそこにはいた。
悔しかった。
つぐみさんが苦しんでいるのに、何もできないのが本当に悔しい。
「つぐみさん、もう一度病院に行こう。疲れがたまっただけじゃないのは、つぐみさんだって分かってるはずだ。もう一度ちゃんと検査してもらった方がいいよ」
「…………」
俺がつぐみさんの目を真っ直ぐみてそう言ったが、つぐみさんはしばらくしてふっと目を閉じてしまった。
「人の死というのは、どういうものなのでしょうか……?」
「え……?」
思わず心臓がドキっとした。
俺の言葉を受け流してまでつぐみさんが俺に伝えたい言葉。
それはまるで「今から自分は死ぬかもしれません」と言っているような気がした。
原因が不明なので、実は物凄い病気だとかそういう可能性もなくはないと思う。
俺がつぐみさんに何を言おうかとまどっていると、つぐみさんは目を瞑ったまま話を続けた。
「亡くなる前の本人は、これから迎える死をどのように感じるのでしょうか……?」
「ちょっと……つぐみさん……?」
「今まで頂いた幸せをかみ締め、満足の中死を迎えるのでしょうか……? それともこれから先にある幸せを断たれた寂しさが、それを超えてしまうものなのでしょうか……?」
「何言ってるの? しっかりしてくれ、つぐみさん!」
つぐみさんが言ってる言葉は、今にも自分が死を迎えることを自覚しているような感じだ。
何が原因かは分からないが、そんなことはあるはずがないし、そんなことを思ってほしくない。
「死を考えるのなんかまだまだ先でいいんだよ。今はゆっくり体を休めよう。つぐみさん」
「…………」
俺がそう言うと、つぐみさんは目を開けて俺ににっこり微笑んでくれた。
物凄く安心できるつぐみさんの笑顔だ。
それによって俺も少しだけ安心することができた。
「私が……こんなことを思っているのは……贅沢です。私は……こんなにもわがままで、ジェリアとして失格です……。本当に……すみません……」
「ジェリア……?」
つぐみさんが言う言葉にはまるで聞覚えがなかった。
聞き返してみようと思ったが、つぐみさんはそれだけうわ言のように言うと、また再び眠りについてしまった。
「ジェリア……」
何だろうと思い、自分の知識をフル稼働させて考えてみる。
しかし思い当たることは何一つない。
珍しく辞書なんかも引いてみたが、ジェリアに該当する言葉は記載されていなかった。
気になる言葉だったが、それよりも今俺に出来ることをしようと考えた。
つぐみさんは相変わらず時折苦しそうな表情を見せながら眠りについている。
つぐみさんが目覚めた時に体力が付けられるよう、俺はつぐみさんと一緒に買った料理本を手に取って料理を始めた。
次につぐみさんが目を覚ましたのは夕方だった。
相変わらず雨は降り続いている。
天気予報なんか昨日とは打って変わって雨が続くと言い出した。
今は気持ちを持ち直すために少しでも早く朝日を見たい所だったので、そういう天気予報のおっさんが妙にムカついた。
その間俺はずっとつぐみさんの看病をしていた。
眠っている時でも、時折苦しそうな声を発するつぐみさんが心配で仕方ない。
こうして再び目を開けると物凄くほっとさせられた。
「気分はどうだろう?」
「……恭介……さん」
俺が作り笑顔でそう声を掛けると、つぐみさんは弱弱しく俺に手を差し伸べてくる。
俺はそれでことを察して、つぐみさんの上半身を引き起こして優しく抱いてやった。
つぐみさんの優しい匂い、華奢な体、やわらかい肌。
いつもこうして抱いている時と感触は全く同じだ。
「あっ……」
「大丈夫。俺がいるから大丈夫だ。つぐみさんはすぐ良くなる」
まるで催眠術のようにそう言い聞かせてやる。
さっき『病は気から』なんていう言葉を思い出し、それを実践してみただけだ。
なんの助けにもなっていないと思う。
こんなことしかできない自分が本当に情けなかった。
「恭介さん……大好き……です」
「俺もだ。つぐみさん」
つぐみさんは俺の胸に顔をうずめ、そうポツリと言った。
その言葉が少し弱弱しい。
普通、人が倒れたってこれほどまでに心配したりしないんだろうが、何故か俺はつぐみさんの安否が死ぬほど心配だった。
不思議なことをたくさん持っているつぐみさん。
つぐみさんの身に何が起こっても不思議ではないというのは本当で、ここでつぐみさんが息を引き取ってしまうという最悪のパターンも少なからず脳裏をよぎったからだ。
つぐみさんはまだ全然若いし体力もある。
常識的に考えて昨日あんなに元気だった人間が途端に死ぬなんてことはまさかないとは思うが、つぐみさんの言葉がこうも弱弱しいと余計な心配をどんどんしてしまう。
「もう少し……こうさせて下さい……」
「あぁ」
つぐみさんと抱き合う。
俺はつぐみさんをあやすように頭を優しくなでてやったりした。
こうやってつぐみさんと密着していると、つぐみさんの心臓が活発に動いている音が聞こえてくる。
大丈夫だ。
俺だってまだまだつぐみさんと経験したいことはたくさんある。
こんな所で終わったりはしないと、俺はそう強く思い直した。
「恭介さん……逃げて下さい」
「え?」
「この場所は……危険です。私は……恭介さんを助けるだけの力が残っていませんし……もう助かりません。恭介さんは私に構わずこの場所を離れてください」
「つぐみさん……?」
抱き合ったまま、つぐみさんは静かにそう漏らす。
「それと……一つお願いがあります」
「…………」
「この袋の中に……恭介さんも知っているように、剣が入っています。恭介さんがこの場所を去る前に、どうかこの剣で私の心臓を居抜いてください」
「つぐみさん! どうしたんだよつぐみさん!!」
今まで黙って聞いていた俺だったが、つぐみさんが突然そんなことを言い出すもんだからつぐみさんが正気を失ったのではないかと疑って、俺は抱いたつぐみさんの体を揺すった。
今まで色々なつぐみさんの言葉に驚かされたが、今の言葉以上に驚いた覚えはない。
どうして俺がつぐみさんを殺さなければならないのかサッパリ分からない。
理由をハッキリ説明して欲しいとかじゃなくて、そんなこと言って欲しくなかった。
「まだ……時間はかかると思いますが……もし、恭介さんがこの場所を出る前に、私の髪が赤く染まりだしたら……、即座に今言った方法で私を殺めて下さい。お願い……します」
「そんなことできる訳ないじゃないか!! どうしたんだよつぐみさん! 俺はここを出て行かないし、つぐみさんを殺めない!」
「…………」
「つぐみさん! つぐみさん!!」
つぐみさんが何を言っているのかよく分からない。
俺がつぐみさんを、この剣で殺す?
冗談じゃない。
そんなことできる訳がない。
「このことは……誰にも……話さないで……。私の大好きな恭介さん……。これから先も……ずっと幸せに……」
「つぐみさん!! つぐみさん!!」
そこでつぐみさんの力が抜けてしまったので、俺はつぐみさんを支えるように体を強く抱いた。
「そうだ! これから俺は幸せだ! つぐみさんがいるからずっと幸せ! つぐみさんだってずっと幸せなんだ! そうだろ? だからおかしなことは言わないでくれ!」
「まだ……。もう少し……最後まで一緒に……」
「つぐみさん!!!」
つぐみさんはまたうわ言のようにそうつぶやいた。
どうなっているのかサッパリ分からない。
つぐみさんは、危険だからここを出ろと言った。
そして、出る前にこの剣でつぐみさんを殺して欲しいと言った。
ここが危険である理由も理解できないし、つぐみさんを殺す理由も全く理解できない。
つぐみさんの言葉は極力尊重しようと思って過ごしてきたが、こればっかりは尊重なんかできるはずなかった。
「つぐみさん……大丈夫だ。俺が……何があっても俺がつぐみさんを守るから」
そうつぐみさんの耳元でささやき、ぎゅっとつぐみさんを抱きしめた。
よく分からないが物凄い胸騒ぎがしてきた。
もちろんここが危険だとか、つぐみさんが死ぬだとかはあり得ない話なのでそんなに気にしてはいけないのだが、どうもつぐみさんの言葉は全て正解のように思えてしまう。
その為か、必死でそんなことはないと思いつつも、心臓は俺の思いとは裏腹に脈を早めていった。
つぐみさんの目は閉じている。
その目から一粒の涙がこぼれていた。
何がどうなっているのかサッパリ分からない。
でも大丈夫。
何が起こっても俺はつぐみさんから逃げたりはしない。
どんな恐怖が襲ってこようと、絶対に乗り切ってみせる。
例え世界がひっくり返ろうとも、俺は最後までつぐみさんを守り通してみせる。
そう心に強く思った。
「つぐみん……」
「すまんな。貴重なバイトなのに働けなくてさ」
夜7時頃。
俺の家に片瀬がやってきた。
調子が悪いつぐみさんを心配して来てくれたようだ。
その片瀬の心遣いに感謝だ。
片瀬が俺の家に入った時は物凄いテンションでつぐみさんに声を掛けていたが、時折見せるつぐみさんの苦しそうな表情を見ると、そんな片瀬のテンションも一気に落ちていってしまった。
つぐみさんが本当に苦しんでいるということが片瀬にも分かったのだろう。
つぐみさんは片瀬が来てからも、一度も目を開けてくれてはいない。
片瀬がマジになって心配するのも訳はないだろう。
「せっかく見舞いに来てくれたのにすまんな。つぐみさんだってお前と話したいだろうけど、今は……な」
「うん……大丈夫」
片瀬の顔が、今までに見たことないくらいに暗い。
本当に片瀬なのか疑ってしまうくらい、別人の表情を見せている。
そんな片瀬に『医者にも診てもらって、単に疲れがたまっていると診断された』と、つぐみさんの状況をしっかりと伝えてやったが、俺と同じようにどうも納得いっていない様子だった。
それもこのつぐみさんの時折見せる苦しそうな顔が原因だろう。
片瀬はしばらくつぐみさんを無言で看病し続け、つぐみさんが当分目を覚ましそうにないと判断すると、立ち上がって帰り支度を始める。
「あ、そうそう忘れてた。はい、つぐみん」
片瀬はカバンの中から白い包みを取り出し、それをつぐみさんの枕元にそっと置く。
「つぐみんの大好きなメガ彩姫とメガ相川。あちしの小遣いで買ったのだ。元気になったら有り難く食ってくれたまえ」
帰り間際に片瀬は急に表情を明るくした。
多分、あんまり重い雰囲気にしたくなかったんだと思う。
俺だって今までの無言の間は嫌だった。
なんというか、その雰囲気がつぐみさんの病気を重くしているような気がしたから。
「すまんな、つぐみさん絶対喜ぶと思う」
「当たり前なのだ! つぐみんはあちしが大好きなのだ!」
片瀬は笑顔でそう言うが、まだどこかつぐみさんを心配しているように表情にかげりがあった。
「でも、つぐみんは『恭介さん』がもっともっと好きなのだ……。バイト中もよくつぐみんから『恭介さん』の話を聞くのだ……。羨ましい……のだ……。きっと、つぐみんはあちしがいなくても、恭介さんがいれば元気になれるのだ。だからあちしは安心して帰れるのだ」
「片瀬……」
「だから、頼んだゾイ」
「分かった」
そう言って片瀬は俺の家を後にしていった。
今の片瀬の言葉で、つぐみさんはやっぱり誰からも愛される人なんだということが分かったと同時に、つぐみさんの思いも俺に伝わってきた。
片瀬もそう言ってくれたんだし、俺がしっかりつぐみさんを元気にしてやらなければならない。
そう思った俺は再びつぐみさんの眠るベッドの横に座り、引き続きつぐみさんの看病を続けた。
夜。
あれからもつぐみさんは目を開いていない。
まだ時折苦しそうな声を上げるものの、呼吸はだいぶ落ち着いているみたいだ。
とにかくゆっくり休めば、割とすぐに回復していくんじゃないかと思ったので、つぐみさんをずっと寝かせたままにしている。
「髪が赤に染まる……」
昼間につぐみさんが話していた言葉を少し思い返していた。
つぐみさんは剣で殺してくれとかここは危ないから離れろとか言っていたが、俺はまだ何もしていない。
ここは危ないと言われても結局今日一日何も起こっていないし、つぐみさんは髪が赤くなるとか言っていたがつぐみさんの髪はまだ黒のままだっていうか、常識的に考えてそんな超常現象起こるはずがない。
きっとつぐみさんは何かの悪夢を見させられていたんだと思う。
だからあんなよく分からないことを言ったんだ。
医者が疲れていると言ったのは案外当たりかもしれなくて、つぐみさんは疲れから妙な悪夢を見させられているんじゃないかと俺は考えた。
ここん所つぐみさんはずっと働き詰めだったし、昨日はあんなに滅茶苦茶暴れて遊んだし、疲れが溜まってもおかしくはない。
だからもうちょっとゆっくり体を休めてあげれば悪夢から解放されるはずだ。
大丈夫。
今までつぐみさんは良いことしかやってこなかった訳だし、こんな素晴らしい人間を天が見放すはずもない。
すぐに良くなるはずだ。
「…………」
窓の外を見てみると、やはり大雨。
結局今日一日中雨が降り続いていることとなった。
再度天気予報を確認した所、ここ一週間は大降りとなるなんて言ってた。
確かに昨日までは一週間晴れると言っていたはずなのに、当てにならないにも程がある。
当てにならないので、明日が雨だという可能性もあんまり信用できない。
っつーことで、俺は天に向かって明日は晴れますようにと祈っておいた。
ピンポーン!
不意にこの家のチャイムが鳴る。
(誰だ? 彰二かな……)
片瀬が帰った後彰二が様子を見に来たが、再び様子を見に来てくれたのかもしれない。
そう思って玄関まで足を運び、ドアの穴から相手を確認した。
その瞬間、俺の顔面は蒼白した。
「す……菅連の連中だ……」




