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君はあの朝日を見たか?  作者: 若雛 ケイ
序章 人間万事塞翁が馬なんてことはない
1/37

序幕 夜明けの後に見える、かすかな明かり

 ……。

 …………。

 ………………。


 この時間になると本当にこの辺りは静かだ。

 車の騒音なんか全くないし、こんな時間に大声上げて騒ぐ奴もいない。

 耳に入ってくるのは虫たちのオーケストラと、風に揺られて静かに音を立てる木々の音のみ。

 他の音は一切ない。

 俺が以前住んでいた町とは大違いだ。

 ここがそれだけ田舎だっていう証拠なのかもしれないが。

 そのせいもあるのか、今俺の心臓は騒音出しまくって暴走しているように聞こえた。

 ドク、ドク、ドク。とな。


「…………」

 バイトから帰ってきて、電気も点けずに荷物を降ろし、即座に部屋の真ん中で瞑想に入るように正座を始めた。

 それから今まで一切身動きをとっていない。

 ひたすら正座だ。

 この態勢が何分ぐらい続いたのか自分でも分からない。


 ふと自分がどれくらいの時間正座しているのか気になったので、俺はベッドの傍にある『暗闇でも光る時計』に目をやった。

 ちなみに帰ってきたのは10時過ぎの話だ。


「……よし。11時半前」

 別に誰かに説教されているとか、そういう訳じゃない。

 精神を集中させて考えたいことがあったから、無心でいたらこうなった。

 時計を確認すると不意に足のしびれが襲い掛かってきた。

 これ、今の状態じゃ立ち上がれないぞ。

 どうしよう。

 そうだ、このまま立ち上がらなきゃいいんだ。

 そうすれば明日の朝にはなんとなくしびれもなくなってるだろう。


「…………」

 そうしたら明日の朝は俺の脚が真っ白になっているか死んでいる。

 まぁそれだけ、足の痺れを忘れるだけずっと考える事があったってことだ。

 そのお陰で足のしびれもすっかり忘れていたんだ。


 足の痺れを忘れるくらい賢明に考えていたこと――


 女。


「…………」

 まぁ、俺くらいの年頃になれば当然として興味が沸いてくる年頃だから仕方ないと思う。

 17にもなって恋に興味がありませんっつーのも少し寂しい。

 青春真っ最中の人間は時として、足の痺れを忘れるくらい恋に悩んでもいいと思う。

 あ、やべぇ。

 そんなことを考えてたら足の痺れに耐えられなくなってきた。ちょっと待ってね。


「……ぐ、ぐぉ……が……が……」

 足を崩し、姿勢を変える。

 足を崩すのにも一苦労だった。

 だって、足の感覚が全くないんだもん。

 まぁ、それはいい。

 俺が考えていたことはそう。


 ――女のことだった。


 俺は生まれてこの方、彼女という物が出来たことがない。

 小学生は付き合って彼女……という流れなんかないから仕方ない。

 中学生の時は周りに冷やかされるとか、照れとかそういうのがあって、なかなか付き合うに至るまでの空気はなかった。

 ちなみに中学最後の時、俺の好きだった子は他の違う男が好きだったという噂が流れた。

 俺、残念。


 気を取り直して高校。

 高校はカップルが成立するっていう流れが中学よりもあるから期待できた。

 都心で育った俺は色々な理由から田舎の進学校の高校に入学したのだが、都会を知っているという意味で他の皆より優位に立てると思っていたのは事実で、正直俺は都会っ子ってだけでモテモテ街道まっしぐらだと思ってた。

 しかし、現実はそううまくはいかなかった。

 田舎とか都会とか、あんまり関係ないんだよね。

 現在高校2年の途中まで一切彼女が出きる気配は無し。

 ちなみに今まで俺の通ってた学校は例外なく共学だ。


 自分のルックスは……別にそれ程マズイものではないと一応は思ってる。

 一応人並みにオシャレには気を使ってる方だと思うし。

 性格は……どうなんだろうな。いたって普通だと思うよ。ホントに。


 ただ、俺は高校に入って最大の失敗を一つ犯してしまった。

 別に授業中うんこ漏らしたとか、そういうのではない。

 その失敗のせいで今の俺の生活に彼女はおろか、友達すらロクにいないんだ。

 だから物理的にも感情的にも俺に寄ってくる女なんか、全くと言っていい程いない。

 そのせいでコクるとか、そこまですら発展したことがない。

 皆が皆して俺を避ける。

 俺は高校では完全に孤立してしまっているのだ。


 だからバイトなんだ。

 今俺はアパートで一人暮らしをしている。

 親からの仕送りは一応あるが、正直それだけじゃ苦しいっつーのが現実で、金を稼ぐ事を目的として高校1年の時から喫茶店でバイトを始めた。

 最初は女を目当てとして入った訳ではなく、事実、バイトにいる女の子は皆年上のお姉さんばかりで、俺と恋人としての付き合いをしてくれそうな空気はなかった。

 俺もあまり恋人としては年上はあまり興味はなかったんで、それはそれでいいと思ってた。

 そしたら学校で大きな失敗をやらかし、そこで彼女を作るという目的の達成が困難となった。


 だからもうバイトの人間からターゲットを探すしかないんだ。

 それ以外に出会いなんつーもんは転がってくるはずがない。

 生憎、俺はナンパして彼女ゲットウハウハっつー柄でもので。


 さて、俺も高2になって仕事もできるようになった頃、待望の新人がバイト仲間として加わった。

 名前は『筑波 ひかり(つくば ひかり)』という。

 年は俺の一つ下の高校一年生。

 凄く素直で真面目な感じの子で、ルックスは文句なしで合格点。

 久しく感じなかったトキメキを感じることの出きるターゲットに間違いはない。

 今日出会ったばかりの子なんだが、俺の目に狂いはない。


 今日彼女が初めて仕事をする時、運良く俺が傍に居て店長から彼女に付いて仕事を教えるよう頼まれた。

 相手が可愛い子だったんで、始めは俺の方が少し緊張していたのだが、彼女の明るい姿勢、優しい心、たまにスッとぼけたような言動(天然系なのか?)によって俺もうまいこと緊張がほぐれ、最高のバイト指導ができたと自分でも思える。

 今日、何度も仕事が終わった後の彼女との会話を思い返したが、再びその時の事を思い返してみた。


-----


「今日は本当にありがとうございました。アルバイトって最初は凄く辛いものなのかと思ってたし、実際に凄く大変だったけれども、凄く楽しかったです。これも北見さんのお陰です。本当にありがとうございました」

 そう言って目の前にいる彼女は深々と俺に対して頭を下げてくる。

 こういったお礼の仕方一つで育ちの良さが伝わってくるもんなんだなぁと思えた。


「いやいや、でも、筑波さん、接客のセンスあるよ。凄く楽しそうに仕事やってたし、周りから見ても凄くいい感じだったと思う」

 俺がそう言うと彼女は「そんな事ないですよ」とか「北見さんのお陰です」とか、少し顔を紅くし、はにかみながら謙遜した。

 それがまた俺のハートを直撃したって訳だ。


「後は卓番と料理の名前、キチンと覚えていこうな! ハンバーク出してるのに、『ミックスピザお待たせしました!』はお客さんもびびる」

「あははははは……。すみません、今度キチンと勉強してきます!」

 それは今日本当に彼女がやったミス。

 彼女は自分の手で、誰がどう見てもピザを出しているのにも関わらず、お客さんに『ジューシーハンバーグです』と説明してしまっていた。

 それにはお客さんも目を丸くしていた。

 料理を運び終わった彼女は顔を紅くして泣きそうな顔して俺の所に泣きついてきてた。

 俺はその場で大爆笑してしまったが。

 なんかコレは料理の名前覚える以前の問題な気がする。

 まぁ、そんな不思議なキャラっつーのもまた凄くいい味を出していた。


「でも、北見さんって本当に凄いですね。これだけの料理の名前を全て覚えているんですもん。私にはすっごい努力しないと無理かな……」

「い、いや、俺は1年以上やってるし……っつーか俺じゃなくても他の店員さんは皆知ってるような……」

「そ、そうなんですか!?」

「うん。だから、筑波さんもゆっくり覚えていこう。大丈夫、自然と覚えられるって」

「はい……。でも私、まだテーブル番号も覚えられなくて……。凄く暗記苦手なんです。私も北見さんのようになれるのかなぁ……」

 そう言って彼女は物凄く心配そうな顔をする。

 初めてのバイトだから不安だらけなのだろう。

 俺もそうだった。

 最初は知り合いだって一人もいなかったし、分からないことだらけで不安だらけだった。

 忙しくてバイト辞めてしまおうかと思った時もあった。

 でも一人凄く優しくしてくれた女の人に励まされ、その人が心の支えになってくれ、こうして続けられていたのだ。


 だから俺も彼女に対し、その人のように心の支えになってあげたいと思った。

 まぁ、多少の下心はありだが。

「大丈夫大丈夫! 数学の成績最下位近くを彷徨ってるこの俺だって覚えられたんだ! 筑波さんだってすぐに覚えられるようになるさ! ガンバレ!」

 まぁ、数学の成績最下位っつーのは多少ウソだが、こう言えば説得力も増すだろう。


 実際やってみると分かると思うが、卓番だとか料理の名前っつーのは本当に自然に覚えられるもので、本当に苦になるような暗記ではないと思う。

「はい! 私も北見さんに近付けるように頑張ります! 不出来者ですが、どうぞこれからも末永くよろしくお願いします!」

「末永く……?」

「はい! 私、頑張ってこのアルバイト続けますので、末永くです!」

「…………」

 いや、にこやかに彼女はそう言うが、それは絶対違う。

 あんたは社員にでもなる気か。と、突っ込んでやりたかったけど、なんか幸せな気分だったのでそのまま流しておいた。

 天然ボケなのか馬鹿なのかよく分からんな。

 でもまぁ可愛いから許す。


「北見さん……、好きです好き好き大好きです」

「俺もだよ、ひかり。フッ……」

「嬉しい!!」

 彼女はうるうるとした目を一瞬俺に見せたかと思うと、いきなり抱きついてきた。

 バイト中なのに困ったものだ。

 それでも俺は彼女の華奢な体をしっかりと抱き返してやった。


-----


 ……ゴメン。最後のは俺の妄想。

 でも、最後の以外は全部今日本当にあった会話だ。

 その後もなんとなく俺は彼女に「凄い」と褒められっぱなしだった。

 きっと、新人じゃなければ彼女の中では皆が「凄い人」なんだろうけど。

 それでも、なんだか彼女が俺を褒めちぎるもんだがらついつい俺はいい気になってしまった。

 そして、その会話を思い返してはニヤニヤしているのだった。


「……俺にも春がきたのか……?」

 高校に入学してからトキめいた回数0。

 彼女を作る所か、恋すらできなかった俺に春の予感がした日だった。




「おう……おう……あぁ。んじゃ分かった。そういう事にしておいてやるよ。んじゃ、そろそろ切るな。恭介の奴が早く切れオーラ出してんだよ」

「…………」

 電話を片手にチラリと横目で俺のことを見てくる、いかにも遊んでそうな大学生と目が合う。

 馬鹿が。俺がどう早く切れオーラを出しているのか説明して欲しいもんだ。

 そう思いながら自分の姿を見てみた。

 そこには床にだらしなく寝転がりながら漫画を片手にポテトチップスを食ってる俺がいる。

 この家に入った時は今日の事を話したくてしょうがなかったけれども、あまりにもこいつの電話が長いんでなんかテンションが少し落ちてしまったようだ。


 奴が電話をきってからふぅとため息をつき、「なんか用か?」って顔してこっちを見てくる。

 俺は見ていた漫画のキリが悪かったので、奴と目が合ってからもなお漫画の方へと目を向けた。

「俺に用があるんじゃねぇのかよ……」

「話したいことがあっただけれども、お前のせいでテンションが落ちた」

 と、めんどくさそうに続きの気になる漫画を閉じ、寝そべった格好のまま奴の方に向き直る。

「んじゃ、自分の部屋に戻れや。俺様は明日も忙しいんだ」

「まぁ、せっかく来てやったんだから話くらい聞いていけや。な?」

 今日あった感激のテンションを自分の中で取り戻しつつ、あぐらをかいてそう言う。

 奴も「仕方ない」といった感じで、傍にあった小さな冷蔵庫から小さいペットボトルを取り出し、少し喉を潤してから俺と向き合うように床にあぐらをかいた。


 俺の目の前にいる男の名は奥村彰二おくむら しょうじという。

 俺とタメ語でしゃべってはいるが、俺より3つ年上の大学生だ。

 彰二とは俺と同じ時期にこのアパートにやってきて以来、ずっと仲良くやらせてもらっている。


 坊主に近いようなベリーショートの髪は金髪、目は釣り目、おまけに耳にはピアスという、とことん田舎のヤンキーみたいな出で立ちをしている彰二だが、ヤンキーという訳では全くなく、本当に気さくでいい人だ。

 俺が悩んでる時は真剣に相談に乗ってくれるし、励ましてくれる。

 飯を奢ってくれることだってしょっちゅうだし、暇なときにカラオケに連れて行ったりもしてくれる。

 部屋が隣同士ということもあって、互いに部屋は勝手に行き来してるし、食料だって俺のも彰二のも関係なく食べたり飲んだりしている。

 俺も彰二も知らない土地に一人ぼっちでやってきたという心境が共通してか、心から助け合える友達……むしろ俺の中では親友と言える存在がこの人なんだ。


 確か去年の夏前だったかな。

 まだ俺と彰二がそこまで仲がいいという訳ではなかった頃。

 まだ彰二が俺のこと『恭介君』とか気持ち悪い呼び方してた時だっけか。

 俺がたまたま近くの牛丼屋で夕飯を食おうと思っていた時に、店内で丁度彰二を見かけた。

 彰二は偉くへこんだような、食事も手につかないような様子だったので、心配した俺が声を掛けてやったら彰二の奴が『好きな人が出来た』って。


 怖そうな外面して意外に可愛い所あるなぁと思って、俺は話を聞いてやった。

 恋愛経験がないくせに偉そうな態度とって夜通し彰二の相談に乗ってやったんだ。

 他にやることなんかなかったしな。

 話しているうちに彰二のいい所にだんだん気がついていった俺は、それから彰二と一気に仲良くなっていった。


 それで、結局彰二の恋は俺の功績もあってか、無事に実らせることが出来た。

 その時彰二は『いの一番』でそのことを俺に報告してくれたし、俺も滅茶苦茶嬉しかった。


 それから彰二は「お前も好きな奴が出来たら俺の所に真っ先に報告しに来い」とひっきりなしに言ってくるようになったが、残念ながらその彰二の要望に答えられることはここ1年間ずっとなかった。



 それで今日に至る訳なんだが、彰二は俺の状況……学校で彼女を作る事が困難な状況を知っている為気を使ってか、ここ半年以上女がらみの話は俺にしてきていない。

 だから今ここで俺が急に「好きな人ができたー!」なんて言っても、いいリアクションは期待できないような気がしてきた。


 っつーか俺、筑波さんのこと本当に好きなのか?

 まだ会って一日っつーのもあるんだろうけど、「無茶苦茶好き!」とか、「俺、恋してます!」みたいに、堂々と言えるような存在じゃない気がしてきた。

 その証拠に、なんかさっきまでのテンションが落ちてきてしまっている。

 まぁ、滅多に……というか、今後高校生活ではもう望めないようなチャンスがいきなり来たんだから、俺も戸惑っているのかもしれないが。

 っつー訳で一生懸命今日あったことを思い出し、テンションを上げながら彰二に筑波さんのことを話した。



「って感じなんだけど、どうよ?」

「ん~……。まだ様子見ってトコなんじゃねぇか? 仕掛けるのはまだ早い」

 結果、こんな時間であるというのにも関わらず割と彰二は真面目に話に乗ってくれた。

 まぁ、彰二には貸しがあるしな。

 前は一生懸命俺が相談にのってやったのに、俺が相談をもちかけたら「あっそ」だけだったら俺、泣いてたかもしれない。

 そんな薄情な奴じゃないってことは分かってるが、少しだけ安心した気がする。


「そうか? 俺、彰二ん時みたいに第一印象でコケてないし、段階は結構進んでると思うんだが」

「バーロゥ。相手は朋恵じゃねーだろーが。どんな人かも全く分からないんだろ? バイト初日、不安盛りだくさんの中にいて優しくされたら相手が誰だろうとそうなるって。きっと違う人間がその子のバイト指導したってその子から同じ台詞が聞けたと思うぜ」

 あごに手を当てて渋い顔して偉そうに語る彰二。

 前の時と立場が逆転しているというのもあって、その生意気な考察に少しムカつきを覚えたが、彰二の言うことも最もだと思えたし、真剣に相談にのってくれてるっていうのが分かったからよしとする。

「様子見……か。なんかつまんねぇな」

「は?」

「様子見ってことは俺は何も仕掛けられないってことだろ? 明日も明後日も筑波ちゃんに会うっつーのに、何も動かないんじゃねぇ……って思ってさ。」

「いや、何も動かないっつーのも違うぞ。分かってるとは思うが、様子見っつっても好感度は上げられるだけ上げておくんだぞ? 勝負を焦っていきなり突拍子もない行動に出るなっつーことだよ」

「突拍子も無い行動って、例えばどんなんよ?」

「いきなりバラの花束をプレゼントとか、セクハラ染みた言動とか、いきなりコクるとか。最初は人畜無害なフリして、普通に対応して相手の様子を探っとけってこったな」

「…………」

 いきなりバラの花束をプレゼントとかセクハラ染みた言動なんか別に注意を受けなくたってしないが、なんか『いきなりコクる』という所には少しだけ反応してしまった。


 彰二には分からないかもしれないが、今日俺が見た限り筑波さんはかなり俺に良い印象を持っているんだよ!

 だから今の俺の頭ん中では明日じりじり近寄って、明後日告白しちまうくらいのノリとテンションがあるんだ。

 成功する自信も実は結構あったりする。

 焦ってないっていったら嘘になるが、ずっと抱いていた夢だ。

 一日でも早く達成したいっていう気持ちは少なからずあった。

 ただでさえ高校に入る前からずっと彼女欲しいと思ってたし、彰二が彼女できてのろけ話を聞かされてからはずっとずっと夢見ていた。

 彼女との夢のラブラブ高校生ライフっつーもんをな。


 それでやっとその対象がでてきたってことで、少し気持ちが先走ってるのかもしれない。

「焦ったらダメってことか……。なぁ、好感度を上げるって、具体的にどういうことすりゃあいいかな?」

 自慢じゃないが、女の子の気持ちなんかあまり分からない。

 雑誌とかで『女にモテる方法』なんていうのはいくらでも見た。

 でもどれもこれもうさんくさい話ばっかだったし、実際実験台として彰二に雑誌に書いてあることをそのまま伝えて実行させたら相手に馬鹿にされて笑われた、なんてこともあった。

 ここは悔しいけど、恋愛の先輩になってしまった彰二先生に聞いてみることにする。


「別に何もしなくたっていいんだよ。バイト仲間なんだろ? しかも新人。だったら普通に仕事の話とか、辛そうだったらアドバイスやるとか、手伝ってやるとかすればいいんだ。ってか、今気付いたんだがそもそもその子彼氏いないのか?」

「あ”!!」

 き、気付かなかった……。

 彼女と接してる時はつい彼女に夢中になってて彼氏のことを聞くことなんか忘れてた。

 そうだ、筑波さんに既に彼氏がいた場合、それを知った瞬間俺の妄想は全部パァになるんだ。

「……まずはそこからチェックしておけよ」

「い、いきなり彼氏いる? って聞くのか?」

「馬鹿。んなもん『この店カップル多いよね。君も彼氏とこういう店来たりするの?』とかなんとか適当に聞いてればすぐポロっと聞けるわ」

「成る程……」

 なんか本当に前回の彰二の時とは立場が逆転してる。

 前回は俺が偉そうに恋愛のいろはを(知ったかで)語ってたもんな……。

 でも、なんか有難いもんだな。

 こういうのって。彰二のお陰で少しだけうまくいけそうな気がしてきた。


(よし、やるぞ! 俺は頑張るんだ!! 俺の未来は明るい!!)

 そうハリキリながらその日は夜遅くまでずっと彰二と恋愛を語っていた。

 なんかモテない二人組みたいで少し嫌だったが。

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