第一章 魔法使い編3
「さぁ、とっとと死んでもらうわね。 くらいなさい、風の初級魔法 “エア カッター”!」
彼女の手のひらに緑色の魔法陣が発生したと思うと、さらにそこから不可視の刃が飛んできた。
「ヤバイ。なんかくるぞ。全力で跳べ!界人。」
魔紀は喧嘩で培った経験からなのか何かを感じ、界人に忠告しながら全力で跳んだ。そして何かが当たって切れた自販機を見て、背筋が寒くなった。
「へぇ〜、よく避けたわね。ただの学生魔法使かと思ってたけど、なかなかやるわね。それにしても何故魔法を使わないのかしら?
もしや、あなたたちは【特異者】なのかしら。」
「知らねぇーよ、そんなこと。」
「だったら好都合だわ。これで一気に計画を進められるわね。では、さっさと済ませないと。風の初級魔法 “エア バレット” 」
今度は手を上にかざすと新たな魔法陣が出現し、彼女の頭上に風が集まりだした。そしてその風から空気の弾が機関銃のように魔紀と界人に襲いかかった。
またも何かを感じ、慌てて避ける魔紀と界人だが、数が多いのか幾つかが肩にかすった。
「ぐわぁ。」
「魔紀!」
「俺は大丈夫だ。それよりも早く路地裏に逃げろ!かすったからまだ動けるが、まともにあったら一撃でKOだぞ。」
「分かったよ、魔紀。」
肩からの傷から血が出るものの、なんとか体を動かすと、界人とともに路地裏に走った。
「ははっ。まだ逃げるつもりなの。さっさと諦めるてはくれないのかしら?まぁ、あなたたちが逃げられる可能性は0だけどね。」
今だ降り続ける風の弾丸はさらに激しさを増して2人に襲いかかる。なんとか致命傷をまぬがれるものの、さらに両足にそれぞれ当たってしまう。
「これでまずは1人目ね。随分手間をかけさせてくれたわね。楽に逝けるとは思わないでちょうだい。」
「魔紀! 今、助けにいくよ!」
「バカか!とっとと逃げろ!じゃないとおまえまで殺されるだろうが!」
「そうだわ。そこのイケメンさん。もし彼を助けたかったら、こちらまで歩いて来なさい。妙なことをしたら彼の命はないと思いなさい。」
魔法陣を魔紀に向けつつ、界人にこちらまで来るように告げると、界人はすぐさま、彼女のもとに行こうとした。
「おまえは本当にバカなのか!こっちに来たら、俺だけでなくおまえまで殺されるぞ!」
「あなたは少し黙っててもらえるかしら。せっかく彼が命をかけて友達を助けようとする感動のシーンなのよ。まっ、両方とも死んでもらうけどね。」
そう楽しそうに告げる祭の姿に胸糞悪く思うと、界人の方を見た。
(ヤバイな。あいつはあの時から俺のピンチになると見境なくなるからな。)
「ふざけるな! 僕は必ず魔紀を助ける。あの時から決めているんだ、親友として何時迄も側にいるって!」
「あらあら、いいじゃない。男同士の友情って感じがして嫌いじゃないわ。でも残念。そーね、せめてまずはイケメンから殺してあげるわ。」
祭はそう言うと、彼に手を向けた。すると、
祭の顔を何かが通り過ぎた。さらにそこから血が垂れた。
「ははっ。なんとか一矢報いたぜ。調子のってるからだ、このババアが!」
「ふざけやがって、このガキが!分かったよ。そんなに早く殺して欲しいなら、てめえから殺してやるよ!」
祭は顔を真っ赤にさせながら、魔紀に魔法陣を向けた。徐々に光を発する魔法陣に自らの死を感じると、魔紀は静かに眼を閉じた。
(やめろ。なんでだ。どうして僕では魔紀を救えない。魔紀には助けられてばかりで何にも返せない。助ける。助ける。タスケル。魔紀をタスケル。)
「うわぁー!やめろー!」
突如、輝き出す界人。そして彼の手に1振りの剣が現れた。その圧倒的な魔力に祭の手が止まった。
「さすがは界人だな。まさか、本当にこの土壇場で魔法を使うようになるなんてな。命がけだったが、なんとか成功してよかったぜ。」
「このガキ。こんな賭けとして成立してないような賭けに自らの命をかけたって言うのかい!あんた頭オカシイんじゃないの!」
「あんたは知らないだろうが、神崎 界人って男は神様に愛され過ぎている男なんだよ。そんな男がそう簡単に死ぬわけないだろうが。奇跡なめんな、ババア!」
(手に馴染む。これなら魔紀を救える。)
「今行くよ、魔紀!」
「なめんな、ガキが!風の初級魔法 “エア バレット”」
「それはもう効かないよ」
界人がその手に持つ光輝く剣を振るうと、風の弾丸は1つ残らず消え去った。そしてその余波がこちらまで届いた。祭は慌てて魔紀から離れた。界人はその隙に魔紀のもとに駆け寄った。
「大丈夫?魔紀。」
「あぁ、なんとか。というか、そう思うなら俺を巻き込みかねない攻撃は避けろよ!」
「ははっ。悪かったね、魔紀。けど、意外に大丈夫そうで驚いたよ。」
「おいおい俺を誰だと思ってるんだ。あの【魔王】だぞ。これくらいでくたばるか。」
「そう。後は僕がやるから魔紀は休んでて。」
そう告げると、界人は祭に近付いていった。
「噂には聞いていたけど、まさかあれが【聖剣】。なんてもん使ってくれるのよ。」
「お姉さんには悪いけど、僕の親友をあそこまで傷つけたんだ。覚悟はいいね。もう手加減できそうにないや。」
「やれるものならやってみろ!このガキが!」
今、ここに第2ラウンドの幕が上がった。