第一章 魔法使い編8
「さぁーて、誰から殺ろうかな。」
刀を携えた優男はそう呟きながら、こちらを見てきた。
「魔紀、どうしようか?」
「俺がやる。界人は救世を連れて、ここから離れろ。」
「そ、そんな。魔紀を置いていくなんて。」
「そ、そうですよ。皆で逃げましょう。」
「いや、何があるか分からないからな。1番戦える界人が救世を助けてやれ。
なんだ、それとも俺が信用できないのか?」
「分かったよ。絶対死なないでよね!」
「任せろ、ダチ公!」
「気をつけてくださいね。魔紀さん。」
「はいはい。」
「はいは1回」
「了解であります!救世様。」
「よろしい、それと次からは成子と呼んでくださいね。では、界人さん、参りましょうか。」
「う、うん。」
2人は魔紀と話し終えると走り去っていった。
「それにしてもお前、あいつら見逃してもよかったのか?
」
「別に構わんさ。むしろ、希望を託していったあいつらの目の前で君の生首を出した時の絶望に満ちた顔が楽しみでしょうがないよ。ヒッヒッヒッヒ!」
「あっ、そうなんだ。出来たらいいな、応援してるよ。」
「貴様、人をバカにしてるのか?」
「いや、悪いが俺は見知らぬ人をバカにするほど暇じゃないんでな。」
「そうかそうか。そんなに早くこの妖刀【緋桜】のさびにしてほしいのか。せっかちだなぁ。」
優男が取り出した妖刀は妖しく緋色に光っており、今にも襲いかかってくると錯覚するほどの凶暴さがあった。
「お前は急いで厨ニ病から足洗った方がいいじゃないか、親が悲しむぞ。」
「死ねやぁぁぁ!」
優男は憤怒の形相で力任せに妖刀を振り下ろした。その余波は慌てて避けた魔紀を吹き飛ばし、あたりの大地に亀裂が走った。
「おいおい、まじでヤバイぜ、これはよ。」
「貴様はこの俺、紅葉 涼を怒らせたんだ。生きて帰れる確率は0だぜ!ヒッヒッヒッヒ!」
(どうする。魔法に関してほとんどわかんねぇぞ。そんな状態であんな奴倒せとかどんな無理ゲーだよ!ちくしょうが!)
「くそっ!こうなりゃ、ヤケクソだ!“エア バレット”」
ヤケクソ気味に指を向け、昨日の魔法をイメージして詠唱すると、指先から風の弾が放たれた。
「うわっ。まじで出来た!行けぇぇぇぇ!」
キンッ!
「ふんっ。随分軽い魔法だな。」
「あれぇぇぇ。弱っ!刀の1振りで消えるのかよ。要練習ってところか。」
「散々人をバカにして、この体たらくか。」
「うるせえ。もう1発くらえっ!」
魔紀は新たに数発の“エア バレット”を放った。しかし、その風の弾は紅葉には当たらず、紅葉の周囲に当たり、建物をところどころ破壊した。
「どこ狙ってるんだ、バーカ!。」
(適当に撃ったやつよりしっかりとイメージしたやつの方が建物の破損が大きいな。やっぱり、イメージが威力に影響するみたいだな。)
「次は“身体 強化”を試してみるか」ボソッ
「何、ブツブツ言ってやがんだ!このヤロー!」
「“身体 強化”!」
魔紀に魔力が纏わったと思うと、紅葉は魔紀に急速に接近すると緋色の斬撃があらゆる方向から襲いかかってきた。それを危なげなく躱すと、紅葉の顔面に向かい右ストレートを放った。
「疾っ‼︎」
大砲の如き重く、疾い一撃は躱されるものの、その拳圧により、紅葉の後ろにあった建物は事故にでもあったかのように崩れさった。
「へぇ〜、なかなかやるじゃねぇか。貴様、本当にただの特異者か?」
(あぶねぇ。今の一撃はいくら妖刀の力で強化されている俺の肉体でも喰らったらまずかった。)
「さぁーて、どうかな?」
(マジかよ!威力にも驚いたが、それよりも消費する魔力が多過ぎる。こんなんじゃ、すぐ魔力切れだぞ。どうする?)
魔紀は数秒考えると、一旦“身体 強化”を解き、相手の出方を伺った。
「ほらほら、どうした?どんどん行くぞ!」
またも襲いかかる紅葉の動きを冷静に観察しつつ、魔紀は躱していった。そして、刀を振り上げて出来た隙に拳にのみ魔力を集中して放った。スピードが先程より落ちていたのか、紅葉に刀でガードされるも向こう側に紅葉ごと吹き飛ばした。
どがぁぁぁぁん!
「ぐわっ、まさか“部分 強化”まで使えるのかよ!完全に計算外だぞ、ちくしょうが!
というか、何で魔法を使わずに俺の斬撃を避けられるんだよ!貴様、本当に人間か!」
「人間に決まってんだろうが!けど、前回と違って、ある程度慣れたからな、まだ動けるぜ!」
(よし、これなら消費も少ないし、まだ戦えるな。けど、どうせなら調べたかったことを調べてみるか!)
「まずはこれだ!」
魔紀は近くにあった瓦礫の一部に魔力を纏わせると、紅葉に向かって投げつけた。
「こんな、子ども騙しが通用するか!」
「だったら、次はこれだ!」
瓦礫が紅葉の妖刀に弾かれるのを見ると、また新たな同じような大きさの瓦礫に魔力を流すとまたも投げつけた。
「無駄無駄ァ!」
緋色の妖刀はまたも瓦礫に向かい、その刃を突き立てようとするが、
「落ちろォォォォ!」
突如、まっすぐに向かっていた瓦礫は高度を下げ、紅葉の足元を襲った。
「チッ。外したか。」
しかし、狙いが甘かったのか、わずかに外れてしまった。
(こいつ、魔法陣の補助なしに、魔力抵抗の高いそこらへんのものに魔力を流して操ったのか!そんなの上級魔法使でもなかなかいないぞ!こいつ、まじで素人なのか?)
「水の初級魔法、“ミスト ボール”!」
(風に土に水まで、いったいいくつ魔法適性があるんだこいつ!)
何やら訝しむ紅葉に、新たに青の魔法陣が魔紀の手から現れると、そこから水の球体を紅葉に向け、放った。
「しゃらくせぇー!」
しかし、刀の一閃できえ、水は辺りに飛び散った。
「ハァハァハァ。」
(やっぱり、風属性の魔法より消費する魔力が多い。)
「なんだ、もう魔力切れか?やはり、貴様は魔力を操る技術はすごいが、魔力が極端に少ないみたいだなぁ。」
(俺の魔法は確かに飛び散ったのに、あいつの足元には一切濡れた跡が無い。しかもさっきまでのことを加味するとやっぱり推測通りか。まぁ、今はこいつを何とかするか。)
「うぉぉぉぉ!」
「な、何なんだ?ふざけやがって!」
突如、頭を抱えて叫ぶ魔紀に呆然とするも、警戒を緩めない紅葉。
「フゥ〜。スッキリした。よっしゃ、いっちょ行くか!」
「魔力が残り少ないことに恐怖して可笑しくなったか。」
「・・・・・・」
「ふんっ、だんまりかよ。つまらない奴だ。ならばこれで終わらせるぜ“緋火 紅葉”!」
緋色の魔法陣が緋色の妖刀を通過するとさっきまで緋色の刀身がさらに赤く染まり、火色になっていく。それにより、もとの凶暴さがさらに研ぎ澄まされたものになった。
「これで俺の妖刀の能力は更に跳ね上がったぜ。一息にあの世に逝かせてやるぜ!ヒーヒッヒッヒッ!」
火色になった妖刀を片手に突っ込む紅葉。魔紀はそれを見つめるも決して動こうとはしなかった。
「ビビったか、だが今更止めん。精々あの世で俺をバカにしたことを後悔するがいい!
“緋火紅牙”!」
ドガァァァン!
炎が巻きついた妖刀を振り下ろすと、そこから全てを飲み込まんとする炎の大蛇が姿を現した。炎の大蛇は魔紀に向かい、大地に突撃すると、凄まじい爆発音が響かせ、大地に大きなクレーターを作った。
ーーーーその少し前
「さっきから歩きっぱなしだけど大丈夫、救世さん?」
「えぇ、大丈夫よ。それよりも今起こっている事態に対しての説明が欲しいのだけれど。」
「うん。無事に帰ったら教えるよ。
って、あれ?何か来る!」
グルルルル!
「いったい何ですか?あの化け物は」
そこには2体の化け物がいた。狼のような頭に強靭な肉体、鋭い爪と牙を持ち、二足歩行している化け物はまっすぐにこっちを見てくる。
「成子さんは後ろの建物に隠れてて、こいつらは僕がなんとかするから。」
「なんとかって、それで本当に大丈夫なんですか?」
「多分大丈夫。成子さんは命にかえても守るから。」キリッ
「そうですか、わかりました。でも、怪我はしないでくださいね。」ニコッ
「う、うん。分かったよ///」
(なんでだろう?顔が熱くて、まともに彼女の方が見れない。けど、そんなに悪い気分じゃないな。それに体の奥から力が湧き上がってくる。)
グルルルル!
グガァァァァ!
「今なら何でも出来る気がするよ!」
バンッ!
界人は聖剣を手に出現させると、2体の化け物に向けて、飛び出した。まず、手前にいる1体に振り下ろすも、片腕でガードされる。
「堅い!だったら、光の初級魔法“ライト オーラ”!」
聖剣に光を纏わせると、再び斬りつける。今度は躱されるが、かすかに掠ったのか、軽く血がでていた。
「よし!これならいける。」
ギャァァァァ!
2体の化け物は雄叫びをあげると、界人に鋭い爪を振るった。聖剣で2体の攻撃をガードするも、2体のコンビネーションにより少しずつ傷ついていく。界人は聖剣を大きく横凪ぎにすることで、1度距離をとった。
「強い!でも!」
“ライト ショット ”を発動させ、牽制しつつ、光の中級魔法“フォトン ベール”により、強化された身体能力で化け物達を圧倒する。しかし、化け物は口から魔力の塊を打ち出して対抗してきた。それは後ろの路上に当たり、破片が成子に当たった。
「痛っ!」
「てめぇぇぇぇ!許さん!合成魔法“聖火の息吹”」
魔法陣から黄金の炎が邪を滅さんとするかのように吹き出した。その聖なる炎は2体の化け物達をのみ込むと、一瞬で滅した。
「ハァハァハァ。」
「大丈夫ですか?界人さん。」
「あぁ、僕は大丈夫。そんなことよりもさっきの怪我を見せて、僕が治すから。」
「優しいのですね。なら、是非お願いします。」
「“ヒール”、これで大丈夫だと思うよ。」
(さっき、彼女が傷つけられた時、自分でも驚くほどムカついたな。いったいなんでだろう?)
ドガァァァン!
突如、鳴り響く轟音に2人はその音のした方向に眼を向けた。
「これは魔紀がいる方向からだ。」
「魔紀さん・・・・。どうかご無事で。」