表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方電影録  作者: 天零夢
5/6

第肆章 妖怪の山

「くそっ、何がどうなってんだいったい!?」


 妖怪の山。その頂上の守屋神社へと続く森の道中、襲い掛かってくる小型の妖怪を跳ね飛ばしながら、魔理沙が叫ぶ。


 霊夢も早苗も、そして魔理沙も誰一人として状況を完全に理解できていなかった。

 

 早苗が博麗神社に駆け込んできたのはおよそ30分前。早苗が巫女を勤め、八坂神奈子と守屋諏訪子の二柱を祀る守屋神社が、同盟を組んでいたはずの天狗の一族に襲われているという知らせを受け、三人は早苗の誘導のもと、八坂神社へ向かっていた。


 早苗の話によると、早苗たち三人が境内で談笑していたところ、突然天狗の大群が襲い掛かってきたという。無論、天狗の一人一人は神である神奈子と諏訪子にかなうわけがない。しかし今回、天狗たちは集団で襲い掛かり、統制のとれた動きで攻撃を仕掛けてくる。初めは優勢だった三人が劣勢に追い込まれるのは時間の問題だった。


 このままでは勝算は薄いと判断した二柱はせめて早苗だけでも逃がそうと、残った神柱力をかき集め、嫌がる早苗を無理やり博麗神社の付近に瞬間移動させたのだった。


「とりあえず、守屋神社にたどり着かなきゃ何もわからないわ。急ぐわよ!」


 霊夢の言葉に三人はスピードを上げて薄暗い林の中を突っ切っていく。



 数分後。山頂に着いた三人の目に飛び込んできたのは、想像を絶する光景だった。


 地面に突き刺さる巨大な柱や鉄輪、紅く染まった湖、地に倒れている死屍累々の天狗たち。神社のかなめである社はそのほとんどが大破しており、木片があちこちに散乱していた。


「うへぇ、ひでぇなこりゃ・・・」


 地獄のような光景に、魔理沙の口が漏らす。早苗は言葉も出ないのか、呆然とその場に立ち尽くしているだけだった。


「神奈子と諏訪子は!?」


 霊夢の言葉に、唖然としていた二人が我を取り戻す。三人はあたりを見渡すが、これだけの惨状の中で二柱が無事だという保証はない。最悪のイメージが三人の頭をよぎる。


 最初に声を上げたのは魔理沙だった。あっ、っと叫んで彼女が指差した先には、見覚えのある人影が地に片膝をついていた。その影を見て、早苗がたまらず駆け出す。


「神奈子様っ!!」


 早苗の声が聞こえたのか、影、八坂神奈子はゆっくりと顔を上げた。


「・・・早苗!なんで戻ってきた!?」


 神奈子の声を無視し、早苗は彼女のもとに駆け寄った。遅れて霊夢と魔理沙も駆け寄る。


「神奈子様、よくぞ御無事で!そのお怪我は!?」


「大したことないさこれくらい。それよりも諏訪子のほうを頼む・・・」


 そう言って彼女が向けた視線の先には、仰向けで地面に倒れる幼い少女の姿があった。


「諏訪子様ッ!?」


 早苗が半ば悲鳴のような声を上げる。

 

 神奈子も十分重症だったが、そばに倒れる守矢諏訪子はそれ以上の重傷だった。腕はあらぬ方向に折れ曲がり、体中に裂傷が刻まれ、血が流れ出している。神である二人に明確な死という概念は存在しないが、あまりに肉体的な負荷がかかりすぎると実体化ができなくなり、最悪の場合存在自体の消滅につながる。


「魔理沙!早く回復魔法を!!」


「わかってるって!くそっ、回復系の魔法は専門外なんだが・・・」


 霊夢の鋭い声に、魔理沙は懐から小瓶を取り出して栓を抜くと何事か唱えながら便の口を諏訪子の小さな口唇にあて、中の緑色をした液体を口内に注ぎ込む。


 人間用の薬と魔法が神に効くのかはわからなかったが、今は諏訪子の存在の有無がかかっている。三人の打つ手はこれしかなかった。


「早く!諏訪子の回復がある程度終わったら、二人を連れて山を下りるわよ!」


「えっ、でもお二人がこんな状況のままで・・・」


「いつまでもここにいるわけにはいかないわ。敵は幻想郷のパワーバランスの一角を担うほどの集団。そこらに散らばる天狗たちが相手の全兵力だとは到底思えないし、たった今援軍が駆けつけてきてもおかしくない。その上万が一天魔にでも出てこられたら間違いなく全滅だわ。」


 霊夢の考えは正しかった。あたりに倒れている天狗たちは天狗の軍隊の中でも最下層、人間の軍隊でいえば歩兵にあたる白狼天狗と呼ばれる者たちがほとんどだった。天狗たちは独自の社会形態を形成しており、その内部は最下層戦闘員の白狼天狗、その白狼天狗をまとめ上げ監督する少数精鋭である鴉天狗、さらにその頂点に通称「天魔」と呼ばれる大天狗が君臨することで成り立っている。上下関係が徹底されている天狗社会。その徹底の理由は単純に妖怪としての身分の差のせいでもあるが、最大の理由は生まれついての種としての力の差。早い話が天狗の社会は生まれつき力を持った者が蹂躙する実力社会なのである。


「今すぐ山を下りるってのには私も賛成だ。」


 うめきながらも神奈子が霊夢に賛同する。


「私たちだけでもだいぶ倒したが、案の定戦闘中に撤退していく連中が見えた。おそらく戦況の報告と援軍の要請だろうね。こうなるとこっちの退却は早ければ早いほどいい。」


 二人の言葉に小瓶を交換している魔理沙の目に同意の色が宿る。早苗はまだ何か言いたげな顔をしていたが、主である神奈子に言われては霊夢に賛同するしかなかった。


              *         *         *


「急いでっ!時間がないわ!!」


 一同を先導しつつ、森の湿った空気を切り裂きながら霊夢が叫ぶ。


「急ぐっつってもなあ・・・、こちとら負傷者が二人もいるんだ。そんなにスピードはだせない・・ぜっ!っと。」


 再び飛び掛かってくる小型の妖怪を、間一髪魔理沙が細い魔法のレーザーで焼き払う。


 霊夢、魔理沙、早苗に救出した神奈子と諏訪子を加えた5人は、あたりに細心の注意を払いながらも来たときに通ってきた道を全力で引き返していた。先頭を霊夢、その後ろを諏訪子をおぶった魔理沙、最後尾を神奈子とその横に付き添う早苗が飛行している。諏訪子はいまだに気絶したままだったが、魔理沙の回復魔法が効いたらしく全身の傷はほとんどがふさがりかけていた。


 全速力で山を下りる中、できるだけ声を抑えて早苗が魔理沙に問いかけた。


「あの・・・、魔理沙さん?」


「ん?なんだ?」


「来る時も思っていたんですけど、なんで霊夢さんはわざわざ林の中のルートを選んで飛んでるんですか?空に敵もいないようですし、急いでいるならもっと上空を一直線に飛んだほうが速い気がするのですが・・・」


 それを聞いた魔理沙は大きくため息をついた。早苗は自分が何か変なことを言ったのだろうかと首をかしげる。そんな早苗を呆れた目で見つめながら魔理沙が口を開いた。


「あのなあ早苗、お前今がどういう状況なのかわかってるか?」


「へ?」


「連中はお前らに襲い掛かってきたんだろ?しかも戦闘跡から見て周りの破壊なんて気にしちゃいない。となるとむこうの狙いはおそらくお前ら自身の可能性が高い。今頃はそうだな、当然消えたお前たちを追って捜索隊が組まれてる頃だろ。この広い山の中だ、ただでさえ目標の発見には人数と時間がかかる。加えて神奈子たちがあいつらを死なない程度に痛めつけてくれたおかげで敵さんはけが人の救助にも人員を割かなきゃいけない。どう見たって人手不足、つまり逃げる私たちにとって今の状況は絶対的に有利なんだよ。」


 早苗の方を振り返りながらも、魔理沙は背中に目でもあるのか器用に前方の木々をかわし続けながら続ける。


「今空に誰もいないように見えるのは敵の作戦、こっちがしびれ切らして飛び出してきてくれんのを待ってんだよ。空中なら発見も容易だからな。今上空に飛び出してみろ、すぐに発見されて連中に袋叩きだ。もしかしたら逃げ切れる可能性もあるかもしれないが何せ相手は幻想郷最速の戦闘部隊、しかもこっちは負傷者付き。今は時間がかかってもリスク回避が優先なんだよ。まあ、お前らが熱心な自殺志願者だってんなら止めはしないけどな。」


 魔理沙の解説に自分の考えがあまりにも軽率だったことを思い知らされ、早苗は無言でうつむく。そんな早苗を励ますように魔理沙が続けた。


「まあ安心しろよ、もうすぐ森の出口だ。そこを抜けりゃあほぼ山を脱出したも同然だし、決まりごとにうるさい天狗の連中のことだ、今すぐに自分たちのテリトリーを越えてまで私たちを追ってはこないだ・・・・」


「ほら後ろの四人!出口が見えたわよ!!」


 魔理沙が言い終わらないうちに先頭の霊夢から怒声がとんだ。魔理沙が前を見ると、永遠に続くかと思えるような木々が乱立する風景の奥に小さな灯火のような光の粒がぽつりと見えた。近づくにつれて粒は大きくなり、まばゆい光の帯にその姿を変える。その光を認めた四人はわずかにスピードを上げ次々と光の中へ突入していった。


 森は突然にそこで終わっていた。そこは霊夢たちが山に侵入する際にも通った荒れた丘陵地帯だった。過去に大きな地殻変動でもあったのか、あちこちの地面からから大小さまざまな岩盤が突き出し、丘の片側では|隆起した断層がその歪な斑模様を露わにしている。


 あたりに天狗の姿がないことを確認した魔理沙はほっと胸をなでおろした。どうやら敵の追手もまだここまではたどり着いていないらしい。このまま順調にいけばこの異常な山を脱出できる。


「どうやら無事に逃げ切れるみたいだな。ここまでくればむこうだって・・・」


 魔理沙がそこまで言いかけた時だった。



「おやおや、そんなに急いでどこへ行かれるんですか?」


 

 上空から静かな声が響いた。耳元をくすぐる風のような、しかし骨まで凍らせるような冷たい声。


「ッ!!」


 全員が当然の謎の声に一瞬硬直し、空を仰ぐ。一同の目に映ったのは空を覆う大量の木の葉。あまりに突然かつ異常すぎる光景に魔理沙や早苗の思考が停止する中、霊夢の反応だけが迅速だった。霊夢が叫ぶ。


「みんな逃げ・・・・」


 魔理沙に聞こえたのはそこまでだった。


 耳をつんざく轟音、そして突風。


 神奈子と早苗、そして諏訪子を背負っていた魔理沙は身がまえる間もなく風と音の濁流に飲み込まれ、そのままなすすべもなく地面に叩き付けられた。猛然と舞い上がる土煙と共に、この季節にはありえないはずの新緑に染まった木の葉が宙に舞い散る。


 全身をくまなく打ち付けられ、傷だらけになりながらも魔理沙は立ち上がった。彼女の舌が口内に広がる鉄の味を敏感に感じ取る。血だった。どうやら落下の際に口の中を切ったらしい。しかし今はそんなことを気にしていられる状況ではなかった。


「霊夢!!」


 魔理沙が叫ぶ。しかし煙の中から返事はなかった。


 明らかな敵襲。


 もし霊夢が私たちをかばってこの攻撃をまともに受けていたのだとしたら。霊夢が無事であることを信じたいが、いやなイメージが頭から離れない。魔理沙はすでに気付いていた、自分が以前この攻撃を見たことがあることを。そして悟っていた、謎の襲撃者の正体を。


 やがて一陣の風が吹き、あたりを覆う土煙と木の葉が跡形もなく霧散した。晴れた魔理沙の視界に映ったのは敵の足による一撃を額の前で交差させた腕で間一髪防いでいた霊夢、そしてその霊夢の膂力と自らの上空からの一撃の威力を拮抗させる襲撃者の姿だった。


 その場にいる誰もが襲撃者の名を知っていた。彼女・・の口から渇いた哄笑が漏れ出る。


「おやおや、完璧に虚を突いたはずだったんですがねぇ・・・」


「てめぇ・・・射命丸!なぜ私たちに攻撃を仕掛けた!!」


 魔理沙が力の限り叫ぶ。襲撃者、鴉天狗の射命丸しゃめいまるあやは後方に飛び上がり、着地すると魔理沙をなにか不思議なものでも見るような目つきで見つめた。


「なぜって、に攻撃を仕掛けることの何がおかしいんですか?」


 そう言って彼女が浮かべた相手をあざ笑うかのような笑みに、全員の背筋に悪寒が走る。


 幻想郷最大の戦闘部隊の天狗といえども、その全てが純粋な戦闘員で構成されているわけではない。山の周囲を見張り、外敵の侵入を察知する哨戒しょうかい部隊。哨戒部隊からの報告を受け、侵入者の迎撃にあたる|迎撃部隊。情報収集や緊急時に作成を立てる諜報部隊や首脳部隊など、内部ではいくつもの隊に分割されている。彼女、射命丸文はその中でも情報収集と非常時の侵入者迎撃を任される諜報兼迎撃部隊、つまり同時に二つの仕事を任せられたエリートだった。しかし、そんな地位につきながらも明るく気さくな性格の彼女は多くの人との親交を持ち、困ったときにはよく霊夢や魔理沙のところにも情報収集に訪れていた。少し傲慢なところもあるがなぜか憎めない、そんな彼女を霊夢たちは信頼し、よき友人としてつきあっていたのだが。


 口の端をゆがめて笑うその姿に、霊夢たちの知る射命丸文の姿はどこにもなかった。


「文、あんたがどうして攻撃を仕掛けてきたのかはあえて訊かない・・・」


 霊夢がそう言ってゆっくりと立ち上がる。一見、文の攻撃を完璧に防いだかのように見えた霊夢だったが完全には技の威力を相殺できず、額からすうっと流れた血が彼女の頬に紅い筋を描く。そのまま顎から滴り落ちた血の滴が乾いた地面に吸い込まれ、いくつもの黒い染みをつくった。


「でも、どうして無言のまま攻撃を仕掛けた?なぜスペルカード発言をしなかったの?今のはあなたのスペル『風神木の葉隠れ』。あなたにはスペル名を唱える義務があったはず。答えなさい、文!!」


 霊夢の叫びに、文はやれやれといった顔でこうべを振った。


「スペルカードルールゥ?ああ、あなたが作ったおままごと遊びのための決まりごとのことですか。」


 そこで射命丸は言葉をいったん切ると、わざとらしく大きなため息をつく。


「スペル詠唱の義務って・・・実際の殺し合いであんなめんどくさいこと、いったい誰がまじめにやるんですかねぇ。ま、私はやさしいですから前にった時には付き合ってあげましたけど。」


 普段の文とはまるで別人。霊夢には彼女が偽物か、もしくは何かに取りつかれているとしか思えなかった。しかし目の前に立つ彼女は間違いなく本物、かつ何かに憑かれて正気を失っているようにも見えない。


「文、あんた・・・」


「そこをどいてくれ、霊夢。」


 霊夢の言葉を遮ったのは魔理沙だった。霊夢が振り向くと、魔理沙は帽子を深くかぶり直し、箒にまたがっていた。その直後、彼女のまたがる箒の先に小型の魔方陣が展開される。鈍く光りながらゆっくりと回転するそれは、まるで主人の合図を待ちきれない獰猛な獣のように震え、大気を唸らせる。


「なんだか知らないが時間がないんだ。それにそいつは私たちの知ってる射命丸じゃないし、ここを無事で通してくれるわけでもないらしい。なら今とるべき行動はたった一つ。こいつをぶっ倒してからの正面突破だ!!」


 魔理沙が豪快に言い放つと同時に、彼女の箒の先から膨大な量の魔力が放出され、箒はその主人の乗せたまま常識はずれの加速度で文に向って突進を開始した。自身と箒の質量を圧倒的な速度で敵に叩き付ける大技、「ブレイジングスター」。魔理沙の体重は決して重いわけではないが、この技の最大の武器はその速さ。何者をも凌駕するその圧倒的なスピードは全てを吹き飛ばす超威力を生み出し、無論食らった側はただでは済まない。


 しかし、彗星となって突っ込んでくる魔理沙をみとめた文のとった行動は回避でも防御でもなかった。彼女はただパチンと指を鳴らし、一言つぶやいただけだった。


「来なさい、椛。」


 次の瞬間、魔理沙の乗った箒はそのスピードを微塵も緩めぬまま目標に衝突、そのまま跳ね飛ばした。いや、跳ね飛ばすはずだった。なんと箒の柄は文からあと数十センチのところで完全に静止していた。


 魔理沙は自分の見たものが信じられなかった。この技をよけられたことなら何度かあるが、止められたことなど一度もない。今回も当たれば一撃で決着、たとえよけられたとしてもそのまま文の背後を取り、霊夢と挟み撃ちにして数の利を稼ぐつもりだった。しかし文が指を鳴らして何かを呟いた瞬間、自分と文の間に入り込んできた何か・・が箒の柄をつかみ、力ずくで衝撃を殺したのだ。魔理沙の動きを止めたそれは、たった一人の白髪の白狼天狗だった。


「ナイスキャッチです、椛。」


 そう言って文は呆然とする魔理沙や霊夢の前で、先ほどとは打って変わったにこやかな笑顔で愉快そうに手を叩く。魔理沙の攻撃が止められるのかをあらかじめ知っていたかのように、その顔には微塵の恐怖も焦燥もなかった。彼女は饒舌に続ける。


「いやあ、感心しますよ。毎回毎回主人の呼びつけにここまでもみじだけで椛だけです。」


「文様が御無事で何よりです。それと、無駄なお世辞はよしてください。」


 椛と呼ばれた白狼天狗は箒の柄をつかんだまま横目で文を見る。さすがに魔理沙の一撃を楽に受け止めたわけではなく、踏ん張ったその両足は衝撃で深く地面にめり込み、大きく肩で息をしている。


 そこまでいって、やっと魔理沙が我に返り、目の前の椛に向かって叫んだ。


「や、やいやい!!どこの誰だか知らないが、私の攻撃を邪魔しやがって!!」


 しかし二人の天狗は魔理沙の言葉などまるで意に介さない。


「椛、この人間を掃除しておきなさい。なに、相手は魔法を少しかじった程度のただの人間です。あなたなら片手で相手できるでしょう。私は博麗の巫女の相手をします。」


「おいてめぇ、文!!いま私のことをなんて・・・」


 憤慨する魔理沙。しかし彼女はその台詞セリフを最後まで言うことができなかった。箒の柄を握っていた椛が、その小柄な体からは想像もできないような剛力で魔理沙ごと箒を空中へと投げ飛ばしたのだ。自分が宙に投げ出されたことに魔理沙が気付いた時には、既に彼女の体は重力に負け落下を始めていた。


「くっ!!」


 魔理沙は空中で何とか体をねじり、そのまま地面に叩き付けられるのを回避。ぎりぎりで地面に着地した。魔理沙の足を衝撃が伝わり、足の骨と筋肉が悲鳴を上げる。一般の人間ならそのまま体勢を立て直す暇もなく地面に叩き付けられ、骨の何本かは折っていただろう。長年箒に乗って空を飛びつつけ、バランス感覚が鍛えられていた魔理沙だからこそできる芸当だった。


 顔を上げた魔理沙は椛に怒りの目線を向ける。そこで初めて魔理沙は椛の全身を見た。全身を主に白で彩られた服に身を包み、頭の上には文と同系の小さな帽子のようなものを乗せている。おそらく天狗が共通してかぶるものなのだろう。しかし、一番に魔理沙の目を引いたのはその背に背負われた巨大な刀。斬馬刀を一回り小さくしたようなそれはゆうに1メートル半はあり、彼女の小柄な体とは不釣り合いなその大きさは、さやに納まってはいるもののまるで抜身のような存在感を放ち、見る者に恐怖を与えた。


「おいお前。お前が誰かは知らないが、邪魔するってんなら手加減しな・・」


「口を慎みなさい人間風情が。」


 先ほど文に話しかけていた時とは別人のような冷たい声。静かだが、明らかな敵意と殺意を内包したそれは、聞くものに反抗を許さない威厳に満ちていた。言い放つと同時に椛は巨大な剣を背中から抜き放つ。


 椛の声に一瞬硬直する魔理沙。こいつはやばい。数々の妖怪を退治してきた魔理沙の経験が、大音量で警報を鳴らしていた。いったん距離をとろうとした魔理沙が身構えた瞬間だった。


 一瞬で彼女の懐に飛び込んだ椛が、気づいた時には無防備な魔理沙に向って力任せにその巨大な鉄塊を魔理沙にむかって振り下ろしていた。


 ギリギリで反応して箒を構える魔理沙。しかしそんな彼女の防御などそこにないかのように椛の一撃は微塵もその勢いを緩めず、箒ごと魔理沙を勢いよく吹き飛ばした。


「がっ!!」


 突き出た岩盤のうちの一つになすすべもなく叩き付けられる魔理沙。魔法で硬化させた箒で防いでいたので真っ二つにされるのは何とか防いだが、それでも背中から岩盤に叩き付けられたダメージは大きく、彼女の口から肺の中の空気とともに苦悶のうめき声が漏れる。


「魔理沙っ!」


 魔理沙に駆け寄ろうとする霊夢、しかしその前に文が立ちふさがった。


「邪魔はさせませんよ。あなたの相手は私です。」


 立ち止まる霊夢。魔理沙の相手は見るからに肉弾戦を得意とした妖怪、一対一では魔理沙ほうが圧倒的に分が悪い。助太刀に行きたいが、目の前の文はむざむざそれをさせてくれるような優しい相手ではない。だからといって今ここで文と戦えばすきを突いて背後からあの白狼天狗が襲い掛かってくる。それを止める力は魔理沙にはない。


「私たちの戦いはあの二人の戦いを見てからでも遅くないでしょう。ああ、仲間の天狗たちなら当分来ませんよ。今はもっぱら山の入口、こちらと逆の方向を捜索してます。」


霊夢は唇をかみしめる。早苗にも戦闘への参加を頼みたいが今の彼女は神奈子と諏訪子の盾となる役目がある。もし今の二柱が奇襲でも受けたらひとたまりもない。


 今の霊夢にできるのはただ魔理沙の勝利を信じることだけだった。


次の最新はこちらの都合で相当後になりそうですm(_ _)m。次の話から本格的にバトルに入ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ