一章 その5
ちょっと昔話。
うっ………ここは何処だろう?頭が痛い…割れる様だ…
酷い倦怠感の中、身体を起こすと辺りを見回した。
どうやら森の中のようだ。薄暗いがまだ薄暗いため夜ではない事が分かる。
………何故ここにいるのだろう?…わからない…取り敢えず歩いてみるか……
おぼつかない足取りで木を支えに歩き出す。
…足が痛い……腕が痛い……全身の骨が鑢で削られている様だ……
激痛に顔を顰めながらフラフラと数m歩いては立ち止まり、また数m歩いては立ち止まりながら森の中を彷徨った。
…僕は誰なんだろう?……頭が痛くて、思い出せない……
と、その時だった。
数十メートル先の茂みから痩せこけた狼が飛び出して来た。
涎を垂らしながら此方を見ている。どうやら飢えている様だ。
…あの生き物は何だろう?……視界が霞む………良く見えない…
例え視界が霞んでいなくてもこの時の彼にまともな判断は出来なかっただろう。
ウォーーーーン
狼が遠吠えをした。
その鳴き声の意味も知らず彼は立ち尽くしたままだった。
暫くすると、数十匹の狼達が次から次へと茂みの中から現れた。
……何だか一杯いるn!?!?…
突如彼の頭を襲った頭痛。それは背後から忍び寄ったこの群れのリーダー格の狼だった。
頭が裂け、血が溢れ出る。霞む視界が血で滲み、さらに見えなくなった。
今の一撃で尽き果てそうだった彼の体力を根こそぎ奪い取った為、彼は倒れたままピクリとも動くことが出来なかった。
…ああ、このまま死ぬのか……まぁ誰かの糧になれるならそれでもいいか……と思っていたその時、
「貴様等どけぇええぇええ!!」
怒声を発しながら彼に今にも止めを刺そうとしていた狼を剣で切り払い、彼と狼の間に立ち塞がり、彼に問いかけた。
「大丈夫か?今助けてやる」
そう言って突如乱入してきた男は剣を構え、狼の中に突っ込んで行った。
数分後辺りはくすんだ灰色の毛玉と赤い水溜りが森を彩っていた。その中に体の半分を真っ赤に染め上げた男がいた。狼達の血を浴び、自身の血は一滴も流さずに勝った様だ。
男は彼に近付きぼやいた。
「クソッ!出血が激しいな…おい、ちょっと痛いが我慢しろよ」
そういって腰のポーチの中から包帯を取り出し、彼の頭に巻き付けた。
その手つきは熟練の手つきであった。
…この人は誰なのだろう?……頭がぼーっとする…………少し心地良いな…
彼の命はもう後数時間のうちに失われる寸前だった。
「おい!しっかりしろ!意識を保て!!死ぬんじゃない!!!!」
その声を最後に彼の意識は途絶えた。