二章 その3
今回はロクシュウェル視点で話して行きます。
エリスが黒銀の狼の相手をしている時、ロクシュウェル達はもう一匹の魔物と対峙していた。
…クソッ!マズイな…そろそろロヴィニアの結界ももう持たない…
魔法を詠唱しながらロクシュウェルは内心焦っていた。マールとカーラ、そしてアレスは結界の外で魔物と戦っている。
その魔物は全身を黒い毛に覆われ筋骨隆々の身体を持ち、鋭い牙と爪。そして何より一番の特徴はその腕の大きさだ。
その魔物は大木を数本集めてやっと同じ太さと思われるくらいの太さだった。その腕から繰り出される攻撃はまさに一撃必殺だ。しかもその腕が4本もあるのだ。厄介を通り越して最早反則的である。先程のカーラの言葉を思い出す。
《ッ…!あれは大山巨猿の亜種です!魔法は使ってきませんが身体能力が格段に高いです!皆さん!気を付けて下さいっ!》
とカーラでさえ焦る魔物なのだ。私達が結束し、力を合わせなければ絶対に勝てないだろう。そしてカーラは私だけに念話をして来た。
《あの大山巨猿の亜種はランクA−の魔物です。この地域では数年に一度目撃されるそうですが、まさか出会うとは思いませんでした…申し訳ありません。私の判断力が無いばかりにこんな危険な目に会わせてしまって…》
と言って来た。
私はあの魔物のランクを知ってかなり驚いたがいつもの無表情でやり過ごし、カーラに伝える。
《いえ、貴女一人の判断ではどうにもならなかった事です。気にしないで下さい。それよりこの魔物を倒せる様力を合わせて頑張りましょう!》
と叱咤すると彼女も表情には出さないが感動している様で、
《お心遣い痛み入ります。分かりました力を合わせてあの魔物を倒しましょう!》
と言っていたのを思い出していたら、ロヴィニアが、
「お兄様!もう結界が持ちませんっ!!」
と悲鳴の様に叫んだ。
慌てて思考を現実に戻すとロヴィニアの結界はもう崩壊寸前でいつ壊れてもおかしくなかった。
「ッ…!ロヴィニア結界を解除して後ろに下がれ!そこからお前にだけ結界を張り、後方支援に回れ!」
と指示を出すとロヴィニアは頷く暇も惜しいのかサッと結界を解除すると風魔法の補助で後ろに跳び、自分の周りにだけ結界を張ると支援魔法の準備を始めた。
私も前線に出て魔物と戦う。魔物は所々傷があるが全部浅く致命的なものは一つも無く、平然としている。逆にその傷で怒り、更に暴れ出した。
私達は豪雨の様な拳や爪の乱舞を避け、ダメージを与えようと斬り込む。しかしやはりダメージは無くその頑丈な筋肉に阻まれてしまう。
…クソッ!…何かいい方法はないかっ!?…
と考えていると後ろから、
「お兄様!準備出来ましたわ!行きます!」
と声が聞こえ、それと同時に身体が軽くなる。ロヴィニアの支援魔法だ。どうやらいつもと違い剣にも魔法が発動しており刃の周りを風が渦巻く。
「ロクシュウェル様!私とマールで隙を作りますのでその隙にあの技を叩き込んで下さい!」
とカーラが言う。
「分かりました!ではアレス殿!この技の発動には少々時間が掛かりますのでその間魔物を引きつけておいてくれませんか?」
「わかった!よっしゃぁあああ!行くぜぇええぇええ!」
と咆哮すると目に見えない速さで魔物に向かった。そして私は詠唱を続ける。体内の魔力を循環させ活性化させると、魔力が膨れ上がる。その事に気付いた魔物がこちらを向くがカーラ達に邪魔されて思う様に動けない。そして詠唱が終わると、
「カーラ殿!詠唱が終わりました!いつでも行けます!」
「分かりました!…………今です!」
カーラが雷の速度で足を斬りつけ、そこにマールとアレスが重い一撃を放つ。流石に魔物もバランスを崩しグラつく。私はその隙を見逃さず魔法を放つ。
『紅蓮の炎帝!!』
剣に焔を纏う。風の支援魔法で更に焔が大きくなり正に『紅蓮の炎帝』の言葉を再現している。
私は大きく振りかぶり魔物のガラ空きの首元を狙いカーラの雷の支援魔法もあり高速で愛刀を振り抜く。
「グゴアァアアアアアアアアアアア!」
と雄叫びをあげながら喉から真っ赤な鮮血を噴き出す。しかしすぐに炎が燃え広がり血を蒸発させる。喉から燃え移り炎が全身を覆い尽くすのにさほど時間は掛からなかった。また喉から体内へも燃え移り魔物はもう雄叫び…いや悲鳴を上げる事無く地面に膝を付くと力尽きた。
「はぁはぁ…やりましたね…」
とカーラが話しかけて来る。隣ではマールがし、死ぬ…と仰向けに倒れた。アレスは肩で息をしており喋るのも困難そうだ、まぁアレスが一番動いていたし当然である。
「マール!大丈夫!?」
と駆け寄って来たロヴィニアに抱きかかえられ治癒魔法を受けていた。するとすぐに治ったのか、
「お姉様ありがと。私はもう大丈夫だから、皆にもかけてやってくれよ」
と言い立ち上がる。
ロヴィニアが皆に治癒魔法をかけ終わる頃エリスが戻って来た。
「あれ?エリスもう倒したのか!?」
とアレスが素っ頓狂な声をあげるとエリスは、
「え?…うん。思ったより弱かったかも…気配を消すのが上手かっただけみたい。こっちはどうだった?」
と聞いて来たのでアレスがアレだよと指を差す。
そこにはもう既に燃え尽き、息絶えた大山巨猿が横たわっていた。
「うわ…何コレ…めっちゃキモいんですけど…しかも腕太っ!」
と子供の様な感想を言う。
「ハハッ…中々手厳しいですなエリス殿…この魔物は《大山巨猿》と言うランクA−の魔物です。度々この近くで見られていたとか…」
「ヘェ〜…あっ!この魔物の名前分かりますか?」
と言うとエリスは影の中から黒銀の狼の遺体を出した。
「ハァッ!?その狼は《黒銀の神狼》!ランクAAの魔物ですよ!?一体どうやって倒したんですか!?」
とカーラが驚きの声をあげる。そしてカーラの言葉にエリス以外の面子は固まる。
「え?どうやってって…魔法でバーンと…」
となにやら可愛い仕草付きでかなり大雑把に説明する。
「何の魔法ですか?!」
「えーっと『天空王の鉄槌雷』です」
とサラッと超高難易度の雷属性の魔法の名前を言う。カーラは口をパクパクさせ驚いている。
「まぁそんな事より食事にしませんか?お腹空い…あぅぅ」
と言葉の途中でキュルルルル〜と可愛いお腹の音が聞こえ顔を赤らめるエリス。
「そ、そうですわね…お夕食にしましょうか…」
とロヴィニアが引きつった笑みを浮かべ夕食の作業に取り掛かる。そこで皆ハッ!と我に帰り夕食の手伝いをする。
…エリス殿は本当にどこまで強いのだ?…
と考えずにはいられなかった。




