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第一章 第2話 フットサル

「今日でサッカーを辞めます。」

幸二がロッカールームで話を聞いた翌日の放課後、職員室で顧問の藤山先生に退部届を提出した。

「突然どうした?あれだけ頑張ってきたじゃないか。」

藤山先生はそんなことを聞くが、理由は分かっていた。

「理由は言いたくないです。親も許してくれました。サッカー部を辞めます。それだけです。」

幸二はそう言うと、冷房の効いた職員室から小走りで出て行った。


幸二はもう使わないであろうサッカーのバックを肩にかけて誰もいない校舎の屋上に来た。

空は既に紅色に染まる夕方だ。

幸二は屋上の真ん中に座り込み、バックの中から溶けた保冷剤と一緒に入ってるお茶のペットボトルを取り出した。

「俺もうダメかな・・・明日からサッカー部の連中に白く見られるのか、気分悪いな・・・。」

幸二はペットボトルの少しぬるめのお茶を一口飲んで呟いた。

退部届を提出してから、幸二は何となくこの学校に通う自信がなくなってきた。

サッカーが全てじゃない、サッカー部以外の友達だってたくさんいる。

だけど、幸二はこの学校に居場所がなくなっていく気がしてならなかった。

「ゴロゴロゴロ・・・」

幸二がそんなことを考えていると、後ろからいつも使っているのより、一回り小さいボールが転がってきた。

「よっ大島。」

少し茶髪の入った丸坊主の男が、右手を挙げながら来た。太田健介。幸二のクラスメイトだ。

クラスメイトだが幸二は特に健介とは関わりがなく、クラスでは別のグループだった。

「太田?何だよ。」

少し、元気のない声で幸二が言うと、健介が言った。

「お前、サッカー部辞めたんだろ。」

「え?何で知ってんだよ?」

「聞いたよ、一年坊主から。理由は知らねぇけどな。」

健介はそう言うと、幸二の横に転がっているサッカーボールを取り出した。

「幸二、これが何だか分かるか?」

おもむろに健介がそう聞くと、幸二は少しだけ警戒心を持って答えた。

「サッカーボールだろ。サッカー部が使ってるのより少し小さい、4号球だろ?」

「そう、4号球。普通は小学生のサッカーで使うサイズのボールだよな?

だけど、これをプロで使う競技を知ってるか?」

幸二はさっきより、さらに警戒心を高めて答えた。

「・・・フットサル。五人制のミニサッカー。」

「正解!」

健介は急にテンションを上げて立ち上がった。

そして、幸二に振り向きながら言った。

「つぅことで、単刀直入に言うぞ!俺とフットサルチームを作って下さい!」

健介は頭を下げ、右手を真っ直ぐと幸二に差し出している。

「おっおい・・・お前何言ってるんだ・・・。」

幸二は、健介の言うことが少し分かっていたが、実際に言われると対応に困る。

「俺はな、サッカーを辞めたんだ。これからは普通に遊んで、勉強して、出来たら・・・彼女も作って、

とにかく!俺はサッカーとは離れる生活に戻る!諦めるときはキッパリと諦めるんだ!悪いが他の奴を探してくれ!」

幸二はバックを肩にかけ立ち上がって帰ろうとした時、健介はすかさず幸二の前に回り込んで土下座した。

「頼みます!俺は高校に入ってから部活を何もしてなかった!毎日何か遊ぶことを探して生きてきた!

だから、熱くなれる事をしたいんだ!」

「それが何でフットサル?メンバーが何で俺?そして、サッカーを辞めたこのタイミングで何で俺を誘う?」

「え〜と、それはなぁ・・・あれだ!あれ!俺と同じ待遇だからだ!」

「・・・同じ待遇?」

幸二は、何のことだかを考えた、その時、ロッカールームで聞いたあの言葉を思い出した。

「あんな奴、どんなに頑張っても試合に出られないよな。

この前、職員室で先生が『やる気のない幸二みたいな人間は試合に出せない』

って言ってたのを聞いちゃったんだよ。おちこぼれってヤダヤダ。」

「あんな奴・・・おちこぼれ・・・オチコボレ・・・。」

「え?」

幸二がいきなりブツブツと言い出したため、健介が土下座していた顔を上げた。

「いや、何でもない!とっとにかく!俺はやらないからな!あばよ!」

幸二は早歩きで屋上の出入り口を通る。健介は転がっていたサッカーボールを拾って、幸二の後を追う。

「頼みますぜ旦那!お願いしますよ!」

「バサッ!」

突然、健介のバックから一冊の本が落ちてきた。それを、幸二が拾い上げる。

「なんだこれ・・・うわぁ!」

幸二が、その本の表紙を見て子供のように目を輝かせた。

幸二が見た物は、色々なグラビアアイドルを集めた写真集だった。

「あっ旦那もお年頃ですもんねぇ。どうです?メンバーになってくれたらタダでお譲り致しますよ?」

健介がセールスマンの様な口調になる。

「うぉ!うは!あはは!」

さっきとは別人の様に、幸二がハイテンションで写真集を眺める。

「ちょっと、何あれ・・・。」

トランペットを持った女子二人が、ハイテンションで写真集を見つめる幸二を不審そうに見る。

幸二は、それに気がついて健介に写真集を返した。

「わっ悪いな!いっ今のおっ俺にはしっ思春期もかっ勝てないんだ・・・ぞっ!」

「バサバサバサ!」

動揺している幸二に追い打ちをかけるように、健介がバックから4冊の写真集をばらまいた。

「うわ〜本当に何あれ・・・。」

再び女子二人の声が聞こえてくる。

「あ〜あ、落としちゃった!あっ旦那、見ちゃいました?」

「とっ取りあえず逃げるぞ!」

幸二が散らばった4冊を拾い上げ、健介の手を引いて正門まで走った。


「ゼーゼー・・・はぁ・・・はぁ・・・。」

体力の余りない幸二は荒い息を吐く。健介は余裕の表情だ。

「その『はぁはぁ』は疲れた『はぁはぁ』か?興奮の『はぁはぁ』か?」

「い・・・いらねぇ事聞くなよ。走ってて考えたけど、やっぱ俺はサッカー辞める。フットサルでもな。」

幸二は、健介に4冊の写真集を押しつけると、自転車に乗って家に帰っていった。

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