表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

私と姉




 心。

 二人。

 私と姉。

 いつでも。

 いつまでも。

 繋がっている。

 そう信じている。

 だから私は殺した。

 忌まわしき父と母を。

 二人きりの楽園を求め。

 現実から逃げ出したくて。

 刃物を手に両親を惨殺した。

 気づけば私は血にまみれてて。

 両親は原型を留めずに倒れてて。

 これで救われるんだと思ったとき。

 遅効性の焦燥感にやっと苛まれ出す。

 すると、寝ているはずの姉が入室した。


「あんた、夜遅くに騒がしいなと思えば」


「両親を殺しちゃったのでした。えへへ」


「呑気だねぇ。にしても派手にやったね」


「こんなん派手の範疇に入りませんから」


「ばっちり入ってるわよ。まったくもー」


「……だって、マジで憎かったんだもん」


「……………………………………………」


「いくら姉さんでも、咎められたくない」


「わかってる。あんたがやらなきゃ……」


「私がやってた。……だよね、やっぱり」


「当たり前。二人が私たちにしたことは」


「絶対に許せることじゃない。でしょ?」


「ご名答。私らもばっちり姉妹してるね」


「当然じゃん。一卵性双生児なんだから」


「とんだ両親の股から産まれ出たお陰で」


「私ら双子は苦しい日々を送るのでした」


「毎日開催される夫婦喧嘩に巻き込まれ」


「毎日身体中に青黒い痣を作られたよね」


「毎日ロクに食べ物を与えてもらえずに」


「現在姉妹そろって体重は三十キロ未満」


「服も与えてもらえず、風呂にも入れず」


「冬場は寒すぎて凍死するかと思ったし」


「外出も認められず、存在自体消されて」


「毎日血と汗握る奴隷生活だったわねぇ」


「だからこそ言うわ。よくやった、妹よ」


「ありがとー、お姉さま。ところでさぁ」


「ところでなんですかな? 可愛い妹よ」


「こいつらの処理、手伝ってくれない?」


「嫌よ。そうしたら私も共犯者じゃない」


「えー、姉さんさっきの妹への敬服は?」


「ごめんなさい。三歩歩いたら忘れ……」


「ないでしょ。まだ一歩も歩いてないし」


「たったいま宇宙から悪質な電波が届い」


「てるわけがないよね。姉さん苦しいよ」


「むー、どうしても手伝わなきゃだめ?」


「何で嫌そうなのよ。姉妹じゃないかー」


「下手すりゃ私も殺されるかもみたいな」


「そんなことない。姉さん大好きだもん」


「……直に言われると心にくるわね……」


「お願い姉さん。ハグとキス付けるから」


「うーっ、あーっ、ぎーっ、悩むーうっ」


「姉さん、大好きよ。ちゅ〜〜〜〜〜っ」


「………………………手伝うわ、全力で」


「あははっ、姉さんったらかわいーっ!」


「うるさーいっ! さっさと始めるよ!」


「あい! ……っと、でもどうやって?」


「え、あんたそこノープランだったの?」


「恥ずかしながら左様でございます……」


「まったくもー。……つか、放っとけば」


「いやいや証拠を隠滅しないはないって」


「でも私たち家から出たことないのよ?」


「それがどう関係するの。……あっ……」


「うん。誰も私たちの存在を知らないわ」


「うわーお。不幸中の幸いとはこのこと」


「ことわざ万歳ね。そうと決まれば……」


「このまま逃げて平気ってことだよね?」


「いえ、まず私たちの指紋を消さなきゃ」


「えー、家中のー? それ気が遠くね?」


「それでもやらなきゃ明日はないのよ!」


「アタックナンバー1なんて懐かしいね」


「いいからさっさとやりましょ。いい?」


「とある姉妹の証拠隠滅、ってやつだね」







「―――そっち側、エタノール足りた?」


「足りた足りた。いやー、疲れたわねぇ」


「ちょっと姉さん、そこ拭いたんだけど」


「あ、ごめんね。ちゃんと拭き直すから」


「……よし、今何時? 時計見てくれる」


「えっとね……深夜の午前二時三十三分」


「ベストだ。もう逃げても平気だよね?」


「うん、大丈夫だと思う。行きましょう」


「はーい。……あ、待って! 忘れ物!」


「何。この家に名残惜しい物なんて……」


「あるよ! くまちゃんのぬいぐるみ!」


「はい? あんたもうハタチなのに……」


「むかし姉さんがくれたやつだってば!」


「……………あー、思い出した。あれか」


「そうだよ。夜抜け出して盗んできてさ」


「そうだった。それを親に見られて……」


「包丁で切り傷つけられてた。それでも」


「手放さなかった。あんたにあげたくて」


「……そうだよ。私の大切な宝物だもん」


「わかった、取ってらっしゃい。待つわ」


「ありがとう! 急いで取ってくるね!」


「はいはーい。……可愛いわねぇあの子」






「………ただいまーっ! 取ってきた!」


「忘れ物もうない? 後戻りは無理よ?」


「ない! 姉さんだけいればいいもん!」


「ありがとう。じゃあ、行きましょうか」


 月の光が鮮やかな、静寂に包まれた夜。

 私たち姉妹は呪縛の玉砕に成功した。

 幸いにも外には人一人見当たらず。

 無意識に、ひたすら走り続けた。

 ただひたすら、何かを求めて。

 私たちの未来を変える何か。

 それは至って単純明快で。

 希望に満ち溢れるもの。

 ずっと、待っていた。

 この日が来るのを。

 さぁ、向かおう。

 明るい未来へ。

 求めるもの。

 それは光。

 二人の。

 生の。

 光。








 〈完〉









 よろしければ感想ください(^^)




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まだ小六だしえらい口叩けないけど、すごく文章は良いのに連載しないからあまり注目されないんだと思う。きっと、もっといっぱい連載すれば書籍化される可能性もなくもないと思う。だって二千文字程度で十…
[一言] むぅ。 二作連続で親による虐待を題材にしているという事は、貴君はアンチ虐待政策でも掲げておるのかね?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ