第二十五話
2章開始
第二十五話
静寂の中、声だけが存在していた。
姿は見えない。気配も曖昧だ。だが、確かに“そこにいる”。
ルシアンは何も言わず、ただ聞いている。
「まずは、この場所について話そう」
声が静かに響く。
「ここは、お前の屋敷の地下にあったものだ。だが――ただの地下ではない」
わずかな間。
「神話の時代に造られた空間だ」
ルシアンの視線が、わずかに揺れる。
「お前の一族は、その時代、神に仕えていた」
「……仕えていた?」
「そうだ。ヴェルグレイヴの血は、その名残だ」
思考が繋がる。自分の魔力の異質さ。その理由の一端。
「神話の時代、この世界には神々が顕現していた。人は善神の加護を受け、魔族は対となる悪神の加護を受けていた」
「だが、やがて争いが起きた。神同士の戦いだ」
静かに続く。
「当時は今より多くの神が存在していたが、その大戦によって多くが消えた。滅びたか、力を失ったか、あるいは封じられたか」
淡々とした言葉。
「現在、明確に力を保っているのは、善神十二柱、悪神十二柱。合計二十四柱のみだ」
ルシアンはその数を頭の中で繰り返す。
「その戦い以降、神々は力を大きく失い、この世界に直接干渉することは極めて難しくなった」
一拍。
「だが、この場所は例外だ」
空気がわずかに変わる。
「この祭壇は神話の時代の環境を維持している。魔力の質と濃度が、外とはまるで違う」
ルシアンは周囲を見渡す。
確かに、空気そのものが重い。
「だからこそ、私はこうして顕現できている」
そして。
「――我が名は、アストレウス」
静かに告げられる。
「秩序を司る神だ」
その名に、不思議と違和感はない。
むしろ、最初から知っていたかのような感覚すらある。
「本来、この場所は管理されるべきだった。だが長い時の中で忘れ去られた。お前たち自身も知らなかっただろう」
「……はい」
「当然だ。人は忘れる。それが自然だ」
否定ではなく、ただの事実。
そして。
「なお、この空間の時間の流れについてだが」
ルシアンの意識が向く。
「通常、このような干渉はできない」
一拍。
「だが今は、私が顕現している」
静かに続く。
「説明に時間を要する可能性があるため、一時的に時間の流れを調整している」
ルシアンはわずかに目を細める。
「ここでの時間は、外とはほとんど同期していない。だが――」
はっきりと言い切る。
「これは今この瞬間だけのものだ。恒常的なものではない」
つまり。
「話が終われば、時間は元に戻る」
「……」
ルシアンは何も言わず、受け入れる。
「そして現在」
声がわずかに低くなる。
「再び、世界は動き始めている」
魔物の増加。
魔族の動き。
そして、あの男。
言葉にせずとも、すべて繋がる。
「だからこそ、お前に依頼する」
核心。
「これは偶然ではない。お前がここに来たことも、この血を持っていることも」
静かに突きつけられる。
「選べ。受けるか、拒むか」
短い問い。
だが、重い。
ルシアンは目を閉じる。
思考は、ほとんど必要なかった。
開く。
迷いはない。
「……聞かせてください」
「何をすればいいのか」
わずかに。
本当にわずかに。
満足したような気配が流れた。
やる気が続くまではしばらく0時と12時に投稿しようと思います。




