第二十二話
第ニ十二話
意識が戻った時、最初に感じたのは静けさだった。
痛みは、遅れてやってくる。
全身が軋む。重い。だが、動けないほどではない。
ゆっくりと起き上がる。
視界に入ったのは、崩れた街だった。
昨日までの面影は、ほとんど残っていない。
建物は焼け落ち、あるいは崩れ、道は瓦礫で埋まっている。
人の気配は、ほとんどない。
風だけが吹いている。
静かすぎる。
(……終わったのか)
誰もいないわけではない。
倒れたまま動かない者たちが、あちこちにいる。
だが――それだけだ。
声がない。
動きがない。
ただ、結果だけが残っている。
ルシアンは立ち上がる。
足元がわずかに揺れる。
それでも、そのまま歩き出した。
どこへ向かうかは、決めていない。
ただ――自然と足が向いていた。
屋敷のあった場所へ。
見慣れたはずの道は、すでに形を失っている。
瓦礫を越え、崩れた壁の間を抜ける。
焼け焦げた匂いが、まだ残っていた。
やがて、開けた場所に出る。
そこが、屋敷だった場所だった。
面影はない。
建物は崩れ落ち、骨組みすら原型を留めていない。
庭も、踏み荒らされている。
整えられていたはずの景色は、すべて壊れていた。
ルシアンは、そこで足を止める。
何も言わない。
ただ、見ている。
しばらくの間、そのまま動かなかった。
探そうとは思わなかった。
呼ぼうとも思わなかった。
分かっている。
ここに、もう“日常”はない。
それだけで、十分だった。
ゆっくりと、その場に腰を下ろす。
崩れた石の上。
視線は、前へ向けたまま。
焦点は合っていない。
風だけが、頬を撫でる。
どれくらい時間が経ったのか。
分からない。
動かないまま。
ただ、座っている。
何も浮かばない。
怒りも。
悲しみも。
何もかもが、一度通り過ぎていった後のように。
ただ、空白だけが残っている。
(……弱かった)
ふと、思考が落ちる。
止められなかった。
守れなかった。
何一つ。
力はあったはずだった。
だが、足りなかった。
それがすべてだった。
(……普通に)
言葉にならない思考が、途切れながら浮かぶ。
ただ、生きていただけだった。
何も望まず。
何も壊さず。
それでも――
壊された。
理由もなく。
一方的に。
それが、この世界だった。
ルシアンは、ただ前を見ている。
何も映していない目で。
その時。
遠くで、足音がした。
複数。
ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。
ルシアンは動かない。
振り向きもしない。
やがて、その足音が止まる。
少し離れた場所で。
誰かが、息を呑む気配。
声は、上がらない。
何を見たのかは、考えるまでもない。
それでも。
ルシアンは動かない。
ただ、座っている。
崩れた屋敷の前で。
すべてを失った場所で。
ただ一人。
静かに、取り残されたまま。




