第二十一話
第二十一話
切れた。
何かが、完全に。
音が消える。
視界が、静かに歪む。
呼吸も、痛みも、すべてが遠くなる。
ただ一つだけ。
残る。
(――殺す)
それだけだった。
次の瞬間。
魔力が、爆ぜる。
風が、暴れる。
雷が、暴走する。
制御はない。
ただ、出力だけが跳ね上がる。
地面が割れる。
空気が裂ける。
周囲の瓦礫が、触れただけで弾け飛ぶ。
ローデリックでも、騎士でもない。
誰も踏み込めない領域。
そこに、ルシアンは立っていた。
「……おお」
ゼルキスが、わずかに目を見開く。
「いいじゃん、それ」
楽しそうに。
だが、その声は少しだけ低くなる。
踏み込む。
消える。
視認できない速度。
一瞬で間合いに入る。
剣を振る。
風と雷を纏った、純粋な破壊。
空間ごと断ち裂くような一撃。
ゼルキスへ――
届く。
初めて。
確実に。
直撃。
轟音。
地面が消し飛ぶ。
衝撃が街を揺らす。
建物の残骸が吹き飛ぶ。
煙が、戦場を覆う。
数秒。
静寂。
(――殺した)
そう思う。
だが。
「……いやぁ」
煙の中から、声。
「今のはちょっと危なかったかも」
ゼルキスが、そこにいた。
無傷。
ただし――
ほんのわずかに、衣服が裂けている。
それだけ。
それだけで。
(……通ってる)
届いている。
だが。
(足りない)
圧倒的に。
次の瞬間。
ルシアンはさらに踏み込む。
連撃。
すべてが必殺。
速度も、威力も、今までの比ではない。
だが。
当たらない。
ゼルキスは、そこにいるのに。
触れられない。
すべてを“ずらされている”。
「うんうん」
楽しそうに頷く。
「いいねぇ、さっきより全然いい」
ルシアンは止まらない。
止まれない。
全力。
限界を超えた出力。
だが。
徐々に。
鈍る。
(……維持が)
崩れ始める。
魔力が乱れる。
制御が追いつかない。
ゼルキスは、それを見て笑う。
「でも、ここまでか」
軽く言う。
その言葉が、事実だった。
次の瞬間。
ルシアンの動きが、止まる。
体が、動かない。
(……っ)
何もされていない。
だが、動けない。
視界の前に、ゼルキスが立っている。
いつの間にか。
「惜しいね」
目を細める。
「今の、たぶんさっきのオーガくらいなら普通に殺せるよ」
さらりと言う。
評価。
正確な。
「でもさ」
少しだけ、顔を近づける。
「俺には届かない」
それが、すべてだった。
ルシアンの意識が揺れる。
力が抜けていく。
限界。
完全に。
ゼルキスは、満足そうに笑う。
「いやぁ、いいね」
「久しぶりに楽しかった」
軽く伸びをする。
そして。
ルシアンを見る。
まっすぐに。
「君さ」
一拍。
「これから、もっと強くなるでしょ?」
確信している口調。
「今のじゃ、まだ足りないけど」
「伸びるよね、絶対」
楽しそうに。
本当に嬉しそうに。
「俺の退屈、壊してくれそうだ」
その言葉は、期待だった。
歪んだ。
だが、純粋な。
「だから――」
手を、軽く振る。
それだけ。
衝撃。
意識が落ちる。
視界が暗転する。
最後に見えたのは。
笑っている、ゼルキスの顔。
⸻
戦場には、再び静寂が戻る。
瓦礫と、炎と、死。
その中で。
ただ一人。
ルシアンだけが、倒れていた。




