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果てなき世界  作者: 影川明空人
第1章
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第二十話

第二十話


 空気が、止まっていた。


 先ほどまで戦場だった場所には、異様な静寂が広がっている。


 瓦礫と血。

 倒れた騎士たち。


 その中心に立つのは――


 ルシアンと、ゼルキス。


 ただ二人だけだった。


 だが、その前に。


「……ルシアン様」


 ローデリックが、一歩前に出る。


 鎧は砕け、血に濡れている。

 それでも、その背は崩れていない。


「ここは、私が抑えます」


 短く。


 だが、はっきりと。


「その間に、離脱を」


「……無理です」


 即答だった。


 視線は、ゼルキスから外さない。


「あれを放置すれば、街が終わります」


「だからです」


 ローデリックは言う。


「あなたが、生きてください」


 一瞬だけ、言葉が詰まる。


 だが続ける。


「あなたは……ここで死ぬべきではない」


 その意味は、明確だった。


 戦力としてではない。


 “未来”として。


 ルシアンは何も言わない。


 ただ、前を見ている。


 その沈黙を、肯定と受け取ったのか。


 ローデリックは、わずかに息を吐いた。


「――行け」


 踏み込む。


 剣を構え、ゼルキスへ斬りかかる。


 速い。


 今まで見せた中でも、最速に近い一撃。


 だが。


「おっと」


 軽い声。


 ゼルキスは、ただ手を動かした。


 それだけだった。


 剣が、止まる。


 空中で。


 触れてすらいない。


「……え?」


 次の瞬間。


 ローデリックの体が、ずれる。


 上下に。


 綺麗に。


 何の抵抗もなく。


 血が、遅れて溢れた。


 崩れ落ちる。


 音は、ほとんどしなかった。


「――――」


 言葉が出ない。


 理解が追いつかない。


「弱いなぁ」


 ゼルキスは、つまらなさそうに言う。


 その視線が、周囲へ向く。


 まだ残っていた騎士たち。


 数人。


 動けずにいる。


「あ、まだいたんだ」


 軽く言う。


 そのまま、指を動かす。


 それだけで。


 全員が。


 同時に、崩れた。


 音もなく。


 抵抗もなく。


 命が消える。


 静寂。


 完全な。


 誰もいない。


 残ったのは。


 ただ一人。


 ルシアンだけ。



 ゼルキスは、楽しそうに笑う。


「これで、邪魔はいなくなったね」


 軽い口調。


 まるで遊びの前の準備のように。


「俺は、ゼルキスって言うんだけど君は?」


 ルシアンは、何も言わない。


 ただ。


 立っている。


 だが――


 空気が変わる。


 静かに。


 確実に。


(――殺す)


 思考が、完全に一つに収束する。


 怒り。


 それが、初めて明確に形を持つ。


 魔力が、揺れる。


 風が巻く。


 雷が走る。


 先ほど以上。


 制御を超えかけるほどの出力。


 だが、止めない。


 止める理由がない。


「へぇ」


 ゼルキスが目を細める。


「さっきより、いいね」


 踏み込む。


 消えるような加速。


 一瞬で間合いへ。


 斬る。


 全力。


 だが。


 当たらない。


 避けたわけでもない。


 ただ、そこにいない。


「遅い遅い」


 背後から声。


 振り向く。


 すでにそこにはいない。


 横。


 上。


 どこにもいない。


 だが、常に“近くにいる”。


(空間……?)


 理解が追いつく前に。


 衝撃。


 体が吹き飛ぶ。


 地面を削る。


 すぐに立つ。


 踏み込む。


 連撃。


 すべて全力。


 だが。


 届かない。


 触れられない。


 すべてが、空を切る。


「いいねぇ」


 ゼルキスは笑う。


「ちゃんと“殺しに来てる”」


 嬉しそうに。


 心の底から。


 楽しんでいる。


「――何がおかしい!」


 ルシアンの声が、響く。


 初めて。


 抑えきれずに出た感情。


「何が楽しい!」


 踏み込む。


 さらに速く。


 さらに強く。


 雷が暴れる。


 風が裂ける。


 それでも。


 届かない。


 ゼルキスは、軽く首を傾げる。


「んー?」


 少し考えるような仕草。


 そして。


「ああ、そうだ」


 思い出したように言う。


「俺、ここに来た理由あったんだよね」


 戦闘の最中に。


 雑談のように。


「占いが得意なやつがいてさ」


 軽い口調のまま続ける。


「“ある街に行けば、悩みが解消されるかもね”って」


 ルシアンの動きが、一瞬止まる。


 ゼルキスは、楽しそうに笑う。


「で、来てみた」


 肩をすくめる。


「そしたら、これ」


 戦場を見渡す。


 壊れた街。


 死体。


 炎。


「いやぁ、当たりだったよ」


 心から嬉しそうに。


「俺の悩みさ」


 ルシアンを見る。


 真っ直ぐに。


「退屈だったんだよね」


 その言葉が。


 すべてを否定する。


 命も。


 街も。


 戦いも。


 全部。


 ただの“暇つぶし”。


 ルシアンの中で、何かが完全に切れた。


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