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果てなき世界  作者: 影川明空人
第1章
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第十九話

第十九話


 戦場は、すでに限界に近かった。


 瓦礫。炎。血。

 叫び声は減り、代わりに沈黙が増えていく。

 倒れた者は、もう起き上がらない。


 それでも――


 目の前の存在は、止まらない。


 Sランクの魔物。

 圧倒的な質量と力。

 そして、余裕。


 ルシアンは息を整える。


(削れてはいる)


 確実に。


 だが――


(足りない)


 決定打がない。


 ローデリックもまた、呼吸が荒くなっていた。

 鎧は歪み、動きも鈍っている。


「……まだ、やれます」


 短く言う。


 その声に、無理はない。

 だが余裕もない。


 ルシアンは一歩前に出る。


(ここで止める)


 思考が静まる。

 雑音が消える。

 視界が狭まる。


 必要なものだけが残る。


(出す)


 制限を、外す。


 完全ではない。

 だが、限界に近い領域。


 魔力を巡らせる。


 体内を駆ける流れが、一気に加速する。


 外へ。


 纏う。


 風が渦巻く。

 足元から、身体を包むように。


 そして――


 雷。


 細い光が、皮膚の上を走る。

 刃のように、空気を裂く。


 空気が変わる。


 周囲の騎士たちが、思わず息を呑む。


 ローデリックの目が見開かれる。

 だが、何も言わない。


(これなら)


 踏み込む。


 一瞬で距離を詰める。


 今までとは、速さが違う。


 Sランクの魔物の視線が、わずかに遅れる。


 一閃。


 雷を纏った斬撃。


 直撃。


 肉を裂き、焼く。


 今までで最も深い。


 だが止まらない。


 連撃。


 二撃、三撃、四撃。


 すべてに雷を乗せる。


 内部を焼き、破壊する。


 巨体が揺れる。


 初めて、明確に崩れる。


(通る)


 確信。


 さらに踏み込む。


 風を圧縮。


 加速。


 視界が流れる。


 上。


 振り下ろす。


 全力。


 斬る。


 轟音。


 地面が割れる。

 衝撃が周囲に走る。


 煙が上がる。


 静寂。


 誰も動かない。


(――倒したか)


 だが。


 煙の中で、何かが動く。


 次の瞬間。


 咆哮。


 怒り。


 暴力。


 煙を引き裂いて、Sランクの魔物が飛び出す。


 傷は深い。

 だが――


 生きている。


(……足りない)


 理解する。


 確かに届いている。

 だが、殺しきれない。


 Sランクの魔物がルシアンを見る。


 怒りに染まった目。

 先ほどまでの余裕は消えている。


 明確な殺意。


 次の瞬間。


 地面が砕ける。


 突進。


 速い。


 だが。


(見える)


 風を使う。


 躱す。


 すれ違う。


 だが追撃が来る。


 連続。


 重い。

 速い。


 受けきれない。


 弾く。

 逸らす。


 それでも。


 押される。


(……限界が近い)


 出力を上げすぎている。

 維持が難しい。


 だが。


(あと一撃)


 それで決める。


 踏み込もうとした、その時――


 違和感。


 空気が、変わる。


 静かに。

 しかし確実に。


 戦場の“質”が変わる。


 Sランクの魔物の動きが、止まる。


 ルシアンもまた、動きを止める。


 視線が、同じ方向へ向く。


 そこに――


 一人の魔族が立っていた。


 いつの間にか。


 まるで最初からそこにいたかのように。


 人の形。


 だが、どこか歪んでいる。


 頭部には、緩やかに上へ伸びる黒い角。

 瞳は淡く光り、感情を映しているはずなのに、どこか“深さ”が違う。


 軽い足取り。

 場違いなほどの余裕。


「いやぁ、派手にやってるねぇ」


 軽い声。


 緊張感を壊すような口調。


 だが。


 その場にいる誰もが理解する。


(……異質)


 Sランクとは別の意味で。


 危険。


 男――ゼルキスは、楽しそうに周囲を見回す。


「街、結構壊れてるじゃん」


 まるで他人事のように言う。


 その視線が、ルシアンとオーガに向く。


「へぇ」


 純粋な興味。


「君がやったの?」


 問い。


 だが答えを求めていない。


 その時。


 Sランクの魔物が咆哮する。


 怒り。


 標的が変わる。


 ゼルキスへ。


 地面を砕き、突進する。


 全力。


 先ほどまでルシアンに向けていた、殺意のすべて。


 だが。


 ゼルキスは動かない。


「あー、うるさいなぁ」


 軽く言う。


 そのまま。


 手を上げる。


 何もしていないように見える。


 次の瞬間。


 空間が、歪んだ。


 音もなく。


 Sランクの魔物の体が、途中で止まる。


 そして――


 消えた。


 砕ける。


 粉々に。


 跡形もなく。


 ただ、それだけ。


 静寂。


 誰も動けない。


 理解が追いつかない。


 Sランクが。


 一瞬で。


 ゼルキスは、軽く手を振る。


「はい、おしまい」


 何事もなかったかのように。


 そして。


 再びルシアンを見る。


 楽しそうに。


 心の底から。


「君、面白いねぇ」


 その一言で。


 すべてが、変わった。


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