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果てなき世界  作者: 影川明空人
第1章
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第十八話

第十八話


 それは、現れた瞬間に分かった。


 先ほどまでとは、まるで違う。


 空気が重い。

 呼吸が浅くなる。

 立っているだけで、押し潰されそうになる。


 森の奥から、ゆっくりと姿を現す。


 巨体。


 異様な存在感。


 人の形をしているが、人ではない。


 黒い皮膚。隆起した筋肉。歪な角。

 その一歩ごとに、地面が沈む。


(……オーガ系)


 だが、違う。


(これは――Sランク)


 確信だった。


 理屈ではない。

 感覚が拒絶している。


 “格が違う”と。


「……全員、下がれ!!」


 ローデリックの声が響く。


 叫びに近い命令。


 騎士たちが一斉に距離を取る。


 だが――


 遅い。


 Sランクの魔物が、腕を振るった。


 それだけだった。


 空気が裂ける。


 見えない衝撃が、前線を薙ぎ払う。


「――っ!?」


 数人の騎士が、まとめて吹き飛ぶ。

 地面を転がり、動かなくなる者もいる。


 たった一撃。


 それだけで、戦線が崩れた。


(……規格外)


 ルシアンは一歩踏み出す。


 だが同時に理解する。


(今までとは、別だ)


 勝てるかどうかではない。


 “止められるかどうか”の領域。


「ルシアン様!」


 ローデリックが並ぶ。


 その表情には、明確な緊張があった。


「私が前に出ます。隙を――」


「いえ」


 短く遮る。


「二人でやります」


 一瞬だけ視線が交わる。


 ローデリックは頷いた。


「……了解しました」


 それ以上の言葉は不要だった。


 Sランクの魔物が、ゆっくりとこちらを見る。


 視線が合う。


 その瞬間、圧が強まる。


(認識された)


 敵として。


 次の瞬間。


 消えた。


「――速い!」


 ローデリックが叫ぶ。


 横。


 既に来ている。


 拳が振り抜かれる。


 空気が爆ぜる。


 ルシアンは風を足元に流す。


 強引に体をずらす。


 直撃は避ける。


 だが。


「――っ」


 衝撃だけで吹き飛ばされる。


 地面に叩きつけられる寸前、体勢を整える。


 すぐに立つ。


(速さも、力も……)


 比較にならない。


 ローデリックが斬り込む。


 正面から。


 鋭い一撃。


 だが。


 止められる。


 片手で。


 そのまま振り払われる。


「ぐっ……!」


 弾き飛ばされる。


 それでもすぐに立て直す。


(通らない)


 単純な斬撃では意味がない。


 ルシアンは踏み込む。


 雷を流す。


 出力を上げる。


 今までより一段階強く。


 一閃。


 直撃。


 肉を裂く。


 だが。


(浅い)


 明らかに効いていない。


 Sランクの魔物が、ゆっくりとルシアンを見る。


 そして。


 笑った。


 次の瞬間。


 地面が抉れる。


 拳。


 直撃。


「――っ!!」


 今度は避けきれない。


 受ける。


 衝撃が全身を貫く。


 骨が軋む。


 吹き飛ばされる。


 視界が揺れる。


(重い……!)


 だが、止まらない。


 立つ。


 再び踏み込む。


 ローデリックも同時に動く。


 二方向から。


 挟む。


 連携。


 だが。


 Sランクは動じない。


 両方を見る。


 同時に対処する。


 攻撃を受けながらも、動きを止めない。


(単純な耐久じゃない)


 “余裕”がある。



 その間にも。


 戦場は崩れていた。


「うわあああああ!!」


 叫び。


 振り返る。


 門の内側。


 ゴブリンが入り込んでいる。


 ウルフが人を噛み裂く。


 オークが建物を破壊する。


「防げ! 中に入れるな!」


 だが、間に合わない。


 数が多すぎる。


 騎士たちが押し切られていく。


 一人、また一人と倒れていく。


(……まずい)


 ルシアンは一瞬だけそちらを見る。


 だが。


 次の瞬間。


 視界に拳。


 戻る。


 受ける。


 弾く。


 それで精一杯。


(離れられない)


 この個体を放置すれば。


 それこそ終わる。


「ルシアン様、集中を!」


 ローデリックの声。


 その背後で。


 一人の騎士が倒れる。


 血が地面に広がる。


 声は、もう上がらない。


(……減っている)


 確実に。


 戦力が削られている。


 だが。


 どうにもできない。


 目の前が、それを許さない。



 Sランクの魔物が踏み込む。


 地面が割れる。


 拳。


 連撃。


 ルシアンは風で回避する。


 雷で牽制する。


 ローデリックが斬り込む。


 だが。


 決定打がない。


(削りきれない)


 その間にも。


 後方は崩れていく。


 悲鳴が増える。


 炎が上がる。


 建物が崩れる音。


(街が……)


 歯を食いしばる。


 だが。


 選択肢はない。


(今はこいつだ)


 ここを離れれば。


 すべてが崩壊する。



 Sランクが笑う。


 楽しんでいる。


 明らかに。


 戦いを。


(……異常だ)


 ただの魔物ではない。


 知性がある。


 悪意がある。


 そして――


 余裕がある。



 戦場は、すでに防衛ではなくなっていた。


 侵入され。


 壊され。


 削られている。


 それでも。


 ルシアンは止まらない。


 ローデリックも止まらない。


 二人で、抑える。


 ただそれだけ。


 だが。


 その間にも。


 確実に。


 街は壊れていった。


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