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果てなき世界  作者: 影川明空人
プロローグ
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―― 魔王城最深部


 魔王城の最奥は、もはや原形を留めていなかった。


 砕けた石柱が転がり、崩れた天井から冷たい風が吹き込む。

 玉座の間は戦場と化し、濃密な魔力が空気を重く沈ませていた。

 呼吸のたびに、肺が焼ける。


 その中心で、勇者レオンは剣を構えている。


 肩から流れる血が床を濡らす。

 腕は震え、それでも瞳だけは前を見据えていた。


 玉座の前に立つのは、魔王アシュレイ。


 壮年の魔王は、焦げたローブを揺らしながら静かに立っている。


「この程度か、勇者」


 低く、重い声。


「終わらせる」


 レオンは短く返す。


 背後では、聖女フィアナが祈りを捧げている。

 淡い光が仲間を包み、傷を辛うじて繋ぎ止める。


 盾を構えたガイウスは満身創痍で踏みとどまり、

 ノエルは影を踏み、隙を窺い、

 テオドールは限界を超えた魔力を術式へと注ぎ込んでいた。


 これで決める。


 レオンは踏み込む。


 剣と剣が激突する。


 轟音。


 衝撃で床が割れ、瓦礫が宙を舞う。


 魔王の防御が、ついに崩れかけた。


 勝敗が決まりかける――その瞬間。


 影が、揺れた。


 崩れた柱の影。

 砕けた床の影。

 勇者たちの足元に落ちる影。


 それらが、ゆっくりと濃くなる。


 冷たい風が、玉座の間を撫でた。


 レオンは視線を落とし、低く呟く。


「……やっぱり来たか」


 影が立ち上がる。


 闇が形を成し、そこから一人の男が歩み出た。


 黒い外套。

 揺るがぬ瞳。


 ルシアン。


 驚きはない。


 ただ、覚悟だけがある。


 フィアナの祈りがわずかに乱れ、

 ガイウスが歯を食いしばり、

 ノエルが短剣を構える。

 テオドールは静かに魔力を練り上げた。


 ルシアンは魔王を見る。


「最後の欠片だ。渡してもらう」


 アシュレイは、わずかに目を細める。


「……来るとは思っていた」


 胸元で、最後のカケラが淡く輝く。


 次の瞬間。


 それは、ルシアンの掌にあった。


 レオンが踏み出す。


「ルシアン!」


 だが、ルシアンは振り向かない。


「勇者。準備はできているか」


 静かな声。


 掌の欠片が震える。


 呼応するように、他のカケラが空間から浮かび上がる。


 一つ。

 二つ。

 三つ。


 やがて十三の欠片が、ルシアンの周囲からゆっくりと空へ昇った。


 円を描くように、宙へ。


 魔力が渦を巻く。


 空間が軋む。


 光と闇が交錯し、中心に“何か”を形作る。


 やがて――


 少年が、現れた。


 空中に浮かんだまま。


 足は地に触れない。


 無邪気な笑み。


 透き通る瞳。


 その奥に宿るのは、底知れぬ闇。


「やっと揃ったね」


 少年は、ゆっくりと視線を巡らせる。


 勇者を。

 聖女を。

 賢者を。

 盾を。

 斥候を。

 そして魔王を。


 全員を、見下ろす。


 まるで、壊す順番を考えるかのように。


「君たち、まだ壊れてなかったんだ」


 その声だけで、空間が震えた。


 圧倒的な存在。


 善でも悪でもない。


 ただ、世界を壊すもの。


 邪神。


 少年は最後に、ルシアンを見る。


「君、本当に人間なの?」


 ルシアンは静かに見返す。


 瞳は揺れない。


 影がさらに濃くなる。


 魔力の奔流が玉座の間を満たす。


 風が唸る。


 空間が歪む。


 世界が、軋む。


 そして――


 闇が、すべてを覆った。

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