五分の扉-悪魔-
「そうだ。病人を狙おう。人間は一律三万だ。病人なら動けないから殺し放題だ。よし、明日は大きい病院にでも行くか」
俺は、すでに自分を制御出来ていなかった。
もう、周りすら見えていなかった。
俺の頭の中はお金の欲で支配されていた。
その時、俺はセナのあの言葉を思い出した。「見つかるといいね。春之助が本当に合う仕事……」
「セナ……やっと見つけたよ。俺の合う仕事。……今週末、会う予定だから、セナにいっぱいご馳走してやるか。」
次の日、俺はロングナイフを持って近くにある大きな病院に足を運んだ。
ナイフを持っていても、アナザーロッドを持っているから周りから俺は見えない。
もう、俺は正気じゃなかった。
「金金金金金……」
周りを歩いている人が全部、金に見えた。「おっと、危ねぇ。危うく、現実世界と異世界の区別がつかねぇとこだった。そんなへまはしねぇよ」
俺は病院に入り、適当に病室を選び、中に入るとアナザーロッドを使い、五分の扉を出現させた。
「さぁ、今日は百万くらい稼ぐか」
俺は扉の中に入った瞬間、一瞬で病人に襲いかかった。
「やっぱり病人だから動きが鈍いなぁ!」
俺は、瞬く間にその病室にいる八人を殺した。
「さぁ、次だ!」
俺が廊下に出ると、患者が一生懸命俺の方に向かって来る。
「そんな動きじゃ、俺は殺せねーよ!」
俺は、向かってくる患者を容赦なく刺し殺していく。
もう、何人殺したのか分からない。
数を数えるのも忘れ、俺はひたすら目の前の人間を殺していった。
すると、俺の目の前にある人物が現れた。「……セナ?」
俺は忘れていた。
セナは、この病院で働いていたのだ。
セナはナイフを手にしており、無表情で俺の方へ近づいて来た。
「セナ……やめてくれ。俺は、いくら異世界でも、セナを殺すことなんてできねぇ」
次の瞬間、俺の中の悪魔が呟いた。
「なにが、愛する人は殺せないだ。お前は今、何人殺してる? さっきまでの威勢はどうした。あの女も、ここで殺しても、現実世界じゃ死にはしないんだ。それに今、あの女はお前を狙っている。ここで死んだら、全てが失くなるんだぞ? お前が死んだら、あの女からも忘れられる。それでもいいのか? あの女の為にも……山寺セナを殺せ!」
「そうだ……俺は死ねない。せなの為にも!」
セナがナイフで俺を刺して来た。
俺は、それを皮一枚でかわした。
「うぉぉぉぉ!」
俺は、叫びながらセナの心臓目掛けて、ロングナイフを突き刺した。
ナイフを抜くと、セナは血しぶきをあげながら崩れ落ちた。
一方その頃。
私の名前は「山寺セナ」
少し、仕事に疲れている看護師だ。
私は、子供の頃から憧れだった看護師になった。
最初は頑張ってはいたが、仕事のプレッシャーや、先輩達のパワハラで少し悩んでいた。
勤務形態も不規則で、徐々に私の身体は悲鳴を上げていた。
でも、それでも頑張れる理由は私にはあった。
それは、私の彼氏の「風谷春之助」
春之助は、仕事を転々としている。
一見、だらしない人だと思われるが、私にはそうは見えなかった。
私は、春之助が学生時代の頃から知っている。
春之助は、野球をしている時はとても真剣だった。
春之助は、チームワークをとても大事にしていた。
同じチームの仲間達を励ましたり、応援したりよく気にかけていた。
そんな一生懸命な姿を見て、私は春之助に惚れた。
春之助は今、きっと大きな壁にあたっているだけ。
きっと自分に合う仕事が見つかれば、またあの時の春之助が見れる。
その時、私は春之助の隣にいたい。
いつか、春之助が自分に合う仕事が見つかれば、私はそれだけで嬉しい。
それだけで今、なんとか動いている。
「でも、私も今の現状を少し変えられたらいいなぁ……」
そんなある日、私は仕事から帰っていると突然、黒服を来た男性から声をかけられた。
「あのー、すみません」
「きゃっ! なんですか?」
いきなり声をかけられたので、私は思わずびっくりした。
「わたくし、『黒川』と申します」
「何ですか? あなた。……私、忙しいので失礼します」
「まぁまぁ、少し待ちなされ。お嬢さん」
正直、私はこの男が気持ち悪いと思った。「あんまりしつこいなら警察呼びますよ?」「まぁまぁ、私はあなたが思っているような者ではないですよ。……どうやら、先にお話を進めた方が早いようですね。」
私は、怖くなって大声で叫んだ。
「誰か、来てください! 春之助、助けて!」 でも、周りを歩いている人はそんな私に目もくれていない。
「……嘘? 皆……私が見えてない?」
私は背筋がゾッとした。
「あなた、私に何をしたんですか?」
すると、黒川という男はニヤリと笑ってこう答えた。
「私は、あなたの今の生活を、少しでも変えてあげようと思っただけですよ」
そう言うと、黒川という男は懐からある棒を出し、それを一振りすると、そこには水色の大きな扉が現れた。
あまりな非現実的なことに、私は膝から崩れ落ちた。
「……なによ? これ……」
「あなたの人生を変える扉ですよ。ぜひ、お話だけでも……」
私は今、五分扉の中にいた。
でも、私はいくら異世界とはいっても人や動物を殺せなかった。
護身用でナイフは持っていたが、基本私は逃げていた。
私は学生時代、陸上部だった。
だから、そう簡単には捕まらない。
「五分で一万円貰えるなら、それでいい」と私は思った。
でも、現実はそう甘くはなかった。
私が走って逃げていると、グサッと音が聞こえ、急に私の胸の付近が冷たく感じた。
どうやら私は、横から誰かに刺されたようだ。
私は、その場に倒れた。
そして、見上げるとそこには、春之助がいた。
春之助は、私の血で染まったナイフを持って、無表情で私を見下ろしていた。
「春之助? やっぱり、私なんかが、こんなことするんじゃなかった。……少しでも今の自分を変えたくて、目の前の物に目がくらんでしまったなぁ。でも、最期は愛する人に殺されるなら、まだマシなほうだよね。……春之助、いい仕事見つかったかな。見つかってたらいいな。最期を見るのが春之助……あなたでよかった」
私は、春之助の幸せを願いながら、永遠にその瞳を閉じた。
一方その頃。
俺は、現実世界に戻っていた。
家に帰ると、札束がいっぱいあった。
「そっか……あまりの大金の時は、自動的に自分の家に送られるのか。本当に便利なシステムだな」
大量のお金が俺の部屋にあるが、俺は不思議とあまり嬉しくない。
「俺……誰かに『自分の合う仕事が見つかった』って言おうと思ってたんだけど誰だっけ?……全然、思い出せないな。なんか、大事な人、忘れているような……」
その頃、黒木は人目のない道を歩いていた。「ほっほっほっほっ。やってしまいましたか。風谷春之助さん。最後までお話を聞かないからこうなるんですよ? 五分扉の中で人を殺しても、現実世界では死なない。……ただし、この異世界は繋がっているのですよ。もし、現実世界の人間が、同時に五分の扉に入り、片方が殺すようなことがあれば、その人間は現実世界から消滅する。……ああ、私が彼にこの『五分の扉の説明書』を渡せば済む話しでしたか。……それに、彼女がナイフを持っていた時点で普通、気づくでしょう。あなたは、本当にお馬鹿さんですねぇ。……さぁ、今度はどんな面白いお人を探しましょうかね。ほっほっほっほっ」
この物語は、
「刺激」「欲」「代償」をテーマに書きました。
現実では起こらない、現実では傷つかない、そう思った瞬間に、人は簡単に一線を越えてしまう。
そして、気付かないうちに自分を制御出来なくなってしまう。
春之助は、その象徴として描いています。
五分の扉は空想ですが、私たちの身の回りにも、
似た扉は案外多いのかもしれません。




