五分の扉-初陣-
異世界に入ると本当に現実世界と何ら変わりはなかった。
「本当に、ここ異世界なのか?」
そう思っていると、周りを歩いている人、散歩している犬、そして野良猫と空を飛んでいるカラスが一斉に俺の方を見た。
次の瞬間、あらゆる生物達が俺を目掛けて襲って来た。
「うお! まぢで来やがった!」
俺はとにかく全力で逃げた。
鳥が、犬が、猫が、そして人間が、物凄い数で俺を追いかけて来る。
俺は只、逃げることしか出来ず、道の裏路地に入り一旦身を隠すことにした。
「甘く見ていた。今思えば全員敵なんだよな。こんな数、相手してられないぞ」
そう思っていると、俺は左腕に目がいった。「なんだこれ? 腕時計?」
説明しよう。
今、春之助の腕にある物。
これは「アナザータイムウォッチ」
通称アナタイは、異世界に入ると自動的に身に着く。
そして、これは五分間のタイムを測ってくれるのだ。
つまり、春之助はアナタイを見ながら、行動することが出来るというアイテムなのだ。
まぁ、普通の時計です。
「まだ二分しかたってねーよ。とりあえず今日は初陣だし、このまま隠れて一万円だけ頂くか」
俺はそう思ったが、現実はそう甘くはなかった。
「ガルルルゥ」となにか獣の声がする。
振り向くと、後ろに犬が物凄い形相で俺に近づいて来る。
それと同時に、上からはカラスが俺を見つけて突進して来た。
俺は、横に落ちてある棒を拾って、カラスの眼球を目掛けて投げると、それがクリンヒットした。
俺は、学生時代野球をしていた。
ここで役に立つとは思ってもいなかった。
カラスは落下し、俺はカラスを全力で踏んづけた。
するとカラスは死んだ。
「よっしゃ! 舐めんなよ!」
でも、俺は犬の存在を忘れていた。
ガブッ!と鈍い音がした。
俺は、右足に猛烈な痛みを感じる。
そう、犬が俺の右足を思いっきり噛みついていた。
俺は痛みに耐えながら、左足で犬を踏んづけた。
それで犬は離れはしたが、俺の右太ももが噛みちぎられていた。
「やられた……。この出血はひどい。痛みで歩けねぇ……」
犬は再び起き上がり、俺に向かって突進して来た。
「嘘だろ? ……まさか、初陣で俺は死ぬのか?」
そう思った時、俺は現実世界に戻り、犬もいなくなり、右太ももの傷も完治していた。
「そっか……五分経ったのか。時間を見る余裕もなかった」
その時、俺の手元に一万五千円があった。「そっか……カラスを一匹殺したから、+で五千円ってことか。でも、いくら五分とは言え、あの痛みに耐えて一万五千円か」
俺は、家に帰って必死に考えた。
「最初は逃げて、人目のない所で五分隠れているだけで一万円ならそれにすべきか? いや、俺は犬とカラスにバレた。動物は嗅覚が優れている。隠れてもまず見つかるぞ。……それに、カラスは空から見れる。厄介だ。……後、俺は手ぶらであの異世界に行った。手ぶらでたった五分は、流石に誰も殺せねぇ」
考えぬいた結果、俺は決めた。
俺は店に行き、ロングナイフを買った。
「これで、人間や他の動物の急所を刺せば一撃で殺せる」
本当はマシンガンとかロケットランシャーとか使用して、一気に殺せば大量にお金が入ってくるが、そんな物が手に入る訳がない。
「……いや待てよ」
俺は、更なるいい考えを思いついた。
「まずは、このロングナイフで一日最低でも四、五人は殺せる。人間を殺せば、一人につき三万円だ。と言うことは、一日十万以上は稼げる。それを三十日やれたら……三百万を超える。月に三百万以上も稼げれば、俺はすぐにでも金持ちになれるぞ。そっから金に余裕が出来たら、外国からマシンガンとか、ロケットランシャーとか買えばもっと金が増える。なに、どうせ裏でそんな取引やってるだろ。金さえ払えば奴らも売ってくれるだろ。よし! 明日からこれで行こう」
あっという間に次の日になった。
「場所は、なるべく安全な所からがいいな。……となると自宅か」
俺はアナザーロッド使い、五分の扉を自宅で出現させた。
「やっぱこの扉もすげーな。触れるのに、家に置いてある物をすり抜けてやがる。……いや、これも俺がアナザーロッドを持っているからか? まぁ、そんなことはどうでもいい。とりあえず行くか!」
こうして俺は五分の扉の中に入った。
「やっぱり扉の中も俺の部屋か。今日は、昨日買ったロングナイフがある。あまり、装備を重くしすぎても動きが鈍るからなぁ。今日は、しっかりアナタイも見ながら……」
そう思っていると突然、俺の部屋の窓が割れた。
そこに現れたのは、一人の中年の男だった。 俺は驚いた。
何故なら、俺が住んでいる部屋は二階だからだ。
それと同時、玄関の扉を殴る音も聞こえてきた。
「玄関は、そう簡単にやぶれねぇ。…それにしても、このおっさん、運動神経いいじゃねぇか」
おっさんは、鋭い眼光で俺に襲いかかって来た。
「わりぃなおっさん。恨みはねぇが、死んでくれ!」
俺は、ロングナイフでおっさんの心臓を貫いた。
ナイフを抜くと、おっさんは大量の血しぶきをあげて死んだ。
その返り血がおれの身体についた。
いくら異世界とはいえど、俺は初めて人間を殺した。
昨日カラスを踏み殺したが、正直その時よりも全く感覚が違う。
その時、俺の中の悪魔が目覚めた。
「最高じゃねーか! こんなおっさん殺すだけで金が貰えるなんてよ! しかも、この世界じゃ捕まらねぇ!」
俺は、叫ぶと同時に玄関の方へ走って行き扉を開けた。
すると、十人くらい人間がいた。
その中には女、子供、老人もいた。
だが、俺はそいつらが金にしか見えなかった。
「ヒィアアー!!」
俺は、叫びながらロングナイフでその場にいた十人を刺し殺した。
俺の身体は、返り血で真っ赤に染まっていた。
俺はアナタイを見た。
「もう終わりか」
五分が経ち、現実世界に戻ると全てが元通りになる。
俺の身体も綺麗になっている。
勿論、俺が殺した人間も死んでいない。
俺は今回、合計十一人殺した。
そして、俺は生き残った。
俺の手元には、合計で三十四万円があった。 俺はお金を手に持ち、それを部屋にばら撒いて大声で笑った。
「あーはっはっはっはっ! 楽勝じゃねーか! たった五分で三十四万だ! 最高だ! 黒木のおっさんに感謝しねぇとな!」
もう、俺の心は完全に悪魔に取り憑かれていた。
そして、俺は最悪なことを思いついた。




