変人マンション-居ない部屋-
これだけではない。
まだ、駐車場には変な人がいるのだ。
これも春之助が仕事から帰宅し、車から降りた時のこと。
駐車スペースではない所に、小さな軽自動車を洗車している中年男性がいた。
常識はないにしても、ここまで変な人達を見てきた春之助からしたら可愛いものだった。
しかし、次の瞬間にはその考えは何処かへ飛んで行ってしまった。
何故なら、その中年男性はよく見るとパンツ一丁で洗車をしていたからだ。
春之助は思わず目を疑った。
しかし、それは錯覚ではなくその中年男性は自分の身体も洗車していたのだ。
一歩間違えば警察沙汰である。
車と中年男性は、見事に泡だらけになっており、春之助はこの光景を後二回見ることになる。
そして、先程話した隣の人だが、気付いた時にはもういなくなっていた。
それが分かったのは、春之助が仕事に行く時だった。
部屋の扉を開けた際に、タイミングよく隣の部屋の扉も開いた。
そこから出て来た人は、あの落ち着いた男性ではなく、少し小汚ない四十代くらいの男性だった。
その男性は、物凄い量のペットボトルを入れた袋を次々に外に出しており、道は塞がれていた。
「あの、通りたいのですが……」
春之助がそう言うと、その男性は何も言わずペットボトルの袋を退けた。
その日から、春之助はほぼ毎週同じ体験をすることになる。
「しかし、あの量のペットボトルは異常だ。あの量を部屋に入れていたら、歩く場所など殆んどなくなってしまう。しかも毎週……どう考えても可笑しいだろ」
そして、春之助の真下に住む人も恐らく変人だった。
何故かと言うと、ある日の夕方、仕事から帰ると、ポストに一通の手紙が入っていた。
その内容は、「夜中にあなたの騒音で下の住人が困っています」とのこと。
勿論、春之助に心当たりはない。
「何かの間違いだろう」と思い、ゴミ箱に捨てた。
しかし、それから三日後に春之助のスマホに一本の電話が鳴った。
出ると、相手はこのマンションの管理会社の職員だった。
その内容とは下の住人が、「最近、夜に上から物凄い音が聞こえてくる。注意してくれないか?」と言ってきたそうだ。
「あの手紙は、間違いではなかったのか」
春之助は「私は、夜中に物凄い音などたててません」と言ったが、「とにかく注意して下さい」と言われた。
「注意も何も、俺は何もしていない」
少し腹が立った春之助は、事情を聞く為に下の住人を訪ねたが、やはり出て来ない。
「ここまで、変人が揃うマンションは稀だ。お金に余裕はないが……」
春之助は、パソコンを扱いながら引っ越しを考えるようになった。
それからすぐの事だった。
「ガンガンガン!」と物凄い音で、春之助は目を覚ました。
時計を見ると、時刻は夜中の午前二時。
音は真上から聞こえくる。
「あの強面のおっさんか……」
音は一向に鳴り止む気配がない。
「流石に注意しに行くか……。いや、でも相手はまともではない……。こんな夜中にトラブルはごめんだ。警察に通報するか」
春之助は警察に「私が通報したとは言わないでくれ」と念を押した。
後から仕返しでもされたら面倒だったからだ。
音はしばらくすると止んだ。
次の日、春之助がコンビニから帰って来てマンションのエレベーターを乗ろうとした時だった。
一人の住人らしき人も一緒に入って来た。
その人は、見た目はごく普通の男性で初めて見る人だった。
春之助が軽く会釈をすると、その男性が話しかけてきた。
「昨日、うるさかったでしょ? 四階の人……。どうやら警察が来たらしいですよ」
「呼んだのは俺だが……」
と春之助は思いながら「そうなんですね。確かにうるさかったですね」と適当に返した。「なんか、五階の人と揉めたらしいですよ。五階の人がうるさくて、四階の人がそれに腹を立てたとか……」
「と言うことはあの、強面のおっさんの更に真上に住んでる人か……確か、アル中とか言ったいたなぁ」
春之助がそう思っていると次の瞬間、男性はニヤリと笑い変なことを言い出した。
「でもね……いないんですよ。」
「……どういうことですか?」
「あの人の真上には、誰も住んでいないんですよ。四階の人はよく、私にも愚痴を言ってくるのですが……。まぁ、少し変わってらっしゃるのでしょう」
そう言って男性は二階に下り、春之助の真下にある部屋へと入って行った。
「もう……引っ越そう」
お金はなかったが、春之助はとうとう決断した。
約一ヶ月後、無事に次の部屋が見つかった。
荷物も移し終え、あのマンションから立ち去ろうとした時だった。
最後の荷物であるパソコンが入っているバッグを持ち、いざ車に乗ろうとした時、一人の男性が声をかけてきた。
あの強面の男性だ。
「兄ちゃん、引っ越すのかい?」
「あ……はい、お世話になりました」
「いえ、こちらこそ」
「ん? こんな感じだったか?」
春之助が疑問に思っていると、強面の男性は最後に変なことを言い出した。
「兄ちゃん、次は変な人がいない所だったらいいねぇ。此処は変人だらけさ。何故か、このマンションはそういう奴らが集まる。最初から変人だったか……此処に来てから変人になったか……どっちかだ」
そう言いながら、強面の男性は春之助が持っているバッグをじっと見つめニヤリと笑った。
それに気付いた春之助は胸がドキッとした。
完
春之助は何故、強面の男性にパソコンが入ったバッグを見られてドキッとしたのでしょうか。
彼も、もしかして……。




