妹の後ろ姿-裏切り-
次の日の朝、ユイはセナの目の下の隈を見て「セナ、どうしたの?」と驚いていたが、セナは「早く、お祓いに行こ」と言い、昨日の出来事は話さなかった。
二人は神社に行き、神主に今回の出来事を相談した。
しかし、神主は首を傾げた。
「んー、二人共、悪霊はついておらんがな……」「え? どういうことですか?」
「言ったまんまだ。恐らく、君が見た霊は悪霊ではない。特に、お姉ちゃんの方には、良い守護霊がついておるよ」
神主の言葉に二人は安堵した。
「なんだ……。悪霊じゃなかったのか」
その姿を見て、神主は再び口を開いた。
「霊が見えたのは、お姉ちゃんの方で間違いないな?」
二人は頷いた。
「なら、一応これを持っておきなさい」
神主は、セナに御守りを渡し、二人は神社を後にした。
それから、不思議な体験はまるで嘘だったかのようにパタリと止んだ。
あれから、五年の月日が流れた。
セナは、高校時代から付き合っていた男性と結婚し子宝にも恵まれた。
ユイは、まだ結婚しておらず実家暮らしだった。
セナは、大型連休に久々に子供を連れ、実家に帰った。
この時、夫は家で留守番だった。
セナは、その日は実家に泊まり一階の和室で子供と寝ていた。
すると夜中に突然、子供が夜泣きを始めたので、セナは抱っこをして寝かせていた時。
突然、トントンと誰かがセナの肩を叩いた。
「きゃっ! なに?」
セナは、咄嗟に振り向いたがそこには誰もいなかった。
しかし、振り向き様に少し白い手が見えていた。
「あの手……ユイ?」
セナは、子供を抱っこしたまんま急いでユイの部屋へと向かった。
和室にはあの時、神主から貰った御守りが落ちていた。
「ユイ! 起きて!」
セナの声に、子供が再び泣き始めた。
「セナ、落ち着いて。子供が泣いてるよ」
ユイは、子供を抱っこして寝かせた。
「セナ、なにがあったの?」
「肩を叩かれたの……」
「肩?」
「うん……。覚えてる? 五年前のこと」
「五年前? ……ああ、あのことね」
「また、あいつが出たの」
「でも、ちゃんとお祓いしたじゃない」
「でも、出たの! 気のせいなんかじゃないわ!」
セナの、あまりの必死さにユイは信じた。
「そう。……なら私も一緒に寝てあげるから、三人で和室に行こ?」
「嫌よ! 下には下りたくない」
「もう、分かったわよ。なら、私のベット使っていいよ。子供と一緒に寝な」
「ユイはどうするの?」
「床で寝るしかないでしょ」
「ありがとう。ユイ……なんか、変に優しいわね」
「もう、最後だからね?」
安心したのか、セナはすぐに眠ってしまった。
それから、どれくらいの時間が経ったのか、セナは再び目を覚ました。
すると、セナの横に黒い影が立っていた。
セナは驚き、声を出そうとするが全く出ない。
声どころか、全身が全く動かなかった。
目が慣れてきたのか、やがて黒い影の姿が見えてきた。
「……私?」
そこに立っていたのはセナだった。
「まさか……今までのあれは私だったの?」
そう思っていると、立っているセナが手を差し伸べてきた。
先程まで、恐怖に襲われていたセナは、それがまるで嘘だったかのように、差し伸べられている手を握った。
二人は手を繋ぎ、ユイの部屋の窓を開けた。 すると、もう一人のセナが、セナの身体の中に入った。
セナは、窓をよじ登り飛び下りる瞬間、ガッと誰かがセナの手を掴んだ。
それにより、ふと正気に戻った。
気付いたら、すでに朝になっていた。
後ろ振り向くと、そこにはユイの姿があった。
どうやらユイが、セナの手を握って助けたようだ。
ユイは、真顔で何も言わない。
「ユイ……ありがとう」
次の瞬間、窓の外から視線を感じた。
セナは、窓の外に目をやると下にはユイがこちらを睨んで立っていた。
その瞬間、セナの脳内は混乱し、やがて何かが壊れたような感覚が襲ってきた。
セナは、精神が崩壊し大声で叫んだ。
「もう!! どっちなのーーー!!」
セナは、足を滑らせ頭から地面へ落ちてしまった。
頭が急に冷たくなった。
意識が遠のく中、窓の方に目をやるとユイは、寂しそうな顔をしてすぅーと消えしまった。
そして、視界が暗くなる直前、下にいるユイ方に目をやった。
セナが最期に見たもの。
それは、自分の夫と手を繋いで、こちらを見ているユイの姿だった。
双子とは、不思議なものだ。
顔も、声も、仕草も似ている。
だが一番恐ろしいのは「どちらがどちらか分からなくなる瞬間」なのかもしれない。




