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村人でも戦力に!の話

落ち着け……落ち着け


ルイは宿舎の屋上の縁に立ったまま、何度も心の中で繰り返した。望遠鏡でのぞく視線の先には、遠く広がる戦場。まだ本格的にぶつかり合う前の、張り詰めた空気がそこにあった。


焦るな。整理しろ


深く息を吸って、吐く。無理やり心拍を落ち着かせながら、頭の中で状況を組み立てていく。

今回の相手は近隣国。この辺は発展してる国が多い……だから、相手も弱くはない


いくらアヴァリスが強国とはいえ、油断していい相手ではない。それでも、戦力差自体はある程度こちらが上のはずだ。だからこそ今回の出撃は、部隊中心がない。指揮官であるレベスはいるが、他の幹部たちは温存されている。


つまり、“普通に勝てる戦い”のはずなんだ


成功√の原作ではそうだった。


だが、それはリリー嬢が削ってたからだ。

ルイは望遠鏡を手に取り、戦場を覗き込む。そして、その瞬間。


『……なんでだよ』


思わず声が漏れた。敵の数。密度。配置。多すぎる。

違和感では済まない。明らかに、“万全”だった。削られた形跡が、一切ない。


このままぶつかったら……脳裏に浮かんだ結論が、はっきりと形になる。


______________________負ける


『……っ』


心臓が大きく跳ねた。


なんでだ、なんでリリー嬢が動いてない


原作通りなら、もうすでに裏で動いているはずだ。闇市で情報を買い、侵攻ルートを割り出し、先回りして敵戦力を削っているはずなのに。


…いや、見えてないだけか?そう思おうとして、すぐに否定する。その“気配”が、どこにもない

騎士団内にも、外部からの情報にも、何も変化がない。まるで、本当に誰も動いていないかのように。


  待て


嫌な予感が、背筋をなぞる。このままじゃ、本当に……考えがまとまるより先に、体が動いた。


『急げ……!!間に合え!!』


屋上の縁を思い切り蹴る。次の瞬間、ルイの体は空中へと投げ出されていた。本来ならあり得ない跳躍。しかし本人は気づかないまま、そのまま屋根へと着地し、走り出す。瓦を蹴り、次の建物へ飛び移る。風が顔を打ち、景色が一瞬で流れていく。


俺でもいい


騎士じゃなくてもいい


『村人でも戦力になるだろ……!!』


ただ前へ。とにかく前へ。必死に屋根の上を駆け抜ける――その速度が常識外れであることにも気づかずに。

やがて戦場が視界に入る距離まで近づいた。本来なら細部など見えない距離。だがルイの目には、はっきりと戦況が映っていた。


『……っ』


アヴァリス軍が優勢。前線は押している。

だが――違う、これじゃない。その時、視界の端に違和感が引っかかる。戦地を挟んだ反対側、やや高い位置にある建物の上。




…なんだ、あれ




必死で目を凝らした。


『砲台……!?』


大型の砲台が複数、設置されている。周囲には兵士。明らかに“準備されている”。この時代での技術では大量の砲台を用いるのは現実的ではない。なのに、あれが撃たれたら――終わる。

前線の優勢なんて、一瞬で吹き飛ぶ。


あれが本命か……!


ルイの足がさらに加速する。距離を詰める。だがそれでも――遠い。間に合わない。このままじゃ撃たれる方が早い。一瞬の迷い。そして、ルイは懐から小さな懐刀を引き抜いた。届くかなんて、分かんねぇけど……!


距離感も、計算もない。ただ、“止める”という一点だけ。


この距離なら――!!


『吹っ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!』


全力で振り抜く。

放たれた刃は、空を裂いた。




空気が悲鳴を上げる。異常な加速で圧縮された空気が熱を帯びる。


――!


火花が散り、刀身が炎を纏う。それはまるで一筋の流星。一直線に、ただ一直線に、砲台へ――誰も気づかないまま。


そして。



直撃した砲台が内側から爆ぜる。



弾薬に引火し、連鎖し、爆発する。

それはまるで流星群のように建物を貫き、火柱が空へと突き抜ける。黒煙が広がり、敵兵が宙を舞う。


流星が______________________


「――ッ!?なんだ今のは!?」


「爆発…!?後方か!?」


「作戦は..........!?」


戦場を揺らし、敵陣が崩壊する。


混乱。


動揺。


そして、()()()()


「今だ!!押し込めぇぇぇぇ!!」


アヴァリス軍が一気に攻勢に出る。


『……っ』


ルイは走りながら、その光景を見つめた。


……止まった。砲撃は、ない。確実に来るはずだった一撃が、消えている。


間に合った、のか


じわじわと実感が追いつく。爆発の跡。燃え続ける残骸。俺、今……


何をしたのか、分からない。理解も追いつかない。

けれど――


『……まぁいいか』


小さく息を吐く。


『止まったなら、それでいい』



戦場は、まだ終わっていない。


だが、少なくとも。最悪の一手は、たった今、彼によって吹き飛ばされたのだった。

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