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ダンジョン対戦!俺!の話

森の奥へ進むにつれて、空気が明らかに変わっていくのが分かった。

最初はただの違和感だったはずなのに、気づけば鳥の声は完全に消え、風の音すら遠くなっている。


『……静かすぎんだろ』


思わずそう呟くと、自分の足音だけがやけに大きく響いた。さっきまで普通に出てきていたはずの魔物の気配もない。

……おかしくね?そう思った瞬間、ズン、と足元から鈍い振動が伝わってきた。


『……は?』


ゆっくりと顔を上げると、木々の奥で“何か”が動いたのが見える。


それは蛇だった。だが、ただの蛇なんて言葉で済ませていい存在じゃない。一本の巨大な胴体から三つの頭が生え、森の大木と同じかそれ以上の体躯を持つ異形。黒緑色の鱗は鈍く光り、ところどころひび割れたような傷跡が刻まれていて、まるで過去に何度も致命傷を受けながらそれでも生き延びてきたかのような異様な威圧感を放っている。


三つの頭はそれぞれ違う色を宿していて、一つは紫、口元から毒々しい霧を漏らし地面に触れるだけで草を腐らせる。一つは灰白で、その濁った目と視線が合った瞬間、体が重く沈むような感覚に襲われる。そしてもう一つは漆黒、ただ静かにこちらを見据えているだけなのに、次の瞬間には何かが起きると直感で分かるような不気味さがあった。


『……いや待って、デカすぎんだろこれ!!??』


思わず叫んだ瞬間、三つの頭が同時に動いた。


やばい


そう思った時にはもう遅く、反射的に横へ飛ぶとさっきまで立っていた場所を紫のブレスが通り抜け、地面がじゅう、と音を立てて溶けていく。


『ちょっ、当たったら終わりのやつじゃん!!』


慌てて立ち上がった次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

重い?体が思うように動かない。灰白の頭と目が合っていることに気づいた時にはすでに遅かった。


『は、ちょ、動けな――』


言い終わる前に、漆黒の頭が視界から消える。困惑を感じた次の瞬間にはもう目の前にいて


『っ!?』


と反射で体を捻ることでなんとか牙を避けるが、風圧が遅れて頬を叩く。見えてない、速すぎるって!!心臓が一気に跳ね上がる。


『いや無理無理無理!!ちょっと待てって!!』


叫びながら距離を取ろうとするが、そんな余裕は与えられない。毒、重圧、そして速度、三つの異なる攻撃が同時に襲いかかってくる。


どうすんだよこれ……!!頭の中は完全にパニックなのに、不思議と体だけは勝手に動いていた。


『右!?いや左!?いや来るの早っ!!』


自分でも何を言ってるのか分からないまま叫びながら踏み込み、毒をかすめるように避け、重圧の範囲から抜け、噛みつきを紙一重で躱す。


『なんで避けれてんの俺!?』


ほぼ反射で拳を振るう。どう考えても()()()()()()()()()はずなのに、ドンッ、と確かな手応えが返ってきた。


『……え?』


紫の頭がぐらりと揺れる。

いや今の当たるの!?理解が追いつかないまま、今度は三つの頭が怒りを帯びたように一斉に襲いかかってくる。


『ちょっ、タンマ!!タンマって!!』


もちろん止まるわけがない。三方向から風を裂く音が迫り、視界も感覚も追いつかなくなる。

それでも、叫びながらルイは前へ踏み込んでいた。逃げるんじゃなく突っ込むという、自分でも意味の分からない選択。


その瞬間、ほんの一瞬だけすべてが遅く見えた。


毒の軌道、重圧の範囲、噛みつきの角度、全部がなぜか分かる。


_______________今だ


踏み込み、黒の頭の牙を避け、その下を滑り込むように抜ける。狙ったわけじゃない。


『もう知らん!!』と振り抜いた拳が、三つの首が交わる根元に叩き込まれた。一瞬の静寂の後、ドンッ!!という衝撃とともに巨体が大きく仰け反り、三つの頭が同時に力を失っていく。そのまま地面が揺れるほどの音を立てて倒れ、森は再び静寂に包まれた。



『……勝った?』


恐る恐る近づいてみるが、完全に動かない。


『……え、なんで?』


自分の手を見ると、まだ微かに震えている。いや普通に死ぬと思ったんだけど。


その時、ふと鱗の一部に不自然な傷跡があることに気づく。明らかに誰かに斬られたような痕、それも一度や二度ではない。


『……これ、誰かやった後?』


こんな化け物と戦ったやつがいるのか、しかも倒しきれずに。なんなんだよ、この森。小さく息を吐く。


『……とりあえず、始末して帰るかぁ……』




_______________何も知らないまま、自分がどれだけ常識外れのことをしているのかも、あの瞬間確かに“死を回避していた”ことも、全部知らないまま。

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