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メトロカオス  作者: 混眼ルイ
EP:02【都界】

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18/20

12

 オスカーとアビス、カノンの三人を荷台に乗せたまま、小型トラックは街の上空を飛んでいた。列を成し渋滞しがちな地上の道路を上から見下ろせるのは何とも格別なモノがある。

 ハンドルを握るゲンジィが荒い運転で車両を振り回すのもあって、飛び交う車にクラクションを鳴らされる度に肝が冷えるが。


「このトラックも混術で飛んでるんだよね」

「あぁ。原理的にはあの天井と同じだ。反重力混術装置という奴だな」


 改めて上空から街と天井を見ると、本当に境目がなくどこまでも無限に続いている。遥か遠くの景色はもはや大気汚染の黒い靄によって見えなくなっている状態だ。ぼんやりと遠いビル群の灯りすら見える。


「いずれお前にも武器としての混術を教える。生きていくには必須だからな」

「混術かぁ。厳密には魔法とかとは違うって言うけど、やっぱり自分が使う事になるとは思わなかったな」

「街、ギラギラ」

「おい!そろそろ着くぞい!頭ひっこめぇ!」


 運転席からゲンジィの声が響く。荷台から身を乗り出すアビスの襟を引いて、下降を始めたトラックの荷台でオスカーは揺られた。


―――


 『ハンマーヘッド工房』は小さな町工場だ。荷台から降りてガレージ内に入ってみると、様々な機材や天井から吊るされた大型のクレーン、分解されたマシーンの数々にガラクタが目を惹く。


「あ!オンジお帰り!カノンさんもどーも!」

「ナグリ!今日のお客さんじゃぞ!」


 旋盤と思われる装置をいじっていたツナギ姿の少女がオスカー達に気付き、大きな手でゴーグルを持ち上げながら赤毛の三つ編みを揺らし駆け寄ってくる。

 ゲンジィと並んでみると随分と身長差があるというか、背丈的にはオスカーと殆ど変わらない。


「孫のナグリじゃ。この工場唯一の従業員じゃぞ」

「よろしく!キミがオスカーだね!」

「どうも」


 グリスで薄汚れながらも溌剌としてにこやかな彼女の顔をよく見てみると、もみあげあたりから伸びていると思った三つ編みは頭髪ではなく、髭を綺麗に剃り整えて編み上げたモノだった。恐らく元々かなりの毛量がありそうで、ゲンジィと同じ血筋の者だと感じさせる。


「それでじゃ。今日の注文ちゅーのはオスカー用のマシンじゃったな」

「そうだ。費用なら私が負担する」

「オスカーくん、どんなのがお望みかな?」


 鼻頭についたグリスを手袋で拭い伸ばしながらナグリはオスカーに問いかけた。


「えぇっと……出来ればバイクぅ、みたいなのがいいかな」

「バイクゥ、みたいなのね」


 とはいっても、だ。どうやら話を聞く限り今からオスカーの注文に応えて彼らが車両をイチから用意しようとしている。見るにこの分解された部品を寄せ集めて、一台仕立てる気なのだ。

 日常的な点検でいじるような事はあったとは言え、オスカーが特別機械に詳しい訳ではない。それも異世界の装置類ともなれば目で見ただけでは何がなんだかサッパリだった。


「まぁ彼らに任せておけ。バベロンでは一番の腕前と言ったって良い。ランナー活動に頑丈かつ機敏な移動手段は必須だからな。企業の機体でも良いがそれではあまりに値が張りすぎる」

「これはワチシらの本能、習性みたいなモノだからね!」

「グリスに塗れ、ガラクタを枕にし、旋盤の音を子守唄に。ワチら『ミゼルグ』の至高の喜びじゃて!もちろんタダじゃないがの!」


 ミゼルグとは彼らのようなドワーフを指すスラングなのだろう。

 少々不安ではあるが、早速作業に取り掛かる彼らの姿は職人としての頼もしさもしっかりと感じる。


「それで、バイクっちゅうのはどれをさすんや?」

「とりあえず飛べるようにしとけばいいんじゃない?」

「ヤンマーハ製のフレームに、反重力混術装置と混素リアクターは載せるとして後はどうするかの?ミサイルポッドでも積んどく?」

「いいねぇ~!ドリルとかで壁も突き破って進めるようにしようか?」


 わいわいがやがや。

 次から次へといろいろなガラクタを寄せ集めては、フレームに重ね合わせている。


「……本当に大丈夫なの?」

「まぁ……いろいろと盛り付けたがるクセはあるがな」


 やはり少し不安だ、とオスカーは思った。

 そこでふと思い出したように、カノンがオスカーへ向き直る。


「そうだ。もしオスカーが良ければそのハンドル、預けてみないか?」

「――!」


 カノンの言葉の意味をすぐに理解し、オスカーはベルトに挟んでいた元愛車のハンドルを取り出し、ゲンジィ達の元へ持っていく。


「あの、もし良かったらこれを組み込んでもらえたら嬉しいです」

「ハンドルじゃの。元愛車のか?」

「はい。また一緒に走れたらなって」

「よし!具体的な注文サンキュー!後は任せて!」


 やっと語られたオスカーの具体的な提案に、ゲンジィとナグリは方向性を定めたように笑顔で答えた。

 彼らのやる気に、オスカーもやっと、自然に笑みをこぼし、頷いた。


 金属音、機械音、それらはガレージを揺らして、響き渡る。

 ドワーフの二人はそれはそれは楽しそうに、機械の前から離れることはない。


「あの二人、血のつながった祖父と孫なんだよね?結構身長違うね」

「あぁ。ナグリの父方はゲンジィと同じ種族だったんだが、母方は8メートル程の巨ジン系種族でな。『キメラ』、つまり混血族だ」

「8メートル!」


 さり気なく高さを表す単位までオスカーの地元基準になっているのを聞き流しつつ、それは大きいなと驚く。

 確かに街中を歩いていても、結構それぞれの身長にはバラつきが見られる。建物もオスカーからしてみると、絶妙に天井が高かったり、ドアノブが複数設置されていたのをオスカーは思い出した。


「彼女、両親を亡くしていてな。あぁして祖父であるゲンジィが面倒を見ているのさ。幼い頃の彼女はみるみるうちにすくすく育って、今やあんなに元気な有様だ」

「そうだったんだ、今ナグリちゃんは何歳くらいなの?」

「年齢ということか。ふーむ、ざっと40くらいじゃなかったか」


 しまった、思ったより年上だった。と、オスカーは苦笑いを浮かべてごまかした。

 これだけ種族がいるのだ、寿命の単位や成長する速度も千差万別だろう。だとすればカノンは一体いくつくらいなのやら。


「年齢に関して言えば、だ。メトロではこうして種族によって成長速度も寿命の長さも異なる。私とお前は同じロイドだが、実際のところは寿命も大きく異なるだろう。そもそもメトロでは月日の周期や流れが非常に曖昧でな。正確な年齢など自分でも把握していないさ」

「そっか。アウター基準時間はあるみたいだけど日付みたいなのは全然見なかったかも」

「そういう事だ。年齢の大きさや小ささなど何のアテにもなりはしない……そう思いたい所、なのだがな」


 何か思わせぶりなことを呟きながら、カノンはサイボーグ用のゼリーを一口すすった。やはりこうして彼女を見ていると、彼女の肉体の大半が機械に置き換えられているとは思えないが、それが必要なくらい計り知れない苦労をしてきたのかもしれない。

 いずれ彼女の過去に関してオスカーが問いかける機会は訪れるのだろうか。


 そんな事を考えながら、忙しなく働いているナグリ達を眺めていると、オスカーの頭の中でアビスの声が響いた。

 少々ピリついている様子だ。


『オスカー、何か物音が、聞こえる。物凄い、勢いでこっちに、接近してくる』

「え?」

「どうした、オスカー」


 アビスの言葉に椅子から立ち上がった、その時。


がっしゃぁあん!

「な、なんじゃあ!?」

「なっ――何事だ!?」

「ゲンジィさん!ナグリさん!」


 爆音を上げ、工場の壁が紙きれのように吹き飛ばされ突き破られる。ガラクタを撒き散らし、土ぼこりを上げ、建物を崩壊させ、巨大な影が構内に現れた。

 機械仕掛けの腕が、破られた壁を掴む。


『ッハッハッハ!思ったより大したことねぇ工場だなァ!』

「なんだアレ!?」

『オスカー、アレは、デカいヒトか?』


 土煙の中から現れたのは、おおよそ10メートル程度の大きさだろうか。黄色い装甲を身に纏った巨大な二足歩行ロボットが、片手に壁を突き破ったブレードを手にして工場内に入り込んできたのだ!


「げほっ!げほっ!何!?なんなのさ!?」

「『サブダイバー』か!?何故ここに!?」


 幸いにもナグリが瓦礫の下からせき込みながらゲンジィと共に這い出てくる。

 オスカーとカノン、ゲンジィとナグリの間に挟まれるようにして、巨大なロボットはキョロキョロと辺りを見回した。


「カノンさん、アレは!?」

「可変式汎用作業艇『サブダイバー』。メトロで一般的に流通している作業用マシンだ」

「作業用なの?明らかに武装してるけど?」

「だから『汎用作業艇』なんだ。混界での採掘、メトロでの建築、ランナーの任務、戦略的戦争兵器、あらゆる用途に用いられている」

『あーん?なんだぁ?随分と寂れてるじゃあねーか!』


 妙に甲高い声がスピーカーを通して響き渡る。

 サブダイバーは間抜けた様子で辺りを見回しては、狭い構内に体をぶつけ、あちらこちらを破壊しまくった。


「あぁもうちょっとやめてよ!それ高いんだから!」


 頭上から降ってくる瓦礫や機材を避けながら、ナグリが拳を振り上げ叫んでいるようだ。


「あのタイプは――レイフー社製の汎用型だな。となると乗っているのは勘違いから壁を突き破って修理に訪れたマヌケではなく、何故か依頼を受けてここを壊しに来たランナーといった所か」

「えぇ!?なんか恨みとか買ったんですか!?」

「わ、ワシは知らんぞ!?」

『おいジジイ!ちょこまか足元を歩き回ってんじゃねぇ!』


 足元を慌ただしくナグリとゲンジィが逃げまどっている中、サブダイバーは持っていた鋼鉄のブレードを地面に向けて振り回し、機材をめちゃくちゃにしてゆく!

 サブダイバーはまるで自らを誇示するように、ブレードを掲げ、高らかに宣言した!


『オレ様はな、レイフー社から直接!依頼を受けて解体工事に来てやったンだぜぇ!ここ、新型サブダイバーが秘密裏に建造されているチェッカーボード社の極秘工場になァ!!!』

「……え?」

「はぁ?」

「ふむ……」

「な、な、な……」


「何を言っとるんじゃぁー!?」


 ゲンジィの怒鳴り声が、騒音をかき消して響き渡った。

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