06
拳銃を挟み向かい合う、ネズミ女とオスカー。
二人の違いは、銃口が向いているか、そうでないか。
そのはずなのに、二人は同じように目を丸くして硬直していた。
「おい!モロ!見つけたのかい?」
「っ!姉御!こっちだ!」
恐らくモロという名のネズミ女に呼ばれた仲間達が、路地の向こうから三人駆け集まってくる。
逆光でシルエットしか見えず子細が分からないこの状況ですらも、オスカーには彼らの姿がモロと同じように自らと同じではないと分かった。
「ガルハハハハハ!やるじゃねェか泣き虫ドブネズミの癖によ!ゴミ臭さにはやっぱ敏感ってかァ?」
「だからこれは涙じゃねぇって言ってんだろ!」
「ダズー!ちょっと黙ってな!モロ、アンタよくやったよ」
リーダー格の女と、二人の男。
ダズーと呼ばれたその男は、全身をまだら模様の体毛に包まれていた。
口は細長く牙が並び、だらしなく舌を出している。頭部にピンとした三角形の耳を立てている様はまるでヒト型のハイエナだ。ジャケットを身に纏ったシルエットとは対照的にブーツを履いていない足には鋭い爪が伸びていた。
「ソエリの姉御、やはりコイツは『ドリフター』だゾ。全身に『混泥』の付着痕跡があるゾ。高所からの落下で全身打撲も見られるゾ」
四人の中でもひときわ大柄の体躯を持つ男。漏れ聞こえて来た会話からドゴと呼ばれていた男だろう。
言い表すならトロールと呼ぶのにピッタリなくらい深緑の肌を持ち、今にもはち切れそうなほどに太い腕と足が目立つ。しかしそのイメージとは大きくかけ離れた片言ながら知的な言葉回しと、身に纏った小奇麗なスーツ。
片手には乱雑なコンクリートの塊を先端に実らせている鉄骨を持ちながら、眼鏡のリムにクイと触れる仕草はどうにもちぐはぐだが、リーダー格の女が彼に一定の信頼を置いているのも頷ける佇まいだ。
「ふん、じゃなきゃ無駄足だから困るよ。モロ、アンタいつまで固まってんだい?ちょっとアタシにも顔拝ませなよ」
「……」
リーダー格の女……いや、女と思われるソエリの顔が、ずいとオスカーに迫った。
冷たい鉄仮面に覆われ、鋭く凶悪な刃が備えられた義手を持ち、見るからに『サイボーグ』といった雰囲気の彼女はもはや元の姿が想像できない。何よりもコートの襟口からV字型に突き出た二枚の回転ノコギリ刃には得も言われぬセンスを感じさせた。
鉄仮面の眼光から覗く血走った眼球さえも、瞳を見るにもはや生体のモノではないだろう。
彼女は刃の切っ先で無抵抗なオスカーの顎を撫でる。
「へぇ、結構整った可愛い顔してンね。ロイドか?ん?まァなんだっていいだろう」
「ケケッ!ったく毛無し尾無し裸猿のヤツなんざわざわざ欲しがるヤツなんか居んのかよ!」
「せっかくのお客さんに失礼だろダズー?雲の上のお偉いさん方の素晴らしい趣味を舐めちゃいけないよ」
異常な状況に囲まれながらも、オスカーには彼らの言葉尻から好ましくない事に巻き込まれ始めているのは既に察していた。
しかしアビスは未だ体を自由に動かせないようで、うずくまっている。この状態で二人同時に隙を突いて逃げ出すのは困難だ。
武装解除する素振りを見せながらさり気なく忍ばせていた腰の拳銃に手を伸ばそうにも、大きな隙を晒してしまうだろう。
「ボロキレでも売りモンになるならオレだって苦労しなかっただろうがよ。それよりも姉御、後ろのヤツ見てみろよ」
「あぁ?二人連れだったのかい?なぁアンタ――っ!おい!ドゴ!」
つかつかと靴を鳴らし歩み寄ってきたソエリがアビスを覗き込み、そして驚愕に仰け反る。
呼びかけられたドゴが慌ただしくオスカー、そしてアビスを目にし、そしてモロと同じように眼鏡の向こうで目を見開いた。
「ま、まさかこんな事がだゾ……これはとんでもない事だゾ!」
「ハッ、危うく『アウター』の変態オヤジ共に売りつけるとこだったよ。コイツらを引き渡すのはもっと筋金入りの変態がお似合いだねぇ」
「ヘッ?なんだァ?なんだってんだァみんな?コイツがなんだってンだよ?」
全員の注目がわらわらとアビスに集まる。
彼女は息苦しそうにしながらも、じとりとした目で彼らを見上げた。
「おいダズー、お前『イデア』も知らねぇで『ランナー』やってんのか?」
「オレ様はなァ、ぶっ壊してぶっ殺せて金がかせげりゃそれでいいんだよ!難しいこたァ関係ねーぜ!」
「でもダズーよぉ、アンタ考え改めなきゃいけないよ。なんせここに居る二人はアタシら全員を雲の上住まいにしてくれても余りあるおつりで余生を謳歌出来るくらい価値があるんだからねェ」
ソエリの言葉にダズーが涎を垂らし、そしてオスカーは思わずアビスを隠すように立ち位置を改め直した。
しかしそんな様子を見て、ソエリは鼻で笑う。
「コイツの連れてるその白いのは企業共や『アストラ機関』の連中が喉から尻が出る程欲しがってるモンなんだよ。連中に売りつけりゃあ、どんな価値になることやら」
「じゃあ手前のよく分かんねぇ裸猿は殺して構わねぇって事だな!」
「待つんだゾ!宿主である『混人』が死ねばイデアも消滅するゾ!持っていくにはどっちも必要だゾ!」
「ンだよめんどくせぇなァ!もぉおお!」
拳銃を構えようとしたダズーだったが、制止されたことに腹を立てたのか頭を掻きむしっている。
オスカーには聴き馴染のない単語が多く混ざっているが、恐らく彼らの話すことはこの世界に関わる重要なことも含まれているだろう。少なくとも、こうした状況に巻き込まれる状態に、彼とアビスは置かれているという事だ。
「しかしモロ、アンタよく見つけたよ。これでアタシ達もこんなクソ溜めとはおさらばさ。バカ共の依頼の為にもう下水道も裏路地も駆けずり回る必要もなくなる。ドブ底産まれのアンタのおかげでな」
「姉御……」
「ガルハハハハ!やっぱ泣いてんじゃねーか!きったねェ黄色い鼻水みてぇだな!」
「だから涙じゃねーってば!うっせーぞケダモノ野郎!いいからドゴ!コイツのこと縛っちまえよ!」
「分かってるゾ。それとモロ、それは下水のヒト食い粘菌だゾ。早く医者に行くんだゾ。今は片目で済んでもいずれ脳もやられるゾ」
「わ、分かってるって!コイツ売れば金が出来るんだろ?それで治してもらうさ」
モロの左目を覆う包帯からはじわりと黄色い粘液状の物体が流れ出ている。
四人のやりとりを聞き逃さず隙を伺おうと警戒しているオスカーの脳内に、アビスの声が直接響いた。
『オスカー、もう一人、足音が近づいて来てる。それも、かなり早い。気を付けて』
声に紛れて聞き逃しそうになったが、確かに一人、駆けよる足音が聞こえる。路地の奥から響いてきているのだ。
オスカーはそれでも、気付かないフリをして大人しく両手を挙げ続けた。殺される心配はないとはいえ、下手に動けば自由を奪う為に手足を破壊されかねない。
「ガルハハハハ!コイツ企業に引き渡したらどうなんだろうなァ?」
「まぁバラされるのは確実だろうねェ」
「混人とイデアの研究分野は未だ未知数だゾ。先端技術の利権を求めて誰もがいち早く――」
「なぁ、おい、なんか聞こえねぇか?ダズー!声のボリューム落とせよ!」
彼らは自らの声で気付く気配もなさそうだった。が、大きな耳を備えたモロだけが、それを察知したのか表情を変える。
そして次の瞬間。
「ガルハハハハハハ!ガルハハハハ――ガルがぽァッ」
「なっ……」
大口を開けて笑っていたダズーの上顎から上の全てが、破裂音と共に弾け飛ぶ。
「っ!ダズー!アンタら伏せな!」
「っちぃ!路地奥だ!」
どさり、と音を立てて獣ジンの体がアスファルトに背中から崩れ落ちた。
ソエリの声と共に、三人は一斉に武器を構え警戒態勢に入った、が、彼らの警戒していた路地奥とは裏腹に、頭上から影が急降下。
「なっ――がはっ!?ゴッ……」
鈍い音を鳴らし、モロの体が紙きれのように宙を吹き飛ばされビル壁に強打される。全身から鮮血を噴き出して、そのまま力なく彼女はずるりと血痕を壁に擦り付けながらアスファルトへとずり落ちた。
彼女に鋭い蹴りを放ったジン物は、紫の髪を靡かせて、暗闇で煌めく義眼ですぐさまドゴとソエリへ狙いを付ける。
『オスカー、これは……』
「アンタァ、コイツらが狙いじゃ――ちょっと!話してる途中だろう!?」
紫髪の女は手に持った大口径の拳銃をソエリに向けて連射する。
反射的に彼女は義手の刃で弾丸を弾き返し、連携するように女の背後に回り込んだドゴがコンクリート塊をハンマーとして振り上げた。
「潰れるんだゾ!」
「この弾丸、アイツまさか――ダメだ、ドゴ!」
その攻撃すらも読んでいたと言わんばかりに、女は後ろに振り向くことなく腕だけを背後へ向け、ドゴの体に鉛玉を喰らわせた。何度も、何度も。
不思議と硝煙の香りは漂わないが、体を打ちぬかれたドゴは鮮血を闇に散らせた。
「う、う、ぐぉおおおおおお!!!!!」
それでも強靭な肉体で倒れようともしないドゴがハンマーを振り下ろそうとしたその刹那、両腕の肘関節に向けて素早く二連射弾丸を撃ち込み、関節が破裂。
支えを失ったハンマーが両手から滑り落ち、彼の頭を自ら叩き潰させてしまった。
「う、ご……」
鼻血を噴き出し顔を歪めたドゴはそのまま倒れ、動かなくなった。
間髪入れずに女が振り返るよりも素早く、ソエリが刃を振りぬく。それすらも彼女は眼で捉えていないはずなのに、両脚を開き深く腰を落として回避すると片足を軸に全身を捻り、オスカーの肉眼では捕らえられない速度で蹴りを繰り出した。
ソエリの胴体へ蹴りが接触する直前、脹脛が展開しバネのように機能して衝撃を増幅させ、彼女の体を後方へ吹き飛ばす。
「ぐぁっ!?アンタァ、あの街角の凶器工房……そうだ、『ビハインドバレル』のカノンだね!?なんでガンスミスのアンタがアタシらの邪魔を――」
「始末の悪い客の責任を取るのも、店の仕事なんでな」
「ただの死の商人が、偉ぶるんじゃないよ!」
胴体の肉を抉られながらも衝撃を全身で受け止めたソエリは食い下がり、左腕をがちゃがちゃと変形させる。それは一門の大砲の形態へと変化し、直後、熱を渦巻いて火を吹いた。
爆炎を纏って放たれた砲弾はカノンと呼ばれた女だけでなく、オスカーとアビスすら巻き込む勢いだ!
「アタシはコイツらと、そこの混人を売っぱらってこんなドブ底から這いあがってやるつもりだったんだよッ!」
「まずい巻き込まれるッ!」
「ッチ、見境ないな。防壁混術」
素早くカノンが二人の前へ立つと、腕部を砲弾へ向け手を開く。まるで手相に沿うかのように機械的に腕が展開すると、紫色の光が壁となって爆炎を遮り二人を守ったのだ。
爆炎が散り、暗闇を照らす中で、オスカーはカノンの後ろ姿を見上げた。その姿に、彼女が自身へソエリ達のような敵意や害意を向けてないのを何となく感じ取る。
「上物のサイバネばっか装備して、ホント腹立たしいよアンタが!そのクセなんでソイツらを奪おうとするんだい!?」
「何も知らない観光客に、自分の店の銃が向けられるのは辛抱ならないからな」
「綺麗ごとを言う!」
素早く弾倉を差し替え、カノンが銃口を一瞬ソエリに向け――た直後、頭上へ銃身を向け弾丸を撃ち出した。
放たれた弾丸は彼女の頭上、壁面に備え付けられていた室外機の支えを破壊し、落下させた!
「なっ、小癪なッ!クソッ!」
落下してきた室外機を打ち払おうとソエリが気を取られた隙に、カノンが地面を蹴って距離を詰め、次の瞬間、足を直角に振り上げ義足を展開。ソエリの鉄仮面と肩の間、生身の肌が覗く場所目掛け、踵を振り下ろした。
「職人風情が――ッ!」
「職人が居なければ戦う事も出来ないヤツが何を言う」
路地に響く鈍い音。
ソエリの体はそのまま力なく、アスファルトへと崩れ落ちた。
先ほどまでの騒がしさからは考えも付かない静寂が、辺りを支配する。
ただ聞こえてくるのは傷口から噴き出す血の音と、女の靴音のみだ。
彼女はオスカーとアビスへ歩み寄ってくる。しかしその歩み方に、やはり害意は感じさせない。
「あの……」
「来訪早々地元民が騒がしくてすまない」
空の弾倉を抜きながら、彼女はオスカーに向き直る。
「私はカノン。お前はどうやらここに迷い込んできてしまったようだな」
「……そうです、よく分からない、混界とか言うのに溺れて、それで」
オスカーの身振り手振り、言葉を真剣に聞きながら、カノンは頷いた。
「私はお前達を攫ったり殺す気はない。そこのイデアも安心してくれ」
「イ、デア……?わたしの、こと?わたしは、アビス」
「形成不全個体か。随分と力を使い果たしたようだな。この近くに私の工房がある、ここだと厄介なのにも絡まれるだろう。お前達が良ければ――」
「うおぁああああああああ!!!!」
カノンの言葉を遮り、路地に反響する絶叫。
オスカーの目に映る、彼女の背後でドゴのハンマーを振り上げる小柄なモロの姿。
全身から血を噴き出しながらも立ち上がり、叫び、怨嗟に目を燃やしながら、カノンの頭を叩き潰す、ただその執念で身体を動かしていた。
気配を押し殺し、カノンに対してここまでの接近を許したのだ。
「ッチ――」
数刻遅れて、カノンがホルスターに手を掛けようとした、その時。
乾いた銃声が、路地に響き渡る。
遅れて漂う硝煙の臭い。
カノンの銃のモノではない。
「……っ」
オスカーの手には、拳銃が握られていた。
今まで一度も、ヒトに向けて引き金を引かれる事の無かった拳銃が。
「がっ、なっ……姉、御……?」
放たれた弾丸は、二人の間に割って入ったソエリの胴体を貫通し、モロの胸に届いていた。
そう、ソエリもまた、瀕死の状態で彼女の前に這いずり飛び出していたのだ。
「バカだねェモロ、アンタ……黙ってりゃ……死なずに済んだ、のに……さ……ハハッ……」
「姉……」
再び、肉がアスファルトに打ち付けられる湿った音が響いた。
ソエリも、モロも、湿った地面に倒れ伏し、もう二度と立ち上がる事はなかった。
「すまない、助けられてしまったな」
「……はい」
オスカーは自分が思っていたよりも、いたく冷静だった。
銃を握る手も震えていない。むしろ試射を行った時よりも安定して、ブレることなくしっかりとグリップを握りしめていた。
冷静にシリンダーを出し、空になった薬莢を排出する。
想像よりも冷めている自分の感情に、オスカー自身が驚いていた。
初めてヒトを、それも二人も殺したというのに。
そうするしかない、銃を握り絞める選択をした自分の感覚に、疑いはなかった。
なかったのだ。
「――ちょっと待った。その銃、少し見せてくれないか?」
鼻を効かせるような仕草をしたカノンの発した言葉に、オスカーはハッと意識が引き戻される。
「は、はい。えっと、どうぞ」
弾丸を全て抜きとり、カノンへ回転式拳銃を弾と共に手渡した。
彼女はしばらく、真剣かつ興味深そうに、銃の仕掛けや薬莢の構造を見ている。
「威力はここで普及しているモノよりは発達していないが、シンプルな作動方式と……この発砲後の独特な臭いは……」
「……」
オスカーとアビスは顔を見合わせ、職人の様子を見守る。
それから目の色が少し変わったように、彼女はオスカーへ再び向き直った。
「お前達、名前は?」
「ボクはオスカーです。彼女はアビス」
「さっき言った」
「オスカー、アビス、事情が変わった。お前達には私の工房に来てもらわなきゃいけない。私からも聞きたい事が出来てしまった」
丁寧にオスカーへ銃を渡すと、彼女は二人へ手を差し出した。
握り返してみるとその手は冷たく、人工的な皮膚の下に機械的な硬さを感じさせる。彼女もまた、ソエリと同じようなサイボーグなのだろう。
少なくとも見た目はオスカーに近い種族だったが、こうした技術がここではありふれたモノなのだと彼に直感的に理解させる。
「その、銃に何か?」
「それは後で話す。他の連中や『ガルム』に絡まれるのも厄介だ。立てるか?オスカー」
「え、えぇ。でもアビスが……」
「体、不完全。立てない、わたし……」
アビスの様子に、カノンがきょとんとする。
「?なんだ、イデアは浮けるだろう?それに宿主の体に戻ればいいじゃないか」
その言葉に今度はアビスがきょとんとしながら、首をひとひねり。
そして思い出したように、浮遊した。
「浮けた」
「浮けたの!?」
「なるほどな……これはいろいろと教える必要がありそうだ。とにかく今はオスカーの中に入っておけ。大通りに出るからな」
するりと、混界でそうしたようにアビスの体がオスカーへと憑依するように一体化した。
しかしオスカーの頭の中で声が響く。
『これじゃあ周りが見れない』
「周りが見れないのが不満らしいです」
「感覚器官を宿主の肉体に作り出してみろ。衣類やアクセサリーでも出来るはずだ」
「あー、マフラーでやった時みたいな感じかな?」
『感覚器……眼……』
じわりと、オスカーの額に熱が集まるような感覚が燻る。
その時、ぎょろりと三つの目玉がバンダナの上で見開いた。
アビスは自らの力で、オスカーが額に巻いていたバンダナを変質させ、そこに眼球を作り出したのだ。
『見える。すごい』
「宿主の中に居た方がアビスも消耗しないだろう。周りへ不用意に姿を晒す心配もないからな」
なんだか嬉しそうに眼をぱちくりさせながら、アビスは辺りを見回した。
元居た世界では明らかに奇妙な光景だろうが、恐らくこの世界においてはそうでもないのだろうと、オスカーは何となく察した。
投げ捨ててしまっていた相棒の形見であるハンドルを拾い直し、準備が出来た事を示すように彼は頷く。
「さて、では行こうか」
カノンはオスカーをエスコートするように、大通りへ向かって前を歩いた。
裏路地の暗闇に、ネオンの輝きと喧騒が少しずつ流れ込む。
騒音と光に圧倒される二人へ、カノンは語り掛けた。
「ようこそ、『メトロ』へ」




