魔法使いになるには?
半分が潰れた宿の部屋に3人は帰ってきた
チャーリーは初めての戦闘と坑道での採掘作業にグロッキー状態
自分のベッドまで行くと、バタンと倒れ込み
そのまま動かなくなってしまった
「…死ぬ…疲れた…」
「…言ってお前は別に戦ってねぇだろ」
1層の敵はレベル60を越えているセシルには
蚊のような存在であり
クレールもコールタールの対処はお手の物
第1層はチャーリーを除いたこのパーティーには余りにも簡単過ぎた
「鉄…石炭…銅」
デリックは今日手に入れた鉱石の質を精査しているようで
鑑定用のルーペでそれらを眺めていた
「…で、どうする?やるか?」
ベッドにうつ伏せになって動かないチャーリーにセシルは声を掛けた
「え…何を…?」
「…後衛用の初級本読むんじゃねぇのか?」
あー、とチャーリーは思い出したのか
怠そうな声をあげて仰向けに転がった
「それ今日じゃなきゃダメか?」
「…お前がそれでいいなら良いんじゃね」
因みに今日だけで、チャーリーのレベルは1つ上がって、レベルは5になっている
じゃあ、1冊だけといい
ゆっくり身体を起こした彼女はベッドの淵に座り、渡された本の中から適当に1冊セシルに渡した
ー初級魔術書ー
この本には魔法とは?という抜根的な部分から始まり
魔素や魔力にについてや
法律での扱いや、マナー
魔力を扱う際のコツ、そして初級魔術の術式や呪文、魔法陣等が書かれていた
基本的に難しい言葉が多く
セシルも読みながら語尾に?がつく始末
そんな彼の音読を聞くチャーリーも、頭に?を浮かせて聞いている感じだ
鉱石の精査を終えたデリックがそんな2人を見て何ともいえない顔をした
「いや、魔法使いはなしだろ
それは専門家に教えてもらう以外で学ぶなら
よっぽど才能がなきゃ無理だと思うぞ」
一般的に魔法使いとは、魔術師に弟子入りする事で習得する者が多い
一般人が魔法をほいほい使えないのはそういう事である
「じゃ、これって無駄なのか?」
「無駄とまでは言わない
俺だって形は違うが魔術の類は扱う
ただ、真っ当に魔法使い目指すなら
学が無いあんたみたいな奴は
専門家の教えを請わないと難しいって事だ
…初級の内容は聞いた感じ
知識としてあっても困らなさそうではあるがな」
セシルとチャーリーは顔を見合わせる
「…取り敢えず、やってみりゃよくねぇか」
部屋を出た2人は本を持って
宿のある横穴から出て、大きなたて穴の壁面にある通路まで来た
そこから空中に向かって魔法を放ってみようということらしい
「…初級魔法といえば、この火球だな」
魔法には属性がある
使用者は属性事に親和性が違い、得意な魔法と苦手な魔法が個体ごとに違ってくる
世界一有名な賢者バイロンは氷属性を得意とし、逆に火を扱うのを苦手としていた
この様に、大抵は対極にある属性が苦手となるものである
そもそもチャーリーは魔法を使うということ自体が初めて
そういう意味でも、ありふれた火の魔素を動かすファイアボールは見極めに使いやすい
セシルは魔術書に書かれた呪文を音読する
チャーリーはそれに続いて文言を真似た
これだとセシルも魔法を使う事になるのでは?
となるが、魔法とはただ呪文を読めばいいという訳でもない
イメージがかなり大切なのである
チャーリーは詠唱しながら
腹の底の自分の魔力を意識しながら
自分の指先から火が出るのをイメージした
それは簡単に思えて案外難しく
セシルの言葉を追いながらなので一層困難を極めた
「…サムン…ヒューズ……ファイアボール!」
チャーリーは勢いよく人差し指を突き出し叫んだ
イメージの中ではバレーボール大の火球が
指から空中に解き放たれる!
しかし、実際に彼女の指から放たれたのは
5㎜にも満たない小さな火の粉が
指先から数センチ飛んで爆ぜただけだった
「…」
「…まあ、何かしら出ただけでも良いんじゃねぇの」
セシルは慰めているつもりだが
チャーリーはそれが気に入らなかった
「もう一回!もう一回読んでくれよ!」
「…面倒くせぇな」
結局、ファイアボール(?)を放てたのは最初の一回きり
その後はどれだけ詠唱しても何も指から出なかった
しょんぼりして帰ってきた彼女を見て
デリックは普通に魔力切れだろと思ったが
チャーリーはこの件で魔法使いへのルートを諦めたのだった
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「おはよう!旦那方!
さあ今日は4層にチャレンジしてみましょうか
それで調子よく行けば明日は6層に案内しますよ!!」
宿屋の主人、クレールは早朝から元気だ
チャーリーは昨日の疲れがまだ取れておらず
眠たそうに目を擦っている
「ぼうず!調子悪いなら部屋に居た方が身のためだぞ!」
「確かにな、あんたが残っても誰も困らない」
デリックにも宿に残る事を勧められたが
彼女は首を縦には振らなかった
「4層はコールタールも相変わらず出るが
ゴブリン、ナイトゲッコーが主な敵だ
ナイトゲッコーはとにかく素早い、距離を一瞬で詰めてくるから後衛も気を抜けねぇ
ゴブリンは知恵が働くから、罠にも注意が必要だ」
「速いのは厄介だな、攻撃が当てにくい」
「…全部俺が刻んでやる」
セシルのレベル的にナイトゲッコーの素早いはそれ程でもない
大丈夫だろと言う彼を信用していない訳ではないが、デリックは銃のアタッチメントを連射に素早く組み替えた
「…お前はとにかく、俺の後ろに隠れて
死なないことに神経を使え」
チャーリーへの指示はこれだけ
敵のレベルが20前後なので彼女に出来ることはないのである
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「いやぁ、旦那余裕だなぁ!
やっぱり本職は違うってこったな!!」
4層の探索も危なげなく終えた
宿屋へ向かいながらクレールは楽しそうだ
「…そりゃお前、俺のレベル的にあんな雑魚に手こずってたらやべぇだろ」
「そうだよな!ははは!」
チャーリーはというと、昨日よりもずっと疲れたのだろう
ふらふらとした足取りでやっと歩いているという感じであった
「大丈夫か?」
「…大丈夫だし…俺は海の男だぞ…」
あんたは女だろ、なんてツッコミを心の中で入れつつデリックはチャーリーの後ろをのんびりと歩く
4層の探索でチャーリーは一気にレベルが10に上がっていたが
その分、心身ともに消耗したようで
虚勢を張ってはいるがもう限界まで追い込まれている感じだ
当たり前だが、逃げる事に専念していたので
育ったスキルは回避に関するものばかり
この日は疲れ過ぎてセシルに本を読んでもらうのを諦め
チャーリーは泥のように眠ったのだ




