自由の人
夜明けと共に目を覚ましたデリックは、身だしなみを整えて甲板に出た
まだ薄暗い中で軽く船の点検を行うと
船と桟橋に板を掛ける場所に擦ったような痕跡を見つけた
更に桟橋に焦げた跡があり、デリックは何が起こったかを察した
「治安もクソだな…」
どうやら夜間にデリックの船に乗り込み悪さをしようとした者がいたらしい
しかし、この船には対魔物、海賊用の防衛用の術式が書き込まれており
それによって撃退されていたようだった
落とし戸に削ったような傷があるのでこれが防衛反応が機能する決め手になったのだろうなとデリックは溜め息を吐いた
そんな風に一通りの点検が済んだところでセシルも甲板に出てきた
「…ん、煙草吸っていいか?」
「外でなら好きなだけ吸えよ」
日が昇り切る前にデリックは舫を外しアンカーを引き上げ船を発進させた
朝の潮風を浴びて一服済ませたセシルが、操舵室に入ってくる
「…そういえば、この船は何で動いてるんだ?
食品であんだけ高いだろ、燃料はどうするんだ?」
「魔力だ」
初めはデリックもよく扱っている蒸気駆動式で考えていたのだが
アントジズスがそれよりも低コストでエンジンもコンパクトに出来ると提案してきたのが魔力駆動だった
「俺にはよく分からない術式ってやつを書き込んで、自然に溢れてる魔素を取り込んで動くらしい」
なので基本的に燃料の心配はしなくて良いらしいのだが
魔素が少ない場所では動けなくなると言われていた
「…魔素の少ない場所なんてあるのか?」
「さあな、そんな目に見えないもの
確かめようが無いだろう
まあ仮に魔素が無くても、魔結石があれば動かせるらしいから安心していい」
タンパールから出港して数時間
特にやることのないセシルは暫く操舵室でデリックの側にいたが
そこに居るのも飽きたらしく船の甲板に出た
右も左も全て海、何処までも何も無い世界にセシルは深くため息を吐き
そして甲板に置いあるコンテナに視線を移し近付いた
「…いつまでそこに隠れてるつもりだ?」
セシルがコンテナに問うが反応は返らない
バリバリ後頭部を掻いた彼は一呼吸置いてからコンテナに掛けられていた防水シートを取り去った
それと同時にぎゃつ!と悲鳴が上がり子供が飛び出す
「あっ、おい!待てって!!」
子供はセシルから逃げるように甲板を走り回り、最終的に操舵室へ飛び込んだ
「うぉわあああ!!?」
「わぁああああ!!!」
海上にデリックと子供の叫び声が上がった
・
・
・
デリックによって捕まった子供は縄で後ろ手に縛られていた
「何だこいつは!何処にいた!!」
まだ若干混乱しているデリックのいる操舵室にセシルが戻って来る
「…大丈夫か?」
「ーオイ!タンパールに戻るぞ!
ガキが侵入してた!」
泣きそうな顔をしてセシルを見ている子供は、昨日の夜に彼をならず者から救ってくれたあの子供だった
「…まあ、待てよ
話くらい聞いてやってもいいだろ?」
身体を抱くように腕組みをしたデリックは子供の方を見て嫌そうな顔をしたが
聞くだけだぞと椅子に座った
何で乗り込んだのかと聞かれ、ブルブルと震えながら
ぽつりぽつりと子供は自身の生い立ちを話し始めた…
「俺は…チャーリー」
チャーリーと名乗った、焦茶色の短い髪にハンチング帽を被った子供は
自分には家族がいないのだと言った
「この前のニゲラと地震で両親も兄弟も親戚も…全員死んだ」
1人生き残ったチャーリーだが
世界中に降りかかった未曾有の大災害に、誰も手を差し伸べてくれる者はおらず
それどころか、大人達はまだ子供であるチャーリーからも凡ゆる物を奪おうとした
「俺、特技があって魚を釣るのが得意なんだ…!
勝手に乗り込んだのは謝るよ!
でもほらお兄さん達、食べ物買えなくて困ってたんだろ!?
俺絶対に役に立つからさ…!
だから…だから…お願い、俺も連れてって!
あんな場所に居たらいつか殺される!」
目に涙を溜めて懇願するチャーリー
デリックはふーっと長い溜め息を吐き、考えるように少しの間天井を見上げた後
チャーリーに問い掛けた
「これまでにもタンパールに来た船は居たはずだ
どうして俺達の船に乗ろうと思った」
「あなた達が、悪い人では無さそうだったから…」
デリックは眉間に深い皺を寄せこめかみを抑え、暫く目を瞑っていたかと思えば
急に立ち上がりセシルに外に出るように言い操舵室を出る
セシルが彼の後を追い外に出ると、デリックは船の欄干に背中を預けて待っていた
「あいついつから居た?」
「…夜中だろうな、朝にはもう匂いがあった」
「やっぱりな!気付いてたんだな!?
気付いてたならどうして出港前に言わない!?
俺ら一歩間違えば誘拐犯だぞ!」
「…司法や行政がまともに機能してりゃあな
少なくともあの港町じゃ悪人じゃない奴は生きていけない」
ここでセシルは昨日の夜にあった事をデリックに話す
「…あのガキが悪さをする為にこの船に乗り込んだんなら
それなりの対処はするつもりだったが
そうじゃないならいいんじゃないか?」
昨晩助けられたとはいえ、チャーリーを擁護するセシルをデリックが不審な目で見る
なので、セシルも肩入れする理由を話した
「…俺も孤児だ…俺は戦争孤児だが…
両親はグラウンドベアに
その後俺を育ててくれた叔父もファングに殺された…
子供が生きて行くには、大人の力は必要だ…それが赤の他人でも」
「あー…それは…気の毒だったな」
デリックはもう何も言えなくなってしまった
少しの沈黙の後、後頭部をぽりぽり掻いた彼は
分かったよ…と小さくいうと
チャーリーがこの船に留まる事を許可した
操舵室に戻ると、床を見つめていたチャーリーが2人を見上げ
緊張した面持ちで身を固くした
デリックはそんなチャーリーに近付き、渋い顔をしたままその拘束を解いてやる
「ここに居てもいいが、ルールは守れよ」
一瞬何を言われたか分からないと
惚けたような顔をしたチャーリーだが
デリックの言葉を理解すると笑顔になり子供らしく喜んだ
「…ホント!?本当の本当に居ていいんだ!?
やった…!ありがとう!!」
「勘違いするなよ、俺はあんたのこと信じた訳じゃない
変な動きがあれば直ぐに船から降ろすからな」
こうして2人の旅に予期せぬ
同伴者が加わったのだった




