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深層部の魔狼

ヘリッシュパインを目指して崖をゆるゆると降りるクリーパー達

その足が一歩、また一歩と前に進む度に光が遠のいていく

「…なぁ、これ本当に大丈夫?」

まるで地獄に向かっているようなそんな感覚と焦燥感を覚えたチャーリーは不安そうな声を上げた

「安心していい、魔族領までは続いていない」

「マーゲイの穴の方がずっと深いぞ

言ってもここは谷だしな」

他の2人は何ともなさそうな顔をしている


完全に真っ暗になるよりも少し前に

括り付けていたライトの明かりをつけた

これはマーゲイのトアイフォースでミスリルを探していた時に手に入れたグロウジェムを使って作った物だ

この宝石は衝撃を与え続ける事で眩い光を発するため

クリーパーの動きに合わせ、衝撃を加え続ける構造の機械仕掛けの箱の中で

辺りを明るく照らし続けてくれる


完全に地上の明かりが届かなくなった頃

暗闇の中を光る羽虫が浮遊し始めた

見たことのない種類の虫は、少し不気味で神秘的であり

子供であるチャーリーの心をくすぐる

「…あっ!わっ!」

ガクン!と今まで前のめりだった姿勢が急に正常な座位に戻り

思わず声を上げてしまった

つまるところヘリッシュパインの底に辿り着いたということである


ここに居る生き物は皆どこか淡く発光していて、どれもこれも初めて見る物だった

「逃げないな」

生き物達は特にデリック達を恐れる様子もなく無関心に辺りを漂い通り過ぎて行く

「そもそも降りてくる人間なんて滅多にいないだろうから

何とも思われていないのだと思う」

ロケはそういい纏わり付いてきた光るコバエを手で払い除けた


ヘリッシュパインの地面は剥き出しの土に覆われ、巨大な針葉樹の根元には淡く光るキノコが生えている

そして、その光が届く場所には僅かだが草が生えていた

虫達はこうした僅かに生えた柔らかい草の葉や、若いキノコ、落ち葉等を食べているようだ

「…さあ、辿り着いた訳だが

ここでどう尋ね人を捜す?」

この場所は箱状谷と呼ばれる形状の地形で

広さは東西に約2㎞、北南に5kmとそれなりの広さがある

「痕跡を探そう、人が滅多に入らない場所なら直ぐに分かるはずだ」

先ずは降りた場所にベースキャンプを張った



巨大な針葉樹の幹に、デリックがナイフで傷を付けた

そんな跡がもう13個目になる

「なーなー、ぶどう虫捕まえに行っていい?」

ヘリッシュパインでの探索を初めて13日目

子供というのは順応が早いもので、チャーリーはすっかりこの環境に慣れてしまった

丸い玉を数珠繋ぎにした様な、全長30㎝ほどの羽虫をぶどう虫などと呼び

彼女はそれを捕まえて食べるのが好きになっていた

「5本目までだぞ」

「分かってるって」

針葉樹の5本目よりは先に行かない事を約束すると、彼女はさっさと虫取りに出掛けた


そして、デリックとロケも支度を済ませるとセシルの捜索を始める

実は割と早い段階で人の居た痕跡は発見済みであり

後はその痕跡を残した人物を見つけるだけなのだが、それがどうにも上手く行っていなかった


ヘリッシュパインを探索して分かった事は

ここの生態系の殆どが虫と植物で構成されていること

魔物も崖の上には確かに高レベルなものが彷徨いているが

谷底にはスライム程度しか居らず比較的安全である事

そして、そんな場所で度々

上で見かけた高レベルの魔物が切り刻まれ食い荒らされた状態で、真新しい死体として見つかっていた

そして何よりも、セシルの吸っていた銘柄の煙草の吸殻を見つけていた


「これだけ捜して見つからないとなると

もう移動した可能性はないか?」

ロケは後ろを歩くデリックに問う

「いや…まだここに居るはずだ」

3人がこの谷に降りた事を、セシルは早い段階で気付いている節がある

彼が住処にしていたと思われる場所があったのだが、そこに居た事を隠そうと工作したのが見て取れたからだ

そうでなかったとしても、セシルの鼻は犬並みに効き、聴覚も人間より優れ

暗闇でも見える目を持っている

気付かない筈がない

それなのに彼は、昨日また殺したての食べかけの魔物の死体を谷底に放置して行った


セシルはデリック達に気づいていながら

彼らに見つからないように動き

この場所から離れようとはしていない

「まるで揶揄われてる気分だな」

ロケは迷わないように針葉樹に付けたポイントを確認しながら言った

(揶揄われてる…)

本当は出て来たいが、自分から出て行った手前

姿を現すのが恥ずかしいのだろうか?

それとも自分を試しているのだろうか?

或いは…


ヘリッシュパインの闇の中を

耳をつんざくような絶叫が上がった

「ー!」

ロケはその悲鳴の元へ飛ぶように走り出した

デリックもその後を追うが、彼の足の速さについて行けず

段々と2人の距離は離れて行く

「ーあ゛あっ!クソッ!!」

見失ってしまうギリギリの所で、やっとロケは走るのを止め

武器を抜いて何かと対峙していた


やっと追い付いたデリックが見たのは

腰を抜かして地面で震えるチャーリーと

彼女の視線の先で、細い糸状のものに絡め取られ身動きが取れなくなったセシルであった

ロケはセシルに武器を向け今にも斬りかかってしまいそうだ

「待て!待ってくれ!

ソイツだ!俺が捜してる奴は!!」

「何!?」

見た目は確かに人間だが、セシルは目を爛々と光らせ

鋭く尖った犬歯を見せ付けるよう牙を剥き唸っていた

「それに間違ってなければ、ソイツは自力でそのワイヤーを切れない筈だ」

そのワイヤーはアダマント製であり

魔女の捕縛に使用しようと思って拵えた物だった

まさかセシルを捕まえるための罠として使う事になるとは

これを作った時のデリック自身思いもしなかったのだが…


「仲間なのに何故…」

震えるチャーリーを見てロケは訳がわからないと言った顔で武器を下ろす

チャーリーの怯え方、デリックが仕掛けた罠への嵌り方から察するに

このセシルが、捜している人間的な彼ではない事は確かだろう

「…チッ…最悪な再会だ…」

一番あって欲しくなかった最悪の可能性が現実になったことに

デリックは表情を曇らせた

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