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港町ニュルビニー

岩礁地帯を無事に渡り、アライバル大陸の国ミレットの港町ニュルビニーに到着した


アライバルには、スノームースに分布する樹木の2倍はあるかと思うような巨大な木がひしめき合う

一見未開拓の地に見える場所だが

全くそんなことはなく、大木の足元には当たり前のように街がある

その街のギルドを目指し進むデリックと

その後ろを置いて行かれないように必死に着いていくチャーリーの姿があった


足早に辿り着いたギルドで、脇目も振らずにカウンターのギルドマスターまで進んだデリックは

ここのギルドのマスター、アルヒッパに声を掛けた

「職探しならギルド登録証を見せて

無いなら、発行手続きはそっち」

「人を捜している

年齢は30代、青みがかった黒髪のハイフロリアの男は来てないか」

「…知らないな」



それは2日前の事

寝ている所をセシルに襲われた翌朝

セシルは船の上から忽然と姿を消した

見渡す限り青い海が広がる孤立した世界から、一体どうして彼は消えてしまったのか

考えられる可能性は2つ

真夜中に魔物に食い殺されたか

或いは自ら海に飛び込んだか…

生身の人間ならどちらも死を意味するが

彼が姿を消した位置から、5キロもいけば岩礁地帯に到達するところまで来ていたため

アライバルへ自力で到着する事も考えられなくは無いとデリックは考えた


いや、そうであって欲しいとデリックは思っていた


「なあ、さっきの人は何て言ってたんだ?

兄ちゃん見つかりそうか?」

ついて来ていたチャーリーが小走りで、デリックの隣に並走しそんな事を聞く

それもその筈、マーゲイではスノームースで使われている言葉が通じたが

アライバルでは全く違う言語が使われている

チャーリーにはアルヒッパの言っていたことは理解できていなかった

「ああ、そうだった」

デリックはポケットからイヤーカフスを一つ取り出してチャーリーに渡した

「言語を翻訳する魔道具だ

“聞こえる”だけで話せる訳じゃないが」

「すげーそんな便利な物もあるんだ」

そういうデリックはカフスを付けてはいないようで

それについて彼女が言及する

「まあ、困らないように何種類かの公用語は修得済みだからな」

デリックはイカついのは見た目だけで

実はかなり要領が良く頭がいい

「それで、兄ちゃんは…」

「知らない、だとさ」

「…セシルの兄ちゃんは強いからきっと大丈夫だって」

チャーリーは気遣いの言葉を掛けるが

彼はあぁ…と気の無い返事を返すだけだった


船に戻ってきたデリックは、心配するチャーリーを他所に自室に入って鍵を掛けた

部屋の隅の一層黒い暗がりが一瞬、あの日のセシルに見えて息を呑む

あの日、あの時、どうしていればセシルは居なくならずに済んだのだろう


どうするのが正解だったのか…


「…クソッ!」

デリックは右横の壁を殴りつけ唇を噛んだ

悔しさにギュッと瞑った瞼の裏には

昔、自分を見上げ名前を呼んでくる親友の姿が浮かび

またしても守れなかったと

そんな後悔で頭が痛くなった

「…いや、まだ死んだとは限らない」

セシルが船を自らの意思で降りたのなら

デリックを避けて行動する筈である

真っ先に辿り着く港町のギルドになど、寄るわけがないとして

頭に浮かぶ最悪な想像を拭う


(あいつの立場にたて…!

考えろ…あいつならどうする…?)


血液の小瓶は後一つ

一月よりも早く訪れた魔物化

親しい者を襲うことを恐れるセシル…

「…ニュクテリスに帰ろうとするか…?」

マルクスの元でなら彼は人間で居られるのだ

しかし、帰るためには船で

スノームースのあるスペリアラ大陸まで戻らなければならないが

セシルの通行証は船に残されたままだった

これがないと先ずどんな船にも乗せてもらえない


デリックはニュルビニーで手に入れた

アライバルの地図を机に広げた

その中からセシルの行きそうな場所を探す

「…ここだ」

帰れないなら、人を襲わずに済むには

人の来ない場所に行くしかない

デリックが目星を付けたのは

人里離れた険しい自然に囲まれた秘境

“ヘリッシュパイン”であった


翌朝、チャーリーを伴って再びギルドに訪れた彼はギルド長アルヒッパに声を掛けた

「ヘリッシュパインに行きたい」

その言葉にアルヒッパは眉を顰めた

「推奨レベルは40前後

ただし、そこに至るまでの道は険しく

辿り着くのも困難だ

そんなルーキーを連れて行くような場所じゃない、分かるか?」

ルーキーとはチャーリーの事を言っているのだろう

「あんたにそのルーキーを守り切る力量があるのか?」

デリックの今のレベルは48

冒険者にしては高い方だが、これはセシルにキャリーされた分もある

レベルは高めでも遠距離後方支援型のデリックとルーキーのチャーリー2人でヘリッシュパインに挑むのは自殺行為だとアルヒッパは静かに言った

「そんな事は分かってる

だからギルドに来たんだろうが

前衛を1人紹介して欲しい」

「1人だけ?ガイドは」

「要らない」

出来るなら外部の者は1人も入れたくはない

それはセシルの状態を考えれば当然の事だ

しかし、デリック1人でヘリッシュパインに挑むのは慎重派の彼にはあり得ない話である

入れる部外者は少ない方がいい

それなら、戦力にならないガイドより

前衛職を1人入れた方がより安全と考えた


アルヒッパはそんなデリックの目を数秒じっと見つめた後

はぁーと長い溜息を吐き、頬を掻いた

「前衛1人な」

カウンターの下に整理された書類から

“前衛”で“レベル50”以上を取り出し机に並べた

「今すぐにって事だと、そこの机に居るあの男だけだが

明日ならこのリストから選んだ人間を呼んでやれる」

チャーリーは机に並んだ屈強な前衛職達の書類を眺める

胸から上の写真が付いているが、誰も彼もそれだけでも強者と分かる風貌に

はぇーと変な溜息が溢れる


ギルドの登録書類には

名前、人種、性別、ジョブ

本人の簡単な自己アピール

得意な仕事(今まで受けたクエストの傾向)

そして仕事の評価(ギルドや雇った者達からの評価)が載っている


前衛職は職業柄、血気盛んな者で

あまり物事を深く考えない者が多い

その中でロケ・レセンデスという男に目を止めた

人種はハイフロリア、52レベルのガーディアン

特にアピールの文言はなく

彼の主な仕事は護衛

そして仕事の評価は総合すれば高評価であった


アルヒッパはデリックに渡された登録書を見る

「…日当り180コロル出せるか?

長期契約なら月額270コロルだ」

コロルはアライバルの国ミレットの通貨である

180コロルとはスノームースの通貨にすると162エルクになる

「出せる」

「不満そうだな」

デリックの表情にアルヒッパは顔を顰め

値引き交渉はしないと冷ややかに言う

「違う、安くないか?いいのかそれで…」

スノームースでレベル50を越える冒険者を1人雇おうと思うと

相場は1日350エルクからである

「ならそいつの能力に見合うと思った分をチップで渡してやればいい」

ロケ!とアルヒッパが声を上げると

店の隅のテーブルで1人で座って居た男が立ち上がり

彼はデリック達の元へ歩いてきた

「ご指名だ」


軽装では無いが重装でも無い

ボサボサの髪で目を隠し、無精髭を生やした生活能力の低そうな男が

デリックとチャーリーを見て静かに頭を下げた


「ロケ・レセンデス…宜しく」

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