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金の婚約者──『愛の泉』に降臨した女神様が、「あなたの婚約者は、この金髪のキラキラ貴公子?」「それともこの銀髪の超絶イケメン貴公子?」とか聞いてきます──

掲載日:2025/09/02

 社交シーズンも終わりに近い、6月の王宮の舞踏会。

 伯爵令嬢クララは、婚約者であるファビアンに誘われて、夜の庭に降りた。

 同じく伯爵家の跡取りであるファビアンと婚約したのは、十一歳の時。

 領が隣同士で、幼い頃からちょいちょい顔をあわせ、一緒に遊ぶことも多かった。

 それなりに仲も良かったので、親同士がちょうどいいと判断して婚約したのだ。


 しかし、成人を機に、十六歳で王都に出てくるとファビアンの様子が変わってきた。

 黒髪のファビアンは、顔が良く、背もすらりと高い。

 社交界に出るようになると、ファビアンは結構モテた。


 一方、クララは「そこそこ可愛い」レベル。

 黙って立っていても、次々とダンスを申し込まれるようなタイプではない。


 次第に、ファビアンは、自分がいかにモテているか、クララに見せびらかすようなことをちょいちょいし始めた。

 周囲も、クララはファビアンにふさわしくないと圧をかけてくる。

 侯爵令嬢のイザベラが、「ただの幼馴染なのに、こんなに素敵な方と婚約できるだなんて、あなたってなんて運がいいのかしら」と嫌味たっぷりに言ってきたこともあった。


 そのくせ、ファビアンはクララと二人きりになると、やたら真顔でくっつこうとしてくる。

 モテてはいるが、ファビアンは小心。

 他の女性に手を出したら、家族に死ぬほど叱られるのはわかっているから、出せない。

 だが、王都の貴公子は、女性と()()()()()()()()を自慢したがるから、クララで間に合わせようとしているのに違いない。


 というわけで、ファビアンが庭を散歩しようと言い出した時に、厭な予感はしたのだが──


 案の定、愛の女神ヴェヌーシアの彫像が飾られている噴水、通称「愛の泉」の前で、ファビアンは足を止めた。

 月明かりに照らされた噴水は、文句なしにロマンチック。

 周りは、花壇と丈の高い生け垣に囲まれ、人の目もそれほど気にならない。


「クララ……」


 ファビアンは、謎に色っぽい声を出して、距離を詰めてきた。

 クララは、反射的に半歩下がる。


「クララ。僕達は婚約しているんだ」


「……それがなにか?」


 甘さのかけらもない、すんっとした声で返すと、クララはまた半歩下がった。

 後ろはもう、噴水の縁だ。


「だから……」


「……ッ……!」


 すっと、ファビアンの手がクララの頬に伸びて来た瞬間、クララは本能でその腕を取った。

 素早く背を向けながら身を沈め、ファビアンの身体を背中の上に担ぎ、腰でぽーんと跳ね上げる。


「どっせい!!」


 見事、一本背負いが決まった。


 社交界に出る前、チャラい貴公子に絡まれた時の用心に、クララはひそかに護身術を習った。

 教師は、クララに体術の天分があると絶賛し、普通は教えない大技まで教えてくれたのだ。


 ちなみに、令嬢の筋力を舐めてはいけない。

 令嬢たる者、十数キロのドレスを着てカーテシーができなければならないが、実は片足立ちのスクワットをゆーっくりしているようなもの。

 大腿四頭筋にハムストリングス、臀筋、内転筋外転筋、ついでに体幹も鍛えていなければ、綺麗なカーテシーをキメることはできない。


「ウグワーッ!」


 雑魚雑魚しい悲鳴を上げながら、ファビアンは噴水の中に投げ飛ばされた。


 バシャーン!


 大きな水音と共に、水しぶきが夜空にキラキラと散る。


「あぁあぁぁあ! やっちゃった!!

 ファビアン! 大丈夫!?」


 まさかこんなに綺麗に決まると思っていなかったクララは、真っ青になった。


「……大丈夫だけどさああああ!

 クララ! これはちょっと……酷すぎないか!?」


 噴水は、膝くらいの深さ。

 ずぶ濡れのファビアンは、身を起こしてこっちをジト目で睨んでいる。

 どうやら、頭を打ったりしていないようで、クララはほっとした。


「あらあらあらあら」


 不意に、噴水の奥から女性の声がした。

 え? と、そちらを見た二人は軽くのけぞった。


 等身大の女神ヴェヌーシアの彫像があったところに、彫像とそっくりの、一枚布をまとった女性が優美に立っている。


 直視するのが畏れ多いほど、美しい顔立ち。

 豊かな胸と腰、そして完璧なラインを描くくびれ。

 濃い金色の巻き毛は長く、膝下近くまで豪奢に流れ落ちている。


 白く抜けるような肌も、黄金の文様で縁取られた白布も、長い長いまつげの先まで、かすかに光を放っていた。


 ヴェヌーシアだ。

 女神ヴェヌーシアが降臨したのだ。


「ま、ままままさか! ほ、ほほほ本物の女神様!?」


 クララは、たまげながらも敷石の上にひれ伏した。

 ファビアンも、噴水の中でびゃっと跪き、とにかく頭を下げる。


「ふふ。びっくりした?」


 いたずらっぽく笑うと、ヴェヌーシアは台座から長い脚を伸ばして軽く跳び、跪いたファビアンの背を優雅に踏みつけた。

 ぐえ、と声を漏らしながら、思わず四つん這いになったファビアンを足場代わりに、女神は右側を指す。


「……あなたが泉に落とした婚約者は、この者かしら」


「え?」


 いつの間にか、噴水の水面の上に、金髪の美しい貴公子が立っていた。

 髪の色は違うが、ファビアンにそっくりだ。

 だが、本物より美しい。

 どこがどう違うのか巧く言えないほど似ているが、まるで太陽神アロンのような美丈夫になっている。


「愛しいクララ。僕が婚約者だと言ってくれ。

 僕は君を、生涯の唯一として愛しぬく」


 うっとりするような響きのある声で、金髪のファビアンは告げてきた。


「いいいいいいいえッ ち、違いますッ!」


 クララは叫んだ。

 本物のファビアンでも手に余るのに、いくらなんでも美しすぎる。


「……違うのね、残念。

 では、この者かしら」


 女神は左を指した。


 今度のファビアンは、銀髪だ。

 これも本物とよく似ているが、まるで月の神ルヴァクのような怜悧な美しさ。


「クララ。僕の運命は君だ。

 さあ、僕こそが婚約者だと言ってくれ」


 銀髪のファビアンは、せつなげに囁く。


 クララは、迷った。


 銀髪のファビアンは、クララの好みにピンズド。

 今、クララが推している若手俳優そっくりだ。

 美しすぎるのは金髪と同じだが、この顔を日夜眺め、愛を囁いてもらえるとか──

 想像しただけで頭が沸騰しそうで、クララはくらくらした。


「……ちなみに、あなたがどちらを選んでも、他の人は本物との違いに気づくことはないわ。

 あなたが選んだ者が『ファビアン』となり、生涯、あなたに添い遂げてくれるの」


 女神は、クララにそっと言い足した。

 と、いうことは──


「も、もし、この方が婚約者だと答えたら

 ……本物のファビアンは、どうなるのですか?」


 クララは震える声で問うた。


「そうね……黒髪の子は、仔犬かなにかに姿を変えて、わたくしの眷属にしようかしら。

 しばらく修行させれば、そのうち馬鹿なことはしなくなるでしょう」


「し、しばらくって」


「二、三百年? 五、六百年?

 さすがに千年はかからないと思うけれど」


 なんでもないことのように、女神は答える。


「ちょおおおおおお! なんでだ!!

 僕が何をしたッ!」


 女神の足場代わりにされたままのファビアンが悲鳴を上げた。


「あら。わかっていないのね。

 あなたたち、教えてあげなさい」


 呆れたように女神が促すと、金髪のファビアンがクララの方に踏み出して、手を差し伸べてきた。


「愛しいクララ。僕は無理やりキスを迫るような野蛮なことはしない。

 君の心こそ、僕が生涯をかけて守りたい宝なのだから」


 銀髪のファビアンも、手を差し伸べてくる。


「クララ。僕は、他の令嬢と親しくしている姿を君に見せつけるような愚かな真似はしない。

 君以外の女性は、僕にとっては塵芥ちりあくたも同然なのだから」


 金と銀のファビアンは、それぞれ甘く優しくクララを誘う。


「令嬢達にチヤホヤされて、『やれやれだぜ』顔もしない」


「ちらっと振り返って『僕と婚約できて、鼻が高いだろう』面もしないな」


「あー、無理無理無理ッ

 言うほど顔がいいわけじゃないだろっていうか、どんなに顔が良くても痛すぎるだろそれ」


「てか、いくら上位貴族だからって、クララに嫌味を言うクソ女を放置してるとかありえねー」


 だんだん、金と銀のファビアンは雑になって来た。


「そ、そんなことしてないいいいッ……はずだッ!」


 本物のファビアンは叫んだが、女神は黙ってろと言わんばかりに、その頭を踏んづけた。

 ぶくぶく泡を吐きながらファビアンは暴れるが、相手は女神。

 抵抗は無駄だ。


 クララは、考えた。


 確かに、ファビアンはちょいちょいそんなことをして来た。

 正直、めちゃくちゃ不愉快だった。

 このまま結婚すれば、ずっと不愉快な思いをし続けるのかと、気持ちが真っ暗になってしまったことだってあった。

 今、金か銀のファビアンを選べば、そんな目に遭わずに済む。


 だが、彼らを選んだら、本物のファビアンは、この世から消えてしまうのか──


「……女神様。そちらの銀髪の貴公子も、わたくしの婚約者ではありません」


 断腸の思いで、クララは女神に告げた。


「あら」


 女神は、トンとファビアンの背を蹴って、台座の上に戻った。

 指をパチンと鳴らすと、金のファビアンも銀のファビアンも消えてしまう。


「クララ! 信じてた!

 なんだかんだで、クララは僕に惚れてるもんな!!」


 本物のファビアンは、ようやく起き上がって叫ぶ。

 クララは、かあっと頬に血が上るのを感じた。


「なにを言っているの!? そんなんじゃないわよ!」


「へ!?」


「あなたがさっきの超絶イケメン貴公子のどっちかと入れ替わって、しかも誰にもわからないなんて、あなたの家族が可哀想じゃない!

 大切な家族が偽者にすり替わってるのに、それに気づくこともできないだなんて、あんまりだわ!

 あなたを可愛がっているお祖母様のために、わたくしは銀髪の貴公子を諦めたのよ!

 めっちゃ好みだったのに! ちょう好みだったのに!

 感謝してよ!」


 ファビアンは、大きくよろめいた。

 ショックを受けた様子で、またまた噴水の中に崩れ落ちる。


「どうせ、あなたがわたくしの立場だったら、即、金髪のクララを選んだでしょうけれどね!」


 クララは、両手を腰に当て、うなだれているファビアンを冷たい目で見下ろした。

 ファビアンは驚いて顔を上げ、ぶるぶるっと頭を横に振る。


「そ、そんなことするわけないじゃないか!」


「するに決まっているわ!

 他の方にはお世辞を言うのに、わたくしには……

 かわいいとか、そういうこと、一度も言ったことないじゃないの!」


「言ったことはあるさ!

 勇気を振り絞って言ったのに、君は僕の頭をはたいて、『ばっかじゃないの』って、大笑いして……

 僕は大泣きして、母上に叱られたんだ」


 恨みがましげに、ファビアンはクララを睨んできた。


「え。それいつ?」


 まったく記憶にないクララは、首を傾げた。


「七歳の冬至祭り」


 クララは全力で記憶を探ったが、心当たりはなかった。


「……ごめんなさい。覚えてないわ」


「ひどい……そんなことだろうと思ってたけど、やっぱりひどい……」


 ファビアンは、むせび泣いた。

 女神は、ジト目でクララを見る。


「……あなた、わりと暴力ヒロインタイプなのね」


「そ、そんなはずは……」


 令嬢らしく、クララはやんわり否定したが、よく考えたら、ついさっき一本背負いをキメたばかり。

 クララは、さすがに視線を泳がせた。


「で。黒髪のあなた。

 あなた的には、暴力ヒロイン、どうなのよ?」


 女神は、ファビアンに振った。


「……なんだかんだで、普通に好き、です。

 めっちゃかわいいし、見てて飽きないし……

 さっき、僕を選んでくれた時は、本当に嬉しかった。

 祖母のためだったと聞いて、がっくりしましたけど」


 ぼそぼそとファビアンは言って、ちらっとクララを見てきた。

 クララは、ぷいと顔をそむける。


「子どもの頃は、仲が良かったんです。

 けど、社交界に出るようになってから、変な感じにこじれてきて。

 親が言うから婚約してるだけだよねって、感じを出してくることもあるし。

 イラッとすることもあって……つい、その」


 ファビアンは、ようやく膝立ちになると、クララに頭を下げた。


「クララ。ごめん。

 僕は、君に厭なことをした。

 もう、あんなことはしない。

 それに……その、焦って変なことをしたり、しない」


 変なこと、の方は、キスのことかと思いつつ、クララは首を傾げた。


「焦って、って?」


「君は、いつだって僕のことを、ただの幼馴染扱いしてくるじゃないか。

 俳優のなんとかが格好いいって、友達としょっちゅう劇場に行ってるし。

 僕のことを、ちゃんと見てほしいと……思って……」


「……だったら、そう言えばいいじゃない……」


 今更、そんなことを言われても、とクララは思う。


 だが、ずぶ濡れのまま、じんわり赤くなっているファビアンを見ているうちに、クララは子どもの頃のことを思い出した。


 実のところ、大喧嘩したことは何度もあった。

 ファビアンは、あれこれ気を回して物事をひねくりがちだし、クララは力技で押し通しがち。

 でも、ファビアンは、自分が間違っていたと悟ったら、いつだって素直に謝ってくれた。

 だからこそ、真逆の性格なのに、ずっと仲良くできていたのだ。


 あの頃、自分はファビアンのことが好きだった。

 ファビアンも、自分を好いてくれていた。

 はっきり口にしたことはないし、行き違いすれ違いもたくさんあったけれど、その気持はお互い通じていた。


 なのに、令嬢たちにちやほやされて、ファビアンはすっかり変わってしまった──と思っていたけれど、本当はそうではなかったのかもしれない。


「愛の女神、ヴェヌーシア様」


 ファビアンは、女神の方に向き直った。


「一生、愛を知らない人もいるのに、僕は子どもの頃にクララに出会って、好きになりました。

 愛する家族や、友人もいます。

 僕は、とても愛に恵まれている。

 なのに、自分の気持ちを、ぞんざいにしていました。

 女神様。本当に申し訳ありません」


 ファビアンは、ヴェヌーシアに深々と頭を下げた。


「わかってくれたのなら、よいわ」


 女神は鷹揚に頷き、クララの方に視線を移した。

 今度は、クララの番だ。


「わ、わたくしは、その……」


 クララは、もじもじっとした。

 なにをどう言ったらいいのか、まるで見当がつかない。


「……さっき、ファビアンのお祖母様のために、銀髪の君を選ばなかったと申しましたが」


「「が?」」


 女神とファビアンの声がそろった


「よく考えたら、その……2ミリくらいは、本物のファビアンがいなくなったら厭だな……と思った、気がします」


 かああっと赤くなった顔を、クララは両手で覆った。


「2ミリくらい!? そこは8ミリくらいはって言ってよ!」


「え。8ミリでいいの!?」


 クララは、思わず聞き返した。


「8ミリなら、ほぼ1センチじゃないか!

 1センチあれば、指をかけてこじ開けるとかなんとかできる!」


「ええええええええ!? なによそれ!?」


 アホな言い合いを始めた二人に、女神は呆れ顔。

 女神が軽く指を振ると、ファビアンは宙に浮き、あわあわしているうちに、クララの前にひょいと降ろされた。

 濡れ鼠のファビアンに、クララが駆け寄る。


「ま。なにはともあれ、二人仲良くね!」


 びゃっと片手を上げると、女神ヴェヌーシアは光の奔流となって、天に消えていった。


 あとには、物言わぬ彫像と、おずおずと抱き合う恋人達が残された──






 ──そして場面は、光の奔流が消えていった、天のどこか。


「やーれやれ。なんとかなって良かったけれど。

 で。次の予定は?」


 雲の上に寝そべり、蜂蜜酒ミードの杯を傾けながら、女神ヴェヌーシアは肩のあたりでとぐろを巻いている銀色の蛇に聞いた。

 銀色の蛇はするすると女神の身体を伝い降り、金色の小鳥が足元にあった台本を開く。


「半年後、真冬の王宮の舞踏会です。

 クララとファビアンは、なんだかんだで熱愛カップルとして知られるようになり、令嬢たちの間で『愛の泉』の出来事がひそかに噂になっています」


「あらやだ。誰か見てたのかしら」


「どうなんでしょう。

 令嬢の一人、侯爵令嬢イザベラは、自分の婚約者エルンストを、『愛の泉』を使って、より顔のいい貴公子に取り替えることを思いつきます。

 エルンストは辺境伯の跡取りなんですが、もっさりした暗緑色の髪でいつも眼を隠している陰気な青年。

 名家の嗣子なのに、領に沼地が多いことから『沼の貴公子』と呼ばれておりまして。

 美形にちやほやされるのが好きなイザベラは、なぜエルンストと結婚しなければならないのかと、以前から不満たらたらだったと」


「あー、そのあたりでクララが気に入らなくて、嫌味をかましてきたのかしら」


「かもしれません。

 というわけで、エルンストが婚約者の務めとして訪問してきても、イザベラは逃げ、やむを得ず妹のソフィが話し相手をしている始末。

 このソフィ、頭の良い優しい令嬢なのですが、イザベラは地味だ陰気だと嫌味をしょっちゅう言って虐めてるんですよ」


「なるほど。男女問わず、外見で上下をつける系侯爵令嬢なのね。

 ところで、イザベラって、ザマァされる係なの?」


 金色の小鳥が、急にえへんえへんと咳払いをした。

 銀色の蛇は、聞かなかったことにして続きを読む。


「……イザベラは、エルンストを無理やり庭に連れ出し、『愛の泉』へ連れて行きます。

 そして、わざと耳飾りを噴水に投げて、エルンストに拾うよう命じ、噴水の縁でためらっているエルンストを突き落とす」


「ええええ、真冬に!?

 最悪、心臓やられるやつじゃないの!」


「そうですね。かなり危険な行為です。

 そこに、愛の女神ヴェヌーシア、つまりあなた様が現れ、クララの時と同じように金髪のエルンストを示します」


 自分の出番!とばかりに、金色の小鳥がきぱっと胸を張った。


「イザベラは、すぐさま金髪のエルンストこそが自分の婚約者だと叫び、我々は、思うてたんと違うぞコレ?となります。

 銀髪のエルンスト、つまり私も出て、金髪のエルンストと共に本物のエルンストを助けるのですが、イザベラは、本物のエルンストなど、わざわざ助ける価値なんてないのにと嘲笑あざわらう始末で」


「あらあらあらあら……

 そんなに張り切って、フラグを立てなくても」


「フラグは、クララをディスった時点で思いっきり立ってますからね……

 あなた様は、本物のエルンストを突き落とされる前の状態に戻し、イザベラに『愛を知らず、愛を知ろうともしないのね。その本性にふさわしい姿に変えてあげましょう』と告げる」


 女神は、気に入らぬげに片眉を上げた。


「そのセリフ……いまいちパンチがないわね」


「たしかに……考えておきます」


 銀の蛇は頷くと、紅色の舌先を器用に操って「要推敲」と書き入れた。


「……とにかく、あなた様は、イザベラを一輪の真紅の薔薇に変えてしまいます。

 美しいが、鋭いトゲを持ち、人を寄せ付けない花、ということでしょうか。

 女神の力を目の当たりにして恐懼するエルンストを、我々が巧い具合に眠らせて、撤収します。

 やがて、意識を取り戻したエルンストの手には、真紅の薔薇の花。

 なんでこんなものを持っているんだろうと不思議に思っていると、侯爵家の長女であるソフィが、エルンストを探しにやってくると」


「え。ソフィはイザベラの妹だったんじゃないの!?

 あああ、ちょっと待って。言わないで」


 女神は、説明しようとする銀の蛇を止めて、眉を寄せた。


「……もしかして、イザベラがこの世界から消えてしまったから、繰り上がりで長女になった、ということ?」


「正解です!」


 金色の小鳥が、高らかにさえずりながら、おめでとうとばかりに飛び回る。


「イザベラが削除された世界で、姉に邪魔されることなく植物学の研究に励んでいた彼女は、王宮の大温室でエルンストと知り合い、いわゆる両片思い状態に突入します。

 内気同士ですのでなかなか関係は進展せず、この日も、二人は頑張ってワルツを踊ったものの、エルンストは緊張で真っ赤。

 仕切り直すつもりで、どうもここは暑すぎると言って外に出たきり、戻ってこないので、ソフィが心配して探しに来る、という建付けで。

 エルンストは、ああそうだった、今日こそソフィに薔薇の花を捧げ、求婚するつもりだったのだと思い出し、そのとおりにして……めでたしめでたし、という段取りで」


「なるほどね……

 『金の斧』の寓話の後半をなぞれるし、ちょっとダーク味があるのが、前半と対比になっていいかもしれない。

 上手くいくと良いけれど」


 女神は、軽くため息をついた。


「ま、今日はハピエンを一つ仕上げたから、しばらくゆっくりしましょう。

 あなたたち、忘れずに半年後に起こしてね」


 ゆったりと女神は笑うと、甘い酒杯を干し、雲になかば埋もれるようにして眠り落ちた。


最後までご覧いただき、ありがとうございました!

ついアホな作品を書いてしまいましたが、ご感想や★、いいねなどなど、お心のままに賜われると、ついつい舞い上がって、またアホな作品を投稿してしまいますので、よしなに……(平伏)

普段は異世界恋愛ミステリを投稿しております。下のリンクからご覧いただけますと、またまた舞い上がり(略)


なお、「どっせい!」は黒星★チーコ先生の「美貌の宰相様が探し求める女性は元気いっぱいの野太い声の持ち主らしい……それ私かもしれない」(https://ncode.syosetu.com/n8798iq/)リスペクト、「ウグワーッ!」はあけちともあき先生の「推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~」(https://ncode.syosetu.com/n5888gy/)リスペクトです!

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― 新着の感想 ―
金髪と銀髪のイケメンの時点で、心の中のムキムキ達が。どちらも本物ですと叫んでいました笑 鳥さんと蛇さんでしたね。いやはや女神様って大変なんですね。と思ってしまいました。 ヒロインが本物を残して良かっ…
やだ、やなやつぅ、金ファビ銀ファビ選べば良かったのにぃ、と思いきやお2人ともちょっとこじらせていただけですのね。 甘じょっぱい..もとい甘酸っぱいワカモノの懐かしムカシガタリ程度になったようで何よりで…
贅沢な二段構え、面白かったです。 それにしても...台本があるのかw 金と銀のファビアンが雑になったのはアドリブかなw 有能な眷属たちに喝采を♪
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