第九十三話「ジュピターカップ祝賀会」
レースから数時間後。
木星軌道上にある白雷ジム専用ラウンジは、暖かな光に包まれていた。
「ノンちゃん、優勝おめでとうや!」
ミオが乾杯用のグラスを掲げ、笑顔を見せる。
普段は厳しい村瀬でさえ、珍しく頬を緩めていた。
「ようやったな、フリアノン。去年の雪辱を果たしたな」
「……ありがとうございます……村瀬さん……ミオさん……」
フリアノンは頭を下げながらも、どこか上の空だった。
今もまだ、あのゴール前の光景が脳裏に焼き付いている。
――わたしは……本当に勝てたんだろうか……。
「どないしたん? ノンちゃん」
ミオが不安そうに覗き込む。
フリアノンは、ゆっくりと顔を上げて笑顔を作った。
「なんでも……ありません……」
「ほんまかいな? あんた今日は主役なんやで? もっと胸張ってもええんやで!」
ミオが勢いよくフリアノンの背を叩いた。
その拍子に、フリアノンの身体が小さく揺れる。
「ひゃっ……」
周囲から笑い声が漏れる。
そんな様子を、クロエが冷めた目で見つめていた。
「……あんた、また勝ったのね」
「クロエさん……」
「ふん。別に悔しくなんか……あるわけ……ないじゃない……」
クロエはぷいと顔を背けたが、その耳は赤く染まっていた。
ヴェルナーが苦笑しながらクロエの頭を撫でる。
「素直じゃないな、クロエ。お前も今日はよくやった」
「……ヴェルナーさん……」
一方、会場の端ではアスティオンが一人静かにグラスを傾けていた。
隣にはユリウスが立っている。
「悔しいかい?」
「いいや……あれが今のわたしの実力だ」
「でも、君はまだ強くなれるよ。僕が保証する」
ユリウスが優しく笑うと、アスティオンも僅かに口元を緩めた。
「頼りにしている」
そして、祝賀会は進んでいった。
料理が運ばれ、シャンパンが注がれ、スタッフやナビゲーターたちの笑い声が響く。
フリアノンはその中心にいながらも、どこか浮世離れした気持ちで天井を見上げていた。
(……わたしは……まだ走れる……もっと……もっと……)
その瞳には、次なる戦場の光が映っていた。
「ノンちゃん、次は秋の皇帝杯(秋)やな!」
ミオがグラスを掲げ、力強く言った。
「……はい……!」
「その前に、しっかり食べて飲んで休みや! 身体作るのも仕事やからな!」
ミオに促され、フリアノンは手を伸ばし、目の前の料理を取った。
ジムメンバーに囲まれながら、静かに口に運ぶ。
(大丈夫……わたしは……)
その胸には、小さくも確かな決意が灯っていた。
(もっと……もっと……強くなれる……)
歓声と笑顔に包まれながらも、フリアノンの瞳は次のゴールを見据えていた。




