表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイドライブ  作者: 碗古田わん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/117

第九十二話「ジュピターカップ本戦」

木星圏ジュピターカップ当日。

夜明け前から白雷ジムは慌ただしかった。

メカニックたちが機体を最終チェックし、スタッフたちが忙しく走り回る。


「ノンちゃん、準備できとるか?」


ミオの声に、フリアノンはゆっくりと顔を上げた。

わたしの瞳には、恐れはない。


「はい……大丈夫です、ミオさん」


「よっしゃ。その顔見たら安心するわ。今日はええレースにしよな!」


そしていよいよ出走ゲートへ。

スタート位置には、いつもの顔ぶれが揃っていた。


「フリアノン! 今日は譲らんぞ!」


ガルディアスが大声で吠える。

その横でシグマが無言でタブレットを操作している。


「ガルディアス、出力配分は頭で考えるんじゃない。身体で覚えてるはずだ。無駄に足掻くな」


「お、おう!」


さらにクロエが冷たい視線を向けてくる。


「アンタには絶対に負けないから」


「……クロエさん……」


そして、中団にはアスティオン。

彼は静かに目を閉じ、ユリウスの声に耳を傾けていた。


「アスティオン、今日はどうする?」


「無論、勝つために走る。それだけだ」


ユリウスは口元に柔らかな笑みを浮かべた。


「いいね。そのために僕がいるんだ。スタート後は中団。最終コーナーまで脚を溜めろ」


「了解した」


最後に視線を前に戻すと、ミオが静かに呟いた。


「ノンちゃん、最初は最後尾でええ。ラスト千メートルから一気に行くで」


「……はい……!」


スタートゲートが開いた。


レースは序盤からガルディアスが飛ばした。

得意の逃げ戦法。シグマが冷静に指示を飛ばす。


「ガルディアス、ペース維持。加速はまだだ」


「わかっとるわッ!」


その背中をクロエがマークする。

ヴェルナーの声が静かに響いた。


「焦るなクロエ。この位置でいい。相手がバテたら、そこで仕留める」


「はい……!」


そして、中団でアスティオンが風を切る。


「ユリウス、まだか?」


「まだだアスティオン。慌てるな。ペースは理想的だ」


「了解……」


そして、最後尾に位置するフリアノン。

風の抵抗も受けず、ただ静かに呼吸を整えていた。


(今はまだ……今はまだ……)


ミオの声がイヤーピース越しに届く。


「ノンちゃん、落ち着き。大丈夫や。あとはいつも通りやで」


(……はい……!)


レースは最終コーナーへ。


ガルディアスが苦悶の声を上げる。


「シグマァ! もう足がッ……!」


「限界なら限界なりに走れ。無理に踏み込むな。怪我するぞ」


その隙に、クロエが外から抜け出す。


「今です、クロエ!」


「はいッ!」


ガルディアスを交わし、クロエがトップに立つ。

だが、その横をさらに鋭い加速で駆け抜ける機影があった。


「アスティオンッ!」


「ユリウス、今か?」


「行け、アスティオン!」


中団から溜めていた推進力を一気に解放し、アスティオンがトップへ。


「……ここから……!」


最後尾から白い閃光が舞い上がる。

フリアノンだった。


「ノンちゃん、いけぇッ!」


「……はいッ!」


全身を念動力で押し出すように、フリアノンは風を裂いて走る。

前を行くアスティオンが視界に入る。


(アスティオンさん……越える……!)


だが、アスティオンも負けていない。


「ユリウスッ……!」


「あと五十メートル! 耐えろ、アスティオン!」


残りわずかの距離で、二機は並んだ。


「ノンちゃん、いけぇぇえええッ!!」


「わたしッ……絶対にッ……負けないッ!!」


ゴール板が迫る。


アスティオンとフリアノンが並び――

その一瞬、フリアノンの身体が光に包まれたように見えた。


ゴールを駆け抜けた直後、会場が静寂に包まれる。


(わたし……勝てた……?)


直後、アナウンスが鳴り響いた。


『優勝は――フリアノン! フリアノンです!』


観客席から歓声が上がる。

イヤーピース越しに、泣き笑いの声が聞こえてきた。


「ノンちゃん……よくやった……! 最高やで……!」


フリアノンの瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。


(……わたし……わたし……!)


ジュピターカップ優勝。

それは、去年果たせなかった夢の結実。


そして――


(まだ……わたしは走れる……!)


白雷ジムの純白のサイドールが、静かに涙を流しながら笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ