表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイドライブ  作者: 碗古田わん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/117

第九十話「揺れる心」

ジュピターカップまで、残り三週間。


白雷ジムのトレーニングルームには、いつも以上に張り詰めた空気が漂っていた。

ランニングマシン型トレーナーの上で、フリアノンは必死にトレーニングに取り組んでいた。


「もう少しペース上げて! スパート区間や!」


ミオの鋭い声が飛ぶ。

フリアノンは顔をしかめ、必死に負荷を上げた。


(もっと……もっと速く……!)


滝のように流れる汗。全身を締め付けるような疲労感。それでも彼女は脚を止めなかった。


「はい、ストップ!」


村瀬が止めの合図を出し、トレーナーが緩やかに減速する。

停止すると同時に、フリアノンはその場に崩れ落ちた。


「ハァ……ハァ……!」


肩で息をし、荒く上下する胸。

だがミオの表情は厳しかった。


「ノンちゃん、今日も後半バテとったな。このままじゃ本番、またゴール前で止まってまうで」


「……ごめ、んなさい……」


涙が滲む。

だが謝っても状況は変わらない。

村瀬も腕を組み、低い声で言った。


「スタミナ配分は改善してる。だが、まだ詰めが甘い。ジュピターカップは去年の皇帝杯以上のハイペースになる可能性が高いんだ。今のままじゃ、ラストスパートどころか、最後尾のまま終わるぞ」


「そんな……!」


フリアノンの瞳に恐怖が宿る。

(わたし……勝てない……?)


負ける。

その言葉が胸をえぐった。

今まで積み重ねてきたものが、一瞬で崩れていくような感覚。


(わたし……何のために……)


その時、ふいに頭をよぎったのは、去年のジュピターカップで倒れた自分の姿だった。

脳が悲鳴をあげ、視界が真っ白になり、気づけば病院のベッドの上だった。


(もし……またああなったら……)


震える手。

止まらない鼓動。

怖い。走るのが、怖い。


「ノンちゃん」


俯く彼女に、ミオがそっと手を置く。


「無理して頑張らんでええんやで?」


「でも……」


「無理して壊れるより、できることを積み重ねる方が大事や。わかっとるやろ?」


フリアノンは唇を噛んだ。

わかっている。わかっているのに――。


「……でも、わたし……勝ちたい……!」


その声は震えていた。

だけど、その目には確かな光が宿っていた。


「わたし……負けるのはもう嫌なの……!」


ミオはにっこり笑った。


「そやろ? なら、その気持ちを大事にしぃや。大丈夫や、ノンちゃんは強い。うちが知っとるんやから間違いない」


「……うん……!」


立ち上がり、汗をぬぐったフリアノン。

彼女の足取りはまだ重かったが、その瞳には確かな決意が宿っていた。


(わたし……絶対に……勝つ……!)


そう心に誓い、再びトレーナーに乗り込むフリアノン。

彼女の長い戦いは、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ