第八十七話 皇帝杯(春)二連覇祝賀会
皇帝杯(春)二連覇という偉業を達成したフリアノンを祝うため、白雷ジムはもちろん、スポンサー企業や関係者たちを招いた盛大な祝賀会が開かれた。
会場は地球圏の高層ホテルに設けられた特設ホール。シャンデリアが煌めき、テーブルには色とりどりのオードブルやデザートが並べられている。
白雷ジムの所属サイドールたちも正装をして駆けつけ、華やかな雰囲気に包まれていた。
だが、その中心にいるフリアノンは落ち着かない面持ちで立っていた。
タキシード型のフォーマルスーツを着せられ、髪も整えられているが、いつものレース前よりも緊張しているように見える。
「ノンちゃん、しっかりせんと。今日はレースちゃうで? 主役やで?」
と、隣でミオがにこにこと笑いかける。
ミオはいつもの作業着ではなく、黒のスーツに白シャツというシンプルながらも引き締まった装いで、周囲の関係者たちと挨拶を交わしていた。
「わ、わかってますけど……こんなに人が多いと……」
フリアノンは頬を赤くして、周囲の視線に戸惑っていた。
今日だけで何十人もの人に声をかけられ、握手や記念撮影を求められた。
もともと注目されるのは苦手だ。だが、ジムの仲間たちは誇らしげにフリアノンを囲んでいた。
「おいフリアノン!」
遠くから、ラディウスが爽やかな笑顔で駆け寄ってくる。
ライトグレーのスーツを着こなし、女性関係者たちから黄色い声援を浴びていた。
「二連覇、おめでとうな!」
「ラディウスさん……ありがとうございます……」
「いやー、お前ほんとすごいよな! 俺なんかまだまだやわ!」
豪快に笑うラディウスの横から、別の影が近づいてきた。
「……二連覇か。さすがだな」
冷静な声。振り返ると、ガルディアスが腕を組んでこちらを見ていた。
普段通りの短髪に黒いスーツというスタイルだが、ネクタイだけは赤にしているあたりが彼らしい。
「ガルディアスさん……」
「だが調子に乗るなよ。俺も中距離から長距離なら負けるつもりはない。ジュピターカップあたりじゃ当たるかもしれないからな」
「……はい……」
その横で、ラディウスが「おいおい祝賀会で張り合うなよー」と笑っている。
ガルディアスはふんと鼻を鳴らし、再び腕を組み直した。
そこへ、静かに近づいてきた人物がいた。
「……おめでとう、フリアノン」
「……クロエさん」
クロエだった。
真紅のドレスを身にまとい、艶やかに髪をまとめあげている。
その姿に思わず見惚れた周囲がざわめく。
「二連覇……立派なものね。わたしも負けてられないわ」
「……ありがとうございます……クロエさんなら、すぐにでも取れますよ……」
「ふふ……そう言ってくれるのね。でも――」
クロエは微笑んだ。
「わたしは次こそ勝つわ」
その瞳には、確かな闘志が宿っていた。
「おーっと、さすがクロエさんやな」
ミオが間に入って空気を和ませる。
「そろそろ乾杯やで。ほら、ノンちゃんもこっち来い」
促され、フリアノンは会場中央の壇上へと進む。
既に司会者がマイクを手に待機していた。
「それでは――」
ライトがフリアノンに向けられる。
眩しくて、フリアノンは一瞬目を細めた。
「皆様、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます。白雷ジム所属、皇帝杯(春)二連覇を成し遂げました、フリアノン選手です!」
大きな拍手と歓声が会場を包んだ。
耳が熱くなる。
声を掛けられるたび、胸がざわざわする。
(……わたし……本当に……二連覇、したんだ……)
実感が、ようやくこの瞬間に降りてきた。
怖かった。負けるのが。
でも――
(……わたし……ここまで来られたんだ……)
壇上から見渡す景色は、いつも見ているレースのコースよりも遠く感じた。
けれど、あの時みたいに震えることはなかった。
「それでは、フリアノン選手から一言、お願いします!」
マイクを差し出される。
ごくりと唾を飲み込み、フリアノンは息を整えた。
「……みなさん……ありがとうございます。これからも……わたし……もっと強くなれるように、頑張ります」
短い言葉だった。
だが、その声には力があった。
再び、割れんばかりの拍手。
その中で、ミオが嬉しそうに目を細めていた。
(……わたし……まだまだ……ここから……)
ライトが降り注ぐ中、フリアノンは静かに拳を握りしめた。
祝賀会は、まだ始まったばかりだった。




