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サイドライブ  作者: 碗古田わん


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第八十二話 イオカップ本戦

イオ競技場を埋め尽くす観客の声援が、真冬の冷たい空気を震わせていた。

長距離戦の名門レース、イオカップ。スタートゲートには、各陣営の看板サイドールたちが並んでいた。


(落ち着け……落ち着け……)


フリアノンはゲートの中で深呼吸した。右隣にはクロエ、そして前方にはラディウス、その向こうにはガルディアスの姿が見える。

そして中団よりやや前目に、アスティオンが構えていた。


「ノンちゃん、いけるで! ここまできたんや、あとはいつも通りや!」


ゴーグル越しにモニターを覗くミオの声が、通信を通して届く。

「はい……がんばります、ミオさん……」


「第十二レース、イオカップ。各馬ゲートイン完了!」


緊張感が一気に高まる。そして――


『スタート!』


各サイドールが一斉にスタートを切った。

先頭を取ったのは予想通り、ガルディアス。


「いくぞおおおお!! 今日は抑えろ言われとるけど、抑えてやるからなあああ!!」


「落ち着け、ガルディアス。無駄にペース上げるな。今日はペース配分を学ぶレースだと言っただろう」


背後から、ナビゲーターのシグマの冷静な声が飛ぶ。

「わかっとるわい……でも抑えるってのもストレスたまるなあ……」


いつものハイペース逃げではない。それを最後尾に位置するフリアノンも感じ取っていた。


(今日は……あんまりペースが速くない……追い込みには厳しいかも……)


「ユリウス、どうする?」


中団に位置するアスティオンが問いかける。


「……このままだとガルディアスを捕まえる前にゴールが来る。次のカーブでポジション上げろ」


「了解。最内を通る」


淡々と答えるアスティオンに、ユリウスは小さく笑う。


「頼もしいな、アスティオン」


先頭のガルディアスは、やや抑えたペースを保ちながらも、その走りには圧倒的な存在感があった。

二番手、三番手にはラディウスとクロエが続く。


「クロエ! 無理して突っ込むなよ。今回はフリアノンをマークするんだ」


ヴェルナーの声が落ち着いて響く。


「わかってるわ。後ろにいるのはわかってるから……」


クロエの瞳には、最後尾を走るフリアノンの姿が映っていた。


(絶対に負けない……あの子には……)


最後尾のフリアノンは、通信越しにミオの声を聞いていた。


「ノンちゃん、そろそろ仕掛けるタイミングや。いつもの加速準備入れとき!」


「はい……!」


フリアノンは念動力制御システムを微調整する。脚ではなく、全身を包む推進波動の加減を変えることで、負担を減らしながら加速力を上げる。


(負けない……負けたくない……!)


最後のカーブで、アスティオンが動いた。


「ユリウス、仕掛ける」


「行け、アスティオン!」


最内をするりと抜けるアスティオン。その加速にクロエが気付く。


「くっ……アスティオン……!」


そして最終コーナーを回り切ったところで、ガルディアスが本気を見せた。


「シグマァァァ!! 抑えてた分、ここで出すぞおおおお!!」


「出せ。全開でいけ、ガルディアス」


シグマの許可を得た瞬間、ガルディアスの念動波動が爆発する。

ラディウスが必死に追う。


「玲那! オレもいくぞ!」


「行きなさいラディウス! 前に集中して!」


だが、ラディウスの念動推進はガルディアスに比べて僅かに劣った。


そして中団から抜け出してきたアスティオンがラディウスを抜き去る。


「アスティオン、いいぞ!」


「まだ届かない……!」


アスティオンの冷静な声には焦りが滲んでいた。


その更に後方から、クロエとフリアノンが追い込んでくる。


「ノンちゃん、全開や! これが最後やと思って出し切るんや!」


「はい……っ!!」


フリアノンは念動波動を最大に開放する。地面との距離感が消え、身体が空を飛ぶような感覚になる。クロエも負けじと加速した。


「クロエ、フリアノンを抜け!」


「わかってるわ!!」


残り100メートル。先頭はガルディアス、その背後に迫るアスティオン。クロエとフリアノンは並びかける。


(負けない……負けない……!)


フリアノンがクロエをわずかに交わした瞬間――


「ゴール!!」


ガルディアスが一着でゴール板を駆け抜けた。その直後にアスティオン、そして三位にはフリアノンが入った。


『イオカップを制したのはガルディアス! 二位アスティオン、三位フリアノン、四位クロエ、五位ラディウス!!』


レース後、ゴールエリアに戻ったフリアノンは肩で息をしていた。

勝てなかった悔しさよりも、走り切った達成感があった。


「ノンちゃん、ようやったな。ほんま、よう追い込んだで」


ミオの声に、フリアノンは小さく微笑んだ。


「ありがとうございます……でも、やっぱり……勝ちたかったです」


その呟きに、ミオはただ優しく頷いた。


「次、勝てばええんや。まだまだこれからやで」


冬の空の下、フリアノンは冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

この悔しさを力に変えて、彼女はまた前を向く。

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