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サイドライブ  作者: 碗古田わん


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第七十話「敗北の夜、揺れる想い」

レース後、重苦しい空気がアースグランプリ会場の一角を支配していた。

ファンや関係者は勝者リュミエルを称える中、それぞれの控室には敗れた者たちの影が落ちていた。



フリアノンは薄暗い控室で、一人ベッドに腰掛けていた。

シャワーで汗を流したはずなのに、全身の火照りと疲労が抜けない。


(……勝てなかった……また……)


指先が震える。

あのゴール前、手を伸ばしても届かない距離。

最後に交わしたリュミエルの微笑みが脳裏から離れなかった。


「ノンちゃん……」


ミオがそっとタオルを肩にかける。

フリアノンは伏し目がちに、小さく呟いた。


「……わたし……何のために走ってるんでしょう……」


「何ゆうてんの。あんたは……いや、ノンちゃんは、スレイの夢を継いで走ってるんやろ?」


「……そうですけど……」


涙が滲む。

勝ちたい。だけど怖い。

走るたびに限界を思い知る。

自分なんかが、と思う心と、それでも負けたくないという感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、胸を焼いた。


「……もう、嫌です……」


弱音を吐くフリアノンに、ミオは優しく頭を撫でた。


「泣いてええ。でもな、諦めたらそこで終わりやで。」



一方、クロエはヴェルナーと二人、無言で帰り支度をしていた。

荷物をまとめながら、クロエは震える指先を見つめた。


(また負けた……あの子に……)


悔しかった。

自分はもっと強いと思っていた。

去年のクイーンズカップ覇者として、女子最強の誇りがあった。

でも現実は二戦続けてフリアノンに敗北。

プライドが音を立てて崩れていくのを感じた。


「……私……」


「クロエ。」


ヴェルナーの低く優しい声が静寂を破る。


「あなたは、まだ完成されていない。それは恥ではありません。むしろ、無限の可能性があるということです。」


「……可能性……」


「敗北は糧になります。私はそれを、数えきれないほどのナビゲートで見てきました。あなたも例外ではありません。」


クロエは涙を堪え、拳を握りしめた。


「……わかっています……負けない……絶対に……」



ラディウスはトレーナーからアイシングを受けながら、軽く笑っていた。


「くっそー、負けちゃったかぁ。」


「お前、全然悔しそうじゃないな。」


ナビゲーターの九条玲那が呆れたように言うと、ラディウスは首を傾げた。


「いや、悔しいけどさ。でもさ、まだ走れるから。それだけで楽しいよ。」


玲那はため息をつきながらも、少しだけ笑った。


「ほんと、あんたは楽天家ね。でも、次は勝たせるわよ。」


「おー、頼りにしてるよ、玲那さん!」



そして、ガルディアスは氷水に浸かりながら、険しい顔をしていた。


「クソッ……またかよ……!」


「悔しいのか?」


シグマが冷静に問いかける。

ガルディアスは顔を上げ、ぎらつく瞳で睨みつけた。


「当たり前だろ……勝つために走ってんだ……!」


「なら、無駄な前半のペース配分を修正しろ。それができれば、お前はもっと強くなる。」


「うるせぇ……わかってんだよ……」


拳を握り締めるガルディアスの横顔は、いつになく悔しさと怒りに歪んでいた。



最後に、リュミエル。


優勝インタビューを終えた彼は、ユリウスと共に静かな控室へ戻っていた。

トロフィーを前にしても、その表情はどこか寂しげだった。


「どうした、嬉しくないのか?」


「……嬉しいよ。でも……」


「でも?」


「フリアノンちゃんの顔見たら……なんだか……切なくて……」


ユリウスは微笑み、彼の頭を優しく撫でた。


「お前は優しいな。だが、これがレースだ。勝負の世界に情けは無用だ。」


「……うん。でも、次も勝つよ。僕は……負けたくないから。」


リュミエルは淡い光を宿した瞳で、遠くを見つめていた。

その先には、まだ誰も知らない未来が広がっているのだった。

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