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サイドライブ  作者: 碗古田わん


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第六十九話「アースグランプリ本戦」

冬晴れの地球圏トラック。年末の空気は冷たく澄み渡り、スタンドには大勢の観客が集まっていた。

ファン投票一位のフリアノン、そしてクロエ、リュミエル、ガルディアス、ラディウス……

選ばれしトップサイドールたちがゲート前に並ぶ。


「ノンちゃん、気張らんでええ。あんたはあんたの走りをするんやで」


ミオがスタート直前の通信で声をかける。

その声に、フリアノンは小さく震えながらも頷いた。


(がんばらなきゃ……みんな、見てるんだもん……!)



スタートが切られた。


「行くぞおおおおお!!」


号砲と共に飛び出したのはガルディアスだ。

その背にはシグマが冷静に指示を飛ばす。


「予定通りハイペースで行け。後続の脚を削ぐんだ。」


「任せとけってんだよ!! 俺は止まらねぇ!!」


ぐんぐんと飛ばすガルディアス。その後ろにラディウスがつける。


「無理すんなよ、ガルディアス!」


「うっせぇ!! 抜きたきゃ抜いてみろ!!」


ラディウスは呆れたように笑いながらも、後続との距離を測るように走り続ける。



中団では、リュミエルが落ち着いた表情で走っていた。


「……ユリウス、ペース早いけど……」


『大丈夫だ、リュミエル。慌てるな。お前の脚なら必ず届く。』


「……うん。」


静かに目を伏せ、淡々と脚を刻むリュミエル。その後ろ姿はどこか儚く、美しかった。



さらに後方。クロエはほぼ最後尾の位置にいた。

ヴェルナーの声がイヤホン越しに響く。


『よろしい、その位置でいい。……フリアノンを見ていなさい。』


「……あの子を?」


『ええ。あの子の加速はあなたの理想に近い。合わせるだけで、自然と脚は伸びます。』


クロエは視線を落とし、フリアノンの背中を見つめる。

その小さな背に、淡い光が揺れていた。


(……負けないわ。)



そして、最後尾。


「ノンちゃん、大丈夫か?」


「だ、大丈夫……です……」


「ほな行こか。最終コーナーで仕掛けるで。」


「……はいっ!」


フリアノンの頬に、冷たい風が痛いほど当たる。

でも、その痛みが彼女を目覚めさせていった。



レースは終盤に差し掛かる。


最終コーナー手前、ハイペースで逃げたガルディアスの脚が鈍った。


「くっ……シグマァ!! 脚が!!」


『限界だ、下がれ。』


「ふざけんな!! まだ……まだあああ!!」


叫びながらも、スピードは落ちていく。

そこを、リュミエルが一気に交わした。


「……ごめんね。」


『よし、ここからが勝負だリュミエル。ゴールまで集中しろ。』


「……うん。」



中団からはクロエが動いた。

ヴェルナーの指示が低く響く。


『行きましょう。』


「……了解。」


鋭い蹴り込みで加速を開始するクロエ。

それとほぼ同時に、最後尾のフリアノンも追い込みを仕掛けた。


「ノンちゃん、今や!!」


「はいっ!!」


体の奥から力を解放する感覚。

PK推進が唸り、フリアノンの体を風のように押し出した。



最後の直線。


リュミエルがトップで駆ける。

その背後からクロエが迫り、さらに外からフリアノンが飛んでくる。


(追いつける……!)


フリアノンの視界には、リュミエルの白銀の髪とクロエの赤い瞳があった。


「負けない……!」


クロエが横目でフリアノンを睨む。


「邪魔しないで……!」


「わたし、勝つんです……!」



ゴール板が目前に迫る。

三つ巴の争い。スタンドが総立ちになる。


「リュミエルっ!!」


『あと数メートルだ!振り切れ!!』


「うん……っ!!」


クロエの顔が歪む。


「お願い……!」


フリアノンも叫ぶ。


「わたし……わたしは……!!」


そして――


ゴール。



写真判定の結果、勝者はリュミエル。

二着にフリアノン、三着にクロエという結果が告げられた。



ゴール後、倒れこむフリアノン。

駆け寄るミオが涙声で叫ぶ。


「ノンちゃん!! ようやった!! 二位やで!!」


「ミ、ミオ……さん……わたし……」


「悔しいやろうけどな……よう頑張った!! ほんまに!!」


一方、クロエは肩を震わせていた。


「……また……」


ヴェルナーは静かに微笑む。


『この経験が、あなたをより強くします。』


クロエは唇を噛み、涙を堪えていた。



そして、勝者リュミエル。

ユリウスが優しく肩を叩く。


『お疲れ様。よくやった。』


「……ありがとう、ユリウス。」


リュミエルは静かに笑った。

その瞳にはまだ、遠い未来を見据える光があった。



こうして、令和のアースグランプリは幕を閉じた。

だが、サイドールたちの戦いは、まだ終わらない。

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