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サイドライブ  作者: 碗古田わん


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第六十七話「年末、決戦の季節」

年末――。


冷たく張りつめた空気の中で、白雷ジムの屋外走路には淡い冬の日差しが差し込んでいた。

フリアノンはその中央で、一心不乱に調整メニューをこなしていた。


念動推進ブースターの駆動感覚。

加速時の空間把握。

そして、最終コーナーからのギアチェンジ。


(……今年も、アースグランプリ……)


一年の締めくくり。

サイドールにとって、いや、全レース関係者にとって特別な意味を持つ舞台。


しかも、ファン投票で選ばれるその舞台で――


「ノンちゃん、また一位やったで!!」


休憩スペースでモニターを見ていたミオが、タブレットを片手に走ってくる。


「ほ、ほんと……?」


「ほんまやって! ほら見てみ!」


ミオが差し出した画面には、堂々たる一位に『フリアノン』の名前が刻まれていた。


「……わたし……一位……」


フリアノンは思わず座り込んだ。


ジュピターグランプリに続く快挙。

これほど多くの人が、自分を選んでくれた。


(わたし……また、みんなに期待されてるんだ……)


胸の奥が、温かくも、苦しくもなった。

嬉しいはずなのに、怖かった。


期待に応えられなかったら。

裏切ってしまったら。


そんな不安が、喜びと同じくらい膨れ上がっていく。


「ノンちゃん、大丈夫?」


ミオが心配そうに覗き込む。


「う、うん……ちょっと……びっくりして……」


フリアノンは無理やり笑顔を作った。


(でも……がんばらなきゃ……スレイ……見てて……わたし……がんばるから……)


そのとき、ジム内の談話室にいるスタッフたちの会話が耳に入ってきた。


「しかし今年はクロエも出るんだってな。」


「ええ!? あのクロエが!?」


「そうだよ。いつもはアースグランプリは辞退してたのに。」


「ヴェルナーさんがついてるからな。やっぱり今年は本気らしいぜ。」


クロエ――


フリアノンの胸が、また強く脈打つ。


(クロエさんも……出るんだ……)


クイーンズカップで死闘を演じたライバル。

あのとき感じた恐怖と、そして尊敬の念が蘇る。


(クロエさんが出るなら……わたしも……)


震える膝を抑えながら、フリアノンは立ち上がった。


窓の外では、薄曇りの空を突き抜けるように木星が微かに輝いていた。

その奥にある無限の宇宙を見つめる。


(アースグランプリ……絶対に……勝つ……!)


自分を選んでくれたファンのために。

そして、もういないスレイプニルに誓った夢のために。


フリアノンは唇を噛みしめ、小さく震える手をぎゅっと握りしめた。


「ノンちゃん?」


ミオがそっと肩に手を置く。


「……だいじょうぶ……いこう、ミオさん。次のメニュー、お願いします。」


「よっしゃ。任しとき!」


ミオの明るい笑顔に背中を押され、フリアノンは走路へと向かう。

まだ冷たい冬の風が頬を撫でたが、その胸の奥には確かな決意の炎が灯っていた。

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