第六十五話「女王決戦、クイーンズカップ本戦」
木星圏の空は抜けるように青く、クイーンズカップ本戦の朝を祝福するかのようだった。
観客席は満員御礼。
女子限定戦最高峰のこのレースに、誰もが胸を躍らせている。
「ノンちゃん、準備はええか?」
ミオがマイク越しに優しく声をかける。
「……はい、大丈夫です……!」
フリアノンは深く息を吐き、落ち着いた瞳で前を見つめた。
その視線の先には、すでに集中を高めるクロエの姿がある。
(クロエさん……絶対に勝つ……!)
スターターの旗が上がる。
静寂が張り詰めた。
そして――。
「レディ……ゴー!!」
一斉に念動力が放出され、光の軌跡が走路を照らした。
クロエは得意の先行策で、スタート直後から集団を抜け出す。
「クロエ、いい位置よ!」
ナビゲーターの九条玲那が叫ぶ。
「わかってるわ!」
クロエは冷静に空間を切り裂く。彼女の美しいフォームは周囲を魅了していた。
一方、最後尾からスタートしたフリアノンは、静かに、だが確実にスピードを上げていった。
「ノンちゃん、恐がらんと前に進むんや! 自分を信じて、空気の流れを感じるんやで!」
「……はいっ……!」
ミオの声が背中を押す。
フリアノンの瞳が鋭く輝き、青白い念動力の光がさらに強まる。
最終コーナーを回ったとき、クロエはすでに単独先頭に立っていた。
「いける……このまま……!」
玲那の声が震える。
しかし――
「ノンちゃん、今や!!」
ミオの声が響いた瞬間、
最後尾にいたフリアノンが一気に重力を置き去りにする加速を見せた。
「っ……何……!?」
玲那が絶句する。
クロエも背後から迫る轟音と風圧に戦慄した。
(そんな……こんな勢い……!)
直線半ば、フリアノンはクロエにあっさりと並び――
そして、次の瞬間には軽々と抜き去っていた。
「いやっ……やだ……やめて……!」
クロエは必死に念動力を絞り出したが、その背中はあっという間に遠ざかっていく。
「くっ……ああああああっ!!」
ゴール前、フリアノンはさらに加速を続け、クロエを大きく引き離してゴール板を駆け抜けた。
モニターに結果が映し出される。
1着 フリアノン
2着 クロエ
観客席が歓声と拍手に包まれた。
フリアノンはゴール後、減速しながら深く息を吐き、涙を滲ませた。
ミオの声がマイク越しに響く。
「ノンちゃん! 最高やったで! 完璧やった!」
「……ありがとうございます……!」
そして後方で、ゴール後に項垂れるクロエの姿があった。
「……そんな……私が……あんな簡単に……!」
彼女は震える唇を噛み締め、拳を握りしめた。
その瞳には悔しさが滲み、プライドをズタズタにされた苦痛が浮かんでいる。
(どうして……私が……あんな子に……)
フリアノンは振り返り、クロエの顔を見つめた。
クロエは目を逸らし、そのまま歩き去っていった。
(クロエさん……ごめんなさい。でも……これが私の走り……!)
勝者と敗者。
歓喜と屈辱。
二人の女王候補が、静かに明暗を分けた。




