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サイドライブ  作者: 碗古田わん


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第六十四話「女王決戦前夜」

夜の白雷ジムは静まり返っていた。明日はついにクイーンズカップ本番。女子サイドールたちにとっては、一年に一度しかない最高峰の舞台だ。


トレーニングルームの片隅で、フリアノンはひとり、念動力制御の感覚を確かめるように目を閉じていた。推進装置の音はなく、ただ心を落ち着けるための瞑想に近い作業だ。


「……大丈夫、私……大丈夫……」


小さくつぶやく声が、冷えた床に吸い込まれていく。

浮かぶのは、クロエの鋭い眼差し。

(せいぜい、私に見合う舞台に上がってきなさい)

あの言葉がずっと胸を刺していた。


ドアが開く音がして、フリアノンは慌てて目を開ける。


「ノンちゃん、まだ起きとったんか」


ミオだった。彼女は夜の見回りの帰りらしく、肩にタオルを掛けたまま、柔らかく笑みを向けてくる。


「……ミオさん……」


「落ち着かんのやろ? 明日が大事なレースやって、わかっとるから」


フリアノンはうつむいて小さく頷いた。


「……はい……でも……不安で……クロエさん……強いから……」


「ふふっ、そらそうや。あの子は去年のクイーンズカップ勝者や。せやけどな、ノンちゃんは皇帝杯で何度も男サイドールらに勝ってきたんやで? 女子限定戦にビビる必要あらへん」


ミオはそう言うと、フリアノンの頬を優しく両手で包み込む。


「ノンちゃんは、ノンちゃんの走りをすればええ。そしたら、結果はあとからついてくる。な?」


「……うん……ありがとう、ミオさん」


微笑むフリアノンの瞳に、小さな決意の光が宿った。


その頃、烈風ジムの一室でも、ひとりの少女が夜を過ごしていた。


「クロエ、お茶が入りましたよ」


トレーナーが湯気の立つカップを差し出す。クロエは書類を睨みながら、それを片手で受け取った。


「ありがとう」


「明日は、フリアノンとの初対戦になりますね。どうです? 皇帝杯を春秋制覇した子ですが」


クロエはカップを口に運び、ほのかに甘い香りを吸い込みながら、冷たい笑みを浮かべる。


「別に。皇帝杯? 混合戦なんて興味ないわ。……でも、女子戦線で私に挑むっていうなら、容赦はしない。それだけ」


トレーナーは苦笑した。クロエはいつもこうだ。己のプライドと信念だけを剣にして、生きる少女。


「……お母様も喜びますよ、クイーンズカップ二連覇となれば」


「……そうね」


クロエの金色の瞳が、一瞬だけ柔らかな光を帯びる。だがすぐに、鋭い光へと戻った。


「……明日、勝つのは私。それだけよ」


一方、白雷ジムの寮室に戻ったフリアノンは、ベッドの上で膝を抱えていた。

ふと、サイドテーブルに置かれた小さな写真立てに目を落とす。


――おばあちゃんと一緒に撮った写真。


(おばあちゃん……見ていてください……私……勝つから……)


眠りに落ちる前、フリアノンはそう心の中でつぶやいた。


明日、決戦のときが来る。

女王の座を懸けた、女子サイドール最高峰のレースが――。

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