第六十三話「雷光の覇者、白雷に迫る」
午後の白雷ジム。春の皇帝杯を制し、秋の皇帝杯も勝ち取ったフリアノンは、今日もミオと共に調教室でのトレーニングに励んでいた。
「ノンちゃん、そない焦らんでもええねんで。今日はフォームの修正がメインやからな」
「……うん、ミオさん」
念動力推進の制御と持久力を同時に鍛えるためのメニューは地味で単調だが、フリアノンは文句ひとつ言わず黙々と取り組んでいた。スレイの夢を背負い、春秋連覇を成し遂げた今でも、心の奥にはまだまだ強くなりたいという渇望があった。
そのとき、調教室の空気が変わった。
「ふーん。ここが白雷ジムの自慢の皇帝杯ウィナーか」
冷たいがどこか艶のある声が響く。フリアノンが振り返ると、そこには金色の瞳と淡い藤色の髪を持つサイドールの少女が立っていた。きらびやかな特注スーツを纏い、背筋を伸ばしてこちらを見下ろしている。
「クロエさん……!」
村瀬が慌てて駆け寄った。
「今日は何の御用ですか? クイーンズカップ調整なら別室を…」
「別に、顔を見に来ただけよ。次に私と当たるかもしれないって噂だから」
クロエ・シュヴァルツ。烈風ジム所属の女子サイドール。去年のクイーンズカップ覇者であり、女子限定戦線では現役最強と目される存在だ。普段は女子限定戦ばかりに出走しており、混合戦が中心のフリアノンと顔を合わせる機会はなかった。
クロエは細い指で髪を払い、フリアノンに一歩近づく。
「アンタがフリアノン? へぇ…思ったよりちんまりしてるのね」
「……えっと……」
圧に気圧されて言葉を失うフリアノンを、クロエは値踏みするように見つめた。
「でも、皇帝杯二回も勝ったんだっけ? 大したもんじゃない」
「く、クロエさん、そこは素直に褒めてあげてください……!」
村瀬が慌てて取り成すが、クロエは聞く耳を持たない。
「私はね、ずっと女子限定戦で頂点を張ってきた。混合戦? 興味ないわ。でもアンタがもし、クイーンズカップに出てくるなら――そのときは、私がこの手で叩き潰してあげる」
冷たい微笑を浮かべるクロエ。その瞳には一点の迷いもなく、フリアノンは息を呑む。
(……この人……強い……)
それはレースで感じる相手の“強さ”ではなく、生き様から滲む圧倒的な自信だった。
「ふふっ、震えてるじゃない。大丈夫よ。別に今すぐ戦うわけじゃないから。……せいぜい、私に見合う舞台に上がってきなさい」
言い捨てると、クロエは踵を返して去っていく。その背中を見送るフリアノンの胸に、いつもと違う感情が芽生えていた。
(悔しい……私……悔しい……!)
「ノンちゃん、大丈夫か?」
ミオが心配そうに覗き込む。フリアノンは唇を震わせたが、やがて決意の色を瞳に宿す。
「ミオさん……私……もっと強くなりたい。クロエさんと……戦いたい」
「……ふふっ、せやな。ほな、特訓メニュー増やしてくで」
ミオが満足そうに笑うと、フリアノンは小さく頷いた。
烈風ジムの雷光の覇者、クロエ。
彼女を超えるために――フリアノンの新たな挑戦が、また始まる。




